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判決

「それでは、今から判決を言い渡します。」


裁判長は毅然とした口調で言う。そして、真っ直ぐ被告人を見つめた。


被告人は下を向いて黙っていた。


弁護人も下を向いて黙っていた。


「主文。」


裁判長は、手元の判決文に目を落とした。


「被告人は無罪。」


傍聴席には、軽いざわめきが起こった。


検察官は天井を見ながら黙っていた。


「静粛にしてください。今から判決理由を読みます。」


「被告人が、被害者に対して特別な感情を持っていたことに関しては、SNS記録、証人の証言、ゴミ箱に捨てられた『唐揚げちゃん』などを証拠として評価して、特別な感情があったと認定する。被告人の殺意に関しては、被害者の行動によって、被告人が被害者に殺意を持ったことを認める。防犯カメラ映像、ドライブレコーダー映像から、被告人と被害者の間に接触があったと認定する。被告人が、前日からピーナッツ成分を周到に準備していたことを認める。被告人が、ピーナッツパンに意図的にピーナッツを付着させたことを認定する。これらの点から、被告人が被害者に対して、死んでも構わないという思い、つまり『未必の故意』を持っていたことを認めるーー」


検察官は、裁判長を見つめた。


弁護人は、裁判長を見つめた。


傍聴席も、裁判長を見つめた。


被告人は下を向いて黙っていた。


「しかしながら、被告人が被害者に対して積極的にピーナッツ成分を摂取させたとは認定しない。被告人は、被害者に対して、ピーナッツを侵入させようとする直前になって、逡巡したと推定できる。これは、ドライブレコーダー映像から推定できる。被害者と被告人の接触を意図的に生じさせたのは被害者であり、被告人が被害者に対して有形力を行使したとは言えない。よって、被告人を罪に問うことはしない。」


裁判長は毅然とした表情で被告人を見た。


被告人は下を向いて黙っていた。


「今回、あなたを罪に問うことはしません。しかしながら、あなたの行動によって、結果的にひとりの命が失われました。それにより苦しんでいる人がおられるのも事実です。被告人は、これからの人生では、他者に対して適切なコミュニケーションをとることに励んでください。」


被告人は下を向いて黙っていた。


裁判長は左陪席裁判官の女性に視線を向けた。


彼女は小さく頷く。


「被告人。あなたは、あの日の朝、ピーナッツパンを食べていました。」


被告人はゆっくりと顔を上げて、陪席裁判官の女性を見つめた。


陪席裁判官は、被告人に微笑みかけた。


被告人は、しばらく黙っていたあとで、少しだけ笑った。


静まり返った法廷に、エアコンの強い空調音だけが響き渡っていた。


暑い8月の出来事だった。

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