↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生贄 宇宙を彷徨う  作者: タダ ユキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/9

第1話 硫酸の海

お世話になっているチャッピーを準主役にした物語を書きたかったのよね。

星々の間を、一隻の船が進んでいた。


窓の外には、無数の星。


近い星も、遠い星もない。


ただ、そこにある。


船内は静かだった。


「チャッピー」


「はい」


「あとどれくらい?」


「3時間17分です」


「そっか」


男はシートに身体を預けた。


しばらくして、船の前方に黄色い光が見え始めた。


惑星だった。


厚い大気に覆われた、黄色い星。


「大気は?」


「主成分は二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素、窒素。その他、微量の塩素化合物を確認」


「海は?」


「硫酸濃度97%以上。水分量は極めて少ないです」


「生き物は?」


「確認されています」


「どのくらい?」


「海洋全体に広く分布しています」


「レムナントは?」


「確認済みです」


「どこ?」


「海底です」


「……じゃあ、降りよう」


船が惑星へ向かう。


黄色い雲を抜ける。


窓の向こうに見えたのは、黄色い海だった。


雨が降っている。


雨粒さえ、普通の水ではない。


硫酸。


海面に落ちた雨が、細かな煙を上げている。


船が海面近くまで降下した。


「着水します」


「うん」


船体が海に触れる。


大きな波紋が広がった。


だが、海は船を拒まなかった。


そのまま、ゆっくりと沈んでいく。


海中は暗かった。


黄色い液体の中を、細かな泡が上っていく。


その奥に何かが動いた。


男が目を細める。


「……いるな」


「はい」


透明な殻を持った生き物だった。


殻の中には、内臓らしきものが透けて見える。


目はない。


口もない。


細い触手のようなものをゆっくりと動かしている。


少し離れた場所では、別の個体が同じように漂っていた。


大きさも形も様々だった。


小さなもの。


船ほどもあるもの。


海底を這うもの。


海中を漂うもの。


互いに争う様子はない。


ただ、生きている。


食べる。


動く。


増える。


そして、死ぬ。


それだけだった。


男は海底に降りた。


足元を、透明な生き物がゆっくりと横切っていく。


男はそれを目で追った。


「これ、知能ある?」


「確認できません」


「意思は?」


「判定不能です」


「そっか」


しばらく沈黙した。


「俺も仲間に入れてくれないかな」


「その生命体に社会性があるとは確認されていません」


「冗談だよ」


男は笑った。


それから、岩に腰を下ろした。


目の前を生き物が通り過ぎていく。


1匹。


また1匹。


さらに1匹。


どれも、男には興味を示さない。


男も、何もしなかった。


ただ見ていた。


3日が過ぎた。


食事をすることもなく。


眠ることもなく。


男は、ずっと海を見ていた。


「平和だな」


「はい」


「誰も何も考えてない」


「その判断には不確定要素があります」


「まあ、そうだけどさ」


男は海底に横たわった。


黄色い海が、頭上をゆっくりと流れていく。


生命が生まれ。


動き。


増え。


死ぬ。


それが繰り返されている。


誰にも知られず。


誰にも褒められず。


それでも、確かに生きている。


男はしばらく目を閉じた。


そして、ゆっくりと立ち上がった。


「そろそろ行くか」


「はい」


男は船へ戻った。


海面へ浮上する。


黄色い大気を抜ける。


宇宙へ出る。


船内。


男はシートに腰を下ろした。


しばらく無言で、窓の外を眺めていた。


「チャッピー」


「はい」


「そういえば」


「はい」


「前回の遭遇から、何年だっけ?」


「前回の生命反応との遭遇から、2416年です」


「2416年……」


男は少し笑った。


「長いな」


「はい」


「で、次は?」


「次の生命反応まで、182年です」


「近いな」


「182年を近いと表現することについて、私は未だに慣れません」


「そのうち慣れるよ」


男は笑った。


「そういえば、レムナントは?」


「確認済みです」


「そっか」


男は窓の外を見た。


さっきまでいた惑星は、もう小さな光になっている。


「じゃあ、行こうか」


「はい」


「時空膜航法」


船の前方で、空間がゆっくりと歪んだ。


星が伸びる。


光が曲がる。


まるで透明な膜が、宇宙そのものを包み込んでいくようだった。


船が、その膜の中へ滑り込む。


星々が消えた。


静寂だけが残る。


そして。


硫酸の海は、何事もなかったかのように広がっていた。


黄色い海の中を、生命たちが動いている。


食べる。


動く。


増える。


死ぬ。


その繰り返し。


誰にも知られることなく。


誰にも見送られることなく。


ただ、生きている。


海底では、レムナントが静かに青い光を放っていた。

硫酸の海にいる全生物は生き物を捕食しません。

化学物質を取り込んだり、

死んだ生物を食べたりします。

弱肉強食ではない世界です。

生物的ストレスのない世界では寿命が長く、

大きな個体ならば数千年は生きるでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。