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硝子玉の宇宙、箱庭の娘たち【新版】  作者: 硝子玉の宇宙
魔力生命体

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第45話-見えない仕事

魔力生命体の中には、魔力核が形成した個体固有の術式を持つものがいる。


中枢術式。


その生命が何であり、どのように世界へ作用するかを、魔術として形にしたものだ。


人間は長い歴史の中で、魔力生命体の中枢術式を観測し、その構造を人間が扱える技術へ置き換えてきた。遠く離れた惑星をつなぐ星間通信。広大な宇宙を渡る航行技術。都市の環境制御や、小さな生活用品に組み込まれた術式にも、起源をたどれば魔力生命体の性質へ行き着くものがある。


その恩恵は、文明を大きく発展させた。


同時に、魔力生命体を資源として見る価値観も生んだ。


技術の宝庫。労働力。兵器。奴隷。愛玩動物。あるいは、人間社会から排除すべき敵性存在。


魔力生命体を一人の市民として受け入れ、共に文明を築く惑星もある。反対に、言葉を話す個体であっても所有物として売買する文明もある。人間社会における魔力生命体の扱いは、惑星ごとの法律、宗教、歴史、技術水準によって大きく異なっていた。


箱庭の娘たちもまた、外部社会からは魔力生命体の一群として認識されている。


レトが扱う硝子質と空間の魔術。ロジーが扱う記録と情報の魔術。どちらも、本人の魔力核が形成した中枢術式を根に持つ固有の力だった。


レトの術式が解析され、再構築されれば、一つの組織や惑星が突出した軍事力を持つ可能性がある。


ロジーは、さらに危険だった。


情報魔術を独占した組織が、星間社会の頂点へ立つことさえ考えられる。しかも、ロジーの術式については、惑星監理局でさえ全容を把握していない。何に届き、何を記録し、どこまで世界へ作用できるのか。


誰にも分かっていなかった。


だから、惑星監理局が箱庭の娘たちを外出させる時、同行職員だけをつけて終わることはない。


行き先を調査する。


関係企業を調べる。


周辺の犯罪組織、研究機関、各国諜報部門の動向を確認する。


現地では一般人に扮した護衛を十名以上配置し、移動経路、退避先、医療拠点、転移不能時の帰還経路まで用意する。


そこまでして、なぜ外へ出すのか。


人間社会を学ぶため。


社会性を獲得するため。


情緒を発達させるため。


理由を挙げれば、いくらでもある。


極論を言えば、人間を好きでいてもらうためだった。


強大な力を持つ彼女たちが、人間を敵と認識しないように。


そして何より、人間社会の中に、自分たちが生きてよい場所があると知ってもらうために。


その外出を成立させる仕事は、箱庭の娘たちには見えない。


見えない場所で、監理局職員たちは働いていた。


短編1

【外出申請、却下 】


外出申請第三四一七号は、三枚の申請書と二十八枚の添付資料で構成されていた。


申請者欄には、レト、ロジー、エル。


目的地は、商業惑星ネイラの第六環状区画で開かれる工芸祭だった。


レトが書いた目的欄には、大きな字で「きれいな硝子をいっぱい見る」とある。ロジーはその下へ、出店一覧、撮影予定、食事候補、混雑予測を添付していた。最後の一枚には、エルが描いたらしい三人の絵と、いくつもの星が並んでいる。


副長は資料を一枚ずつ確認し、目的欄だけを少し拡大した。


丁寧に整えた金髪。細身の長身。執務机へ向かっている時も、口元には柔らかな笑みが浮かんでいる。


「文字の大きさが、前回の一・三倍になっていますね」


隣に立つ監理局書記官は、申請書から顔を上げなかった。


「重要性を表現したものと思われます」


「では、却下理由を文字規格違反にしましょうか」


「該当する規定はありません」


「残念です」


副長は申請を技術班、調査班、外務班へ回した。


公開行事であり、家族連れも多い。周辺の犯罪発生率は低く、現地政府との協力体制も整っている。申請内容だけなら、警戒度を上げる理由はなかった。


それでも即日承認はしない。


箱庭の娘たちを外出させる場合、監理局は目的地だけでなく、運営団体、協賛企業、設備会社、警備部門、周辺施設まで調査する。外出予定は必要な職員以外へ知らせず、現地には一般客に扮した護衛を先行させる。


三日後、魔術機材整備士が入場設備の設計資料を持って監理班へ来た。


油の染みた作業服ではなく、珍しく新しい上着を着ている。袖だけは作業台へ擦ったらしく、すでに薄い汚れがついていた。


「工芸祭の入場門、検査が深すぎます」


「妙、ではなくなりましたね」


「報告書に書ける言葉を選んできました。褒めてください」


「上着も含めて努力は認めます」


魔術機材整備士は満足した様子もなく、設計図を展開した。


来場者が門を通過すると、危険物、攻撃術式、未申告の魔術機材を検査する。そこまでは公共施設で広く使われている設備と変わらない。


問題は、検査装置に追加された適応診断機能だった。


本来は医療施設で使われる仕組みで、患者の魔力循環に異常が見つかった場合、既存の症例情報と照合しながら測定項目を増やす。工芸祭の入場門では、その基準が変更されていた。


