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勇者送還

 女王はバルコニーに出た。群衆は女王の姿をみてどよめく。女王は声を張り上げるがあまりの量の群衆に声が届かない。海斗はアイテムボックスから以前【魔法陣】グルグルと製作した拡声器を取り出して、女王に渡した。


 女王は美しい笑顔で海斗に礼を言った。海斗はどこか大人びた様子のルシアに胸がざわつく。女王は群衆に向かって宣言した。


「暗愚の王は打ち倒された!これからはこのカエサル・ソー・ルシアが女王となる!」


 国民達は唐突な宣言だったにも関わらず、女王の言葉の内容を理解すると熱狂した。地響きのような歓声がバルコニーを揺らす。


「それに伴い!小林海斗の処刑は取り消すものとする!」


FOOOOOOOOOO!


 国民達は歓声を上げて、海斗の無事を喜ぶ。口々に国民が海斗の名前を呟いた。


「海斗!」

「かいとぉ!」

「海斗さぁん!」

「海斗!海斗!」


 海斗は国民からの声援を受け取ると、思わず目頭が熱くなった。それでも海斗は真っ直ぐ前を見た。頬を伝う涙はバルコニーと群衆との距離もあって、海斗が泣いていたことはバレなかった。


 海斗は決意を新たにする。


(こんなに僕のことを大事に思ってくれてる人たちがいるんだ。僕の生涯をかけてこの人たちのためにできることをしていくぞ)


「海斗様、このティアラを私の頭に」


「いや、流石にそれはまずいんじゃ」


 海斗がバルコニーから下を見渡すと、国民達は新しい女王と海斗の無事を祝って割れんばかりの歓声を上げていた。


 海斗がティアラを持ったのを見て、国民達はもはや狂乱状態だった。海斗と女王の呼び声が熱を帯びて高まっていった。海斗は観念してティアラを受け取り、跪くルシアの頭にそっと載せた。


 国民達の歓声は爆発した。熱狂する人々は隣人と抱き合い、今日という日を分かち合った。


 海斗は女王に跪いた。女王は海斗の行動を理解して、立ち上がり海斗に自分の手を差し出した。海斗はその手に唇をあて、騎士の誓いを女王と交わした。


「【騎士】海斗だ!」

「かいとぉ!【騎士】かいとぉ!」


 人々の熱は止まることを知らずにそのまま自然な流れで集まった人々は祭りを開いた。人々は踊り狂い、屋台が開かれ、人々は夜が明けるまで語り尽くした。


 新しい女王と【騎士】小林海斗の復活を祝った祭りは記念日として祝日になり、その後も脈々と受け継がれていくこととなる。


〜三日後〜


 海斗と【勇者】東堂春樹、【聖女】フレシアは王の間に呼ばれていた。


「小林海斗よ。戴冠式の務めご苦労でした」


 海斗は跪いて答えた。


「もったいないお言葉です。陛下」


「そして【勇者】いや、ただの東堂春樹よ。これまでの務めご苦労でした」


 春樹はぽけっとした顔で女王の言葉を聞いた。


「え?ご苦労ってどういう意味ですか?」


「あなたは一度乱心し、私たちに刃を向けました。本来ならば極刑は免れないところですが、元々を言えば、先王が行った勇者召喚であなたを無理矢理この世界につれてきたのは私たちであります」


「そ、それがどうしたんだ。俺はこれからも【魔王】討伐に向かって頑張るぞ!」


 女王は春樹の言葉を耳に入れず、話を続ける。


「そして、今、【魔王】との不可侵条約を結び、あなたの役割は無くなりました。さらに先日【騎士】海斗から申し出がありました。ニホンに戻る魔法陣が完成したと」


「なっ、嘘だろ!」


 海斗は黙って頷く。


「【魔法陣】グルグルと【全能】アウラ・デウス・マキナと【虹帝】神山カケルが協力して、ニホンへ帰る魔法陣を完成させた。春樹、君次第だ。君はこの世界で自由に生きたいならそれでいい。もしニホンに帰りたかったらそれでもいい」


 春樹は突然の提案に息を呑んだ。


「い、いや、この世界には俺が必要なんじゃないのか!?」


 女王が首を振る。


「もう使命に囚われる必要はないのです。東堂春樹。あなたもですよ。【聖女】フレシア。あなたの勇者監視の任も教皇フランシスによって解かれました。もう【勇者】に縛られる必要はありません」


