第132話 第四の選択
「第四の選択は」
少女は。
まっすぐ俺を見る。
「私が、選ぶから」
「……」
誰も。
声を出さなかった。
未来の世界樹。
千年後の街。
そして。
その中心に立つ。
小さな少女。
俺は。
少女の顔を見つめる。
やはり。
どこかで。
見たことがある。
でも。
思い出せない。
「……お前」
「うん」
「俺を知ってるのか?」
少女は。
頷く。
「知ってる」
「いつから?」
「ずっと」
「……」
「あなたが」
「最初の世界を」
「作るより前から」
胸の奥が。
ざわつく。
また。
“最初より前”。
「じゃあ」
俺は。
ゆっくり。
聞いた。
「お前は」
「俺が」
「忘れた存在なのか?」
少女は。
首を振った。
「違う」
「……」
「私は」
「忘れられたんじゃない」
「まだ」
「選ばれていない」
「……」
その言葉。
どこかで。
聞いた。
「ミライ……?」
俺が。
振り返る。
ミライが。
静かに。
少女を見ていた。
「……似てる」
「何が?」
「私と」
「……」
少女は。
少し。
笑う。
「うん」
「私も」
「まだ」
「決まってない」
「でも」
「ミライとは」
「少し違う」
「どう違う?」
少女は。
空を見る。
「ミライは」
「まだ選ばれていない未来」
「私は」
「選ばれることを」
「待つ未来」
「……」
俺は。
言葉を失う。
未来。
選ばれる。
待つ。
それは。
今まで。
俺たちが。
何度も。
繰り返してきたことだった。
「じゃあ」
「お前は」
「何を選ぶ?」
少女は。
笑った。
「それを」
「これから」
「決めるの」
「……?」
「第四の選択は」
「答えを決めることじゃない」
「……」
「選ぶ権利を」
「誰に渡すかを」
「決めること」
「……」
俺は。
眉を寄せる。
「誰に?」
少女は。
俺を見る。
「私に」
「……」
「今まで」
「私は」
「誰かが」
「私の未来を」
「決めるのを」
「ずっと待ってた」
「……」
「あなたが」
「私を選ぶのを」
「世界が」
「私を選ぶのを」
「未来が」
「私を選ぶのを」
少女は。
自分の胸に。
手を当てる。
「でも」
「待ってるだけじゃ」
「何も始まらない」
「……」
「だから」
「私は」
「自分で」
「選ぶ」
――。
世界樹の時計が。
大きく。
鳴った。
第四の選択。
空に。
一つの問いが。
浮かぶ。
「未来を、誰に選ばせる?」
俺は。
その文字を。
見上げた。
「……」
答えは。
簡単だった。
「自分」
少女が。
頷く。
「うん」
「未来は」
「自分で選ぶ」
「うん」
「誰かに」
「決めてもらわない」
「うん」
「でも」
俺は。
少女を見る。
「誰かが」
「助けてくれることまで」
「拒否しなくていい」
「……」
少女は。
少し。
驚いた。
「助けてもらって」
「一緒に考えて」
「それでも」
「最後は」
「自分で決める」
「……」
少女の目に。
涙が。
浮かんだ。
「それ」
「ずっと」
「聞きたかった」
「……」
「誰かに」
「選んでほしいんじゃない」
「誰かに」
「捨ててほしいんでもない」
「ただ」
「自分で」
「選んでも」
「いいんだって」
「言ってほしかった」
俺は。
頷く。
「なら」
「何度でも」
「言う」
「お前は」
「自分で選んでいい」
少女は。
笑った。
「ありがとう」
――。
その瞬間。
世界樹が。
大きく。
光った。
「第39原則――未来を自分で選ぶ自由。」
そして。
少女の胸に。
小さな光が。
灯った。
「……」
少女は。
その光を。
見つめる。
「これ」
「何?」
俺が聞く。
少女は。
首を振った。
「分からない」
「でも」
「温かい」
「……」
未来の俺が。
その光を見て。
小さく。
呟いた。
「それは」
「可能性だ」
「……」
少女が。
未来の俺を見る。
「知ってるの?」
「ああ」
「でも」
「僕も」
「初めて見る」
「……」
未来の俺は。
少し。
笑う。
「千年間」
「世界は」
「いろんな未来を」
「見せてくれた」
「でも」
「まだ」
「見たことがない光が」
「こんなにあるとは」
少女は。
嬉しそうに。
笑った。
「じゃあ」
「千年後でも」
「未来は」
「全部決まってないんだね」
「うん」
「一つも」
「決まってない」
「……」
俺は。
その言葉を。
聞いて。
少しだけ。
安心した。
千年後。
未来の俺が。
存在している。
街も。
世界も。
続いている。
それでも。
未来は。
終わっていない。
――。
その時。
ユウが。
少女に近づいた。
「ねえ」
「なに?」
「君も」
「名前がないの?」
少女は。
頷く。
「うん」
「じゃあ」
「僕と」
「一緒だね」
「あなたは?」
「僕は」
「ユウ」
「自分で」
「決めた」
「そうなんだ」
少女は。
笑う。
「私も」
「名前」
「自分で決める」
「いつ?」
「まだ」
「分からない」
ユウは。
頷いた。
「それでいいと思う」
「……」
少女が。
笑う。
「うん」
――。
俺は。
ふと。
気づいた。
「……待て」
「どうした?」
ユウトが。
振り返る。
「この少女」
「未来から」
「来たんだよな?」
「そうみたいだね」