登録された一般的な人間の魔力構造との差異が大きいほど、より深い領域まで測定する。


魔力循環の経路、魔力核の有無、術式形成時に生じる出力変化。中枢術式そのものを読み取ることはできなくても、何がどこで形成され、魔力がどのように移動するかという断片は残る。


「人間だけを想定した危険物検査には必要ありません。差異が大きいほど検査を深めるので、実質的には魔力生命体を見つける装置です」


副長は設計図を拡大した。


「特定の性質へ合わせた形跡は」


「ありません。誰でもいいんでしょう。既存資料にない魔力構造なら」


工芸祭には、魔力生命体との共存を掲げる団体も参加する。人間と共に暮らす魔力生命体が来場することを、運営側も広報していた。


誰か一人を狙う必要はない。珍しい個体が門を通れば、その時だけ詳細な情報を得られる。


対象を選ばないことは、悪意がない証明にはならなかった。


分析官が設備会社の調査結果を持ってきた。


「設立から二年。行政処分なし。表向きの資金にも異常なし。役員の一人が生体魔術研究所の出身ですが、それだけで黒と呼ぶほど私は親切ではありません」


「あなたの親切さは、今回の判断材料ではありませんね」


「助かります。普段から評価されていないので」


分析官は通信経路を表示した。


入場門で得た検査結果は、会場内の警備設備へ一時保存された後、設備会社の保守拠点へ送られる。来場者向けの規約には、危険物検査に伴う情報処理としか記載されていない。


保守拠点より先の経路は暗号化されていた。


「運営団体は知っていますか」


副長が尋ねると、文明調査員が資料をめくった。


「安全基準を満たした市販設備だと説明されています。担当者は追加機能を知らなかった可能性が高いです。現時点で、運営団体を共犯とは判断できません」


「開催まで四日ですか」


「はい」


調査を続ければ、暗号を解析できる可能性はある。しかし、外出日までに安全性を証明できる保証はなかった。


副長は申請書の承認欄を開いた。


レトたちが楽しみにしていることは、判断材料にならない。そう考えた直後、彼は自分がわざわざそう考えたことに気づいた。


判断材料にしたくないのではない。


楽しみにしているからこそ、通過させたくなかった。


誰かが彼女たちを門へ通し、本人の知らないところで身体の内側を読み取る。その可能性を思い浮かべた時点で、副長の結論は出ていた。


未同意の生体情報取得が行われる危険を排除できない。申請書へ記す理由としては、それで十分だった。


「申請は却下します」


魔術機材整備士が顔を上げた。


「研究目的だと断定できていません」


「断定できないからです。危険が確定してから却下する制度では、申請審査の意味がありません」


却下理由には、会場設備の検査内容および情報管理の安全性を確認できないため、とだけ記載した。


三人へ未確定の犯罪疑惑まで伝える必要はない。


一方で、調査は継続した。


文明調査員が運営団体へ接触し、外務班が現地政府を通じて設備の再検査を求めた。分析官は保守拠点の通信記録を追い、魔術機材整備士は同型装置を取り寄せて内部構造を調べた。


検査門は、開催前日に撤去された。


設備会社は、医療用機能が誤って残った設計上の不備だと説明した。運営団体は契約を解除し、工芸祭は別の検査設備を使って予定通り開催された。


「機能が残っただけなら、測定基準まで変更されている理由を説明できません」


魔術機材整備士は、設備会社の回答を読んで言った。


副長も同意見だった。


ただし、設計変更を指示した者を特定できる記録は残っていない。保守拠点を調べた現地当局は、交換された記録媒体が二つ不足していることを確認したが、持ち出した者は分からなかった。媒体に実際の来場者情報が記録されていたかも確認できない。


設備会社の役員は関与を否定し、生体魔術研究所との連絡記録からも直接の指示は見つからなかった。


立件できる証拠はない。


副長は調査報告書の末尾へ、未解決と記した。


監理局書記官が、その表記を確認する。


「設備は撤去され、三人が接触する危険もなくなりました。事案終了とすることは可能です」


「装置を外したことと、目的が消えたことは同じではありません」


「継続監視ですか」


「低い優先度で。警戒対象へ登録し、関連する申請があった場合に照合してください。見つからない相手を全力で追い続けるほど、監理局は暇ではありません」


「承知しました」


「それから、次の外出申請が来た場合は、目的欄の文字規格を検討してください」


監理局書記官は無表情のまま答えた。


「規定へ追加する予定はありません」


数日後、別の工芸展示施設への外出申請が届いた。


技術班による設備検査は完了しており、現地政府からも完全な設計情報が提出されている。護衛配置と退避経路にも問題はなかった。


副長は最後に目的欄を開いた。


「ぜったい、こんどはいきたい」と、前回よりさらに大きな文字で書かれている。


副長は口元を手で隠し、承認欄へ署名した。

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私の活動場所です! 総合リンクです! TiktokやYouTube、lineスタンプなどの総合リンクになってます!! よかったらみに来てくださいね! 箱庭の娘たちのイラストや動画をAI生成していますっ(*´▽`*) おはなしが気に入ってくださったら、評価やリアクション、ブックマークなどしてくださると、とっても嬉しいです(≧∀≦*)
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