 【聖女】フレシアは静かに海斗を見据えた。


「海斗さん。私を【百蓮】に入れてください。虫の良いお願いだとは承知の上ですが、私は自分の力を本当に必要な人に届けたいのです」


 春樹がその言葉を聞いて激昂する。


「なっ!フレシア!何を言ってるんだ。君は僕と冒険を続けるんだよ!そうだ、海斗も戻ってこいよ!」


 フレシアが底冷えするような声で告げた


「冒険って何を?もう私たちが倒すべき敵はいません」


 王の間が沈黙に包まれた。春樹はプルプルと震えて叫ぶ。


「なんだっていうんだ!お前らは!勝手に呼んで、勝手に帰すってなんだよ!俺はまだなにも成し遂げてないんだよ!」


 フレシアが静かな口調で春樹に告げた。


「そういった傲慢な態度によって人の心が離れていくのです」


 春樹は泣きながら女王に訴える。


「俺が元の世界に戻っても、ただのニートなんだよ!この一年間の冒険はなんだったんだよ!」


 女王は頭を下げる。


「東堂春樹、先王の身勝手な行いにあなたを巻き込んだのは謝罪します。ですが、あなたが陰で行っていた人身売買、偽造ポーションの販売、貴族令嬢の強姦、これらは到底許されるものではありません」


 春樹は衝撃を受けた顔で崩れ落ちる。


「そんな、犯罪だっていうつもりはなかったんだ」


「なら、いっそうダメですね」


 フレシアが冷たく言い放つ。女王が続ける。


「もし、この世界で生きていくと決めたのならば、これらの罪を償ってもらうことになります。強姦された貴族令嬢も、あなたがニホンに戻るのならば犬に噛まれたと思って忘れると言っています。あなたはどうしますか?」


 春樹は長い間うずくまって、泣いていた。そして、海斗に縋りついた。


「海斗ぉ!俺が悪かった!俺がお前を追放したから俺をこんな目に遭わせるんだろ!なぁ、悪かったって!」


 海斗は春樹を振り払って告げる。


「僕は君に悪意を持ってしたことはなにもしてないよ。すべては君の行いが招いたことじゃないか。謝られらたってもう遅い」


 海斗はピキッと表情を固めたと思ったら、へなへなと崩れ落ちた。魂の抜けた顔で女王に告げる。


「帰ります...ニホンに」


 女王は大きく頷くと海斗は帰還魔法陣の準備をした。小さなカーペットくらいのサイズの魔法陣にびっしりと文字が書かれている。海斗はアイテムボックスから【虹帝】カケルを呼び出し、起動に必要な魔力を込めてもらう。


 春樹は魔法陣の真ん中にフラフラと立ち、カケルが魔力をこめていくのをぼーっと眺めていた。春樹は考える。


(もし、もし地球でやり直せるんなら、今度は人との繋がりを大切にしよう。そして小林海斗みたいに人が自然と集まるような人間になろう)


 バチっバチバチ!


 電気が弾ける音がして王の間が光に包まれると東堂春樹は消えた。


 【虹帝】が小さく呟いた。


「成功しました。春樹くんはニホンに居ます」


 女王がほっと一息つく。問題児がようやく元の場所に戻ったのだ。フレシアが言う。


「海斗さん、まだ返事が聞けていません。私は【百蓮】に入れますか?」


 海斗は諸手を挙げて歓迎する。


「もちろんだよ!フレシア!元パーティーメンバーが入ってくれるなんて嬉しいよ!そう言えば【覇者】の桃はどうしたんだい?」


「ありがとうございます海斗さん。桃ちゃんならずっとベットで寝てるので置いときました」


「そ、そうか。まあ彼女も自由に生きてるんだろう」


 女王が姿勢を正した。


「さて、【騎士】小林海斗よ。あなたに王命があります」


 海斗が跪いて拝命する。


「はっ!なんでしょうか。女王様」


「あなたはこれから世界をまわって助けが必要な人を助けてまわりなさい」


 海斗は驚きの声をあげる。


「はっ?それが王命なのですか?」


「不服ですか?」


「いっ、いえとんでもございません!」


「断ってくれても良いのですよ?」


 女王がそう言うと悪戯な視線を海斗に向けた。海斗は恐る恐る訪ねる。


「断った場合ってどうなるんですか?」


「その場合は私と結婚してもらいます」


「えぇ!」


 海斗は顔を真っ赤にして慌てふためく。女王は余裕の笑みを浮かべて、海斗に迫った。


「さて、どうしますか?」


「えっと、あっ、謹んで王命を受け取ります」


 女王はため息をついた。


「まったく海斗様はどうしようもない男ですね」


 女王、いやルシアは姫の頃のような可憐な笑顔でそう言った。

 


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