ミナが。
答える。
「じゃあ」
「なんで」
「まだ」
「名前がない?」
「……」
誰も。
答えない。
少女自身も。
少し。
困った顔をする。
「私は」
「未来から来た」
「でも」
「私が」
「生まれた未来は」
「まだ」
「確定してないから」
「……」
「だから」
「私自身も」
「まだ」
「確定してない」
俺は。
息を呑む。
「……」
それは。
つまり。
この少女は。
未来の人間でありながら。
まだ。
未来に。
存在するかどうかさえ。
決まっていない。
「それでも」
少女は。
笑う。
「私は」
「ここにいる」
「……」
「だから」
「存在していいよね?」
俺は。
即答した。
「ああ」
「もちろん」
少女は。
目を閉じる。
「ありがとう」
――。
その時。
俺の胸の奥で。
また。
光が。
揺れた。
一つ。
二つ。
三つ。
今まで。
積み重なった。
可能性。
記憶。
過去。
未来。
その中に。
新しい光が。
一つ。
加わった。
けれど。
それは。
俺の中に。
入ってこなかった。
俺の胸の前で。
止まった。
「……?」
光は。
少女のところへ。
戻っていく。
少女が。
両手で。
受け止めた。
「これは」
「あなたのものじゃない」
「……」
「私の」
「可能性」
「そうか」
俺は。
笑った。
「なら」
「持っていろ」
少女は。
大事そうに。
胸に抱く。
「うん」
――。
第四の選択。
終了。
世界樹の時計が。
動く。
十三日目。
残り。
一。
「……」
一。
最後の一つ。
俺たちは。
誰も。
言葉を発さなかった。
世界樹の枝が。
静かに。
揺れている。
そして。
時計の針が。
止まる。
「最後の選択。」
空が。
暗くなる。
未来の街から。
光が。
一つずつ。
消えていく。
「……!」
「何だ?」
ユウトが。
叫ぶ。
未来のミナが。
空を見る。
「始まる」
「何が?」
「最後の日」
「……」
「十三日目の」
「最後の選択が」
「始まる」
世界樹の幹に。
巨大な。
文字が。
浮かんだ。
「最後の選択――誰も選ばない。」
「……」
俺は。
その文字を。
見つめる。
「誰も」
「選ばない?」
未来の俺が。
呟く。
「そうか」
「……何が?」
「ここまで来て」
「やっと」
「分かった」
「何が?」
未来の俺は。
笑った。
「最後の日を」
「始める者は」
「誰か一人じゃ」
「なかったんだ」
「……」
「誰も」
「選ばない」
「だからこそ」
「みんなが」
「選ぶ」
――。
その瞬間。
世界樹の根元から。
巨大な光が。
噴き上がった。
世界が。
揺れる。
未来の街が。
揺れる。
俺たちの世界も。
揺れている。
そして。
空に。
一つの。
巨大な扉が。
現れた。
黒い扉。
白い扉。
木の扉。
すべてが。
重なったような。
巨大な扉。
その中央に。
一言。
「明日」
「……」
俺は。
その文字を。
見つめる。
明日。
それは。
今まで。
何度も。
俺たちが。
選んできた言葉。
けれど。
今回は。
違う。
扉の向こうに。
何があるのか。
分からない。
未来でもない。
過去でもない。
終わりでもない。
始まりでもない。
ただ。
明日。
俺は。
一歩。
前へ。
進む。
「レオン」
アリアの声。
「大丈夫?」
「……ああ」
「怖い?」
「怖い」
「……」
「でも」
俺は。
笑う。
「行きたい」
アリアも。
笑った。
「じゃあ」
「一緒に」
「行こう」
「うん」
ルナも。
隣に来る。
「私も」
ユウトも。
「俺も」
ゼロ。
『僕も』
ハジメ。
「僕も」
新しいハジメ。
「僕も」
ソウマ。
「僕も」
ハル。
「僕も」
カエデ。
「私も」
ミライ。
「……私も」
未来のミナ。
「もちろん」
そして。
未来の俺。
「僕も」
全員が。
扉の前に。
立った。
でも。
誰も。
扉を開けない。
俺は。
みんなを見る。
「……」
誰かが。
一人で。
開けるんじゃない。
誰かに。
選ばせるんでもない。
俺たちは。
今。
同じ場所に。
立っている。
「せーの」
誰かが。
言った。
たぶん。
ユウトだった。
俺は。
笑う。
「じゃあ」
「せーの」
全員が。
扉に。
手を置いた。
――。
一斉に。
押す。
ギィィィィィ――。
扉が。
開く。
その向こうに。
広がっていたのは。
何もない。
真っ白な世界。
でも。
その中央に。
小さな。
家があった。
「……」
俺は。
息を呑む。
見覚えがある。
あの家。
俺が。
初めて。
「帰る場所」として。
選んだ家。
ハルが。
目を見開く。
「……僕の家」
「違う」
俺は。
首を振る。
「……え?」
「俺たち全員の」
「最初の家だ」
「……」
その家の。
煙突から。
白い煙が。
上がっている。
窓には。
明かり。
そして。
玄関の前に。
一人の人影。
誰かが。
立っている。
俺は。
目を凝らす。
「……誰だ?」
人影が。
ゆっくり。
振り返る。
そこに。
いたのは――。
俺でもない。
ユウトでもない。
ルナでもない。
ハジメでもない。
ゼロでもない。
未来の俺でもない。
その人影は。
笑った。
そして。
言った。
「おかえり」




