九尾・琥珀の力 1
雨は菜乃花の力を奪い去り、彼女の変身が解除されるまで振り続けさせた。ヴァンパイアの力を完全に封じて、彼女は弱点を疲れて呆気なく倒された。しかし、再び変身する力を取り戻してしまえば、再び暴走する可能性があるのは間違いない。あくまで現状では力を封じただけに過ぎないのだ。そして、白希はその状態をずっと見ているだけの存在と対話までしている。
(朝野菜乃花を正常に戻せる術を持っていそうなのは)
彼は先ほどまで着物の男性が立っていた場所に視線を向けた。その男性は未だにその場所にいて、彼らの方に視線を向けていた。菜乃花との一端の決着がついて、何かしらの行動を起こすかと思ったが、動き出した様子はない。
「シラキ、逃げてッ」
フレイズがいきなり、そう叫び、彼は驚きと同時にテレポートを使用する。そこから五メートル以上移動して、菜乃花に触れる。フレイズが警告してくれたのだから、次の敵が出現したと考えるべきだろう。そうなれば、寝たままの彼女は戦闘の邪魔になるだけだ。動けない彼女を守りながら戦うのは難しいだろう。
彼が先ほどまでいた場所で爆発が起きる。五メートルほど離れていたはずで、爆発の余波はそこまで来ないと踏んでいたのだが、彼は爆風に押される。妖精たちがそれに吹き飛ばされないように、自身の手や体を使って妖精たちが自分から遠くまで行かないようにする。フレイズとプロイアは胸に抱いて、ミストとファスは彼の髪に捕まって飛ばされないようにしていた。そして、ようやく爆風も収まった。
「ほう、今のを避けるか」
そんな声が自身の頭の上から聞こえてきた。彼は視線を空に移す。そこにいたのは、先ほどまで木の影に板ははずの着物の男性。男性は感心したように頷いている。彼も周りには白く輝く火の玉が浮いており、それは明らかに彼が操っているのだとわかった。そして、先ほどの爆発はその白い火の玉を放ったのだと理解する。だが、その白い火の玉が何かまではわからない。明らかに魔法ではないということしかわからない。となれば、それが超能力だという結論に至る。超能力とわかったところで、それに対する対策はすぐには出来ない。超能力は千差万別で、対処の方法などはその超能力について知らなければいけないのだ。つまりは、その超能力を見たばかりの彼ではすぐにそれに対処することは難しい。
「いや、菜乃花を倒したのだから、この程度では倒れるわけないな。では……次」
彼の周りにある火の玉の淵二つが、彼に向かってゆっくりと飛んでいく。その火の玉は渦上になり、形を変えた。そのシルエットは妖精だ。色は全く変わらず、白く光っているのだが、その形は二対の羽に人形のような、小さなサイズ。衣装はフレイズが着ている物にも、ミストが着ている物にも、プロイアが着ている物にも、ファスが着ている物にも見える。顔には何のパーツもなく、髪の毛も火の玉が不定形で形作っている。
「なるほど。その妖精たちがお主の中で一番と言うわけか。魂よ、我が敵の心を犯し、その術を示せ」
妖精モドキが動き出す。白希は男の放った呪文がどことなく嫌な予感がして攻撃よりも回避という選択肢を取る。テレポートでさらに遠くへと逃げる。着物の男に近づくという選択肢はない。彼の素性が全く分からない状態で、不用意に近づけば、妖精たちに危害が加えられる可能性もあるのだ。
妖精モドキはそれ以上は移動せずに、その場に留まる。とどまったところで、それは彼の方へと体を向けた。そして、二体とも彼の方へと掌を向けた。そして、二体の妖精モドキの前には赤く光る火球が出現していた。白希はその火球に見覚えがあった。いや、見覚えと言うものでもなく、その火球が次にどうなるかを知っている。
「ミスト。アクアウォールッ」
彼の目の前に水の壁が生成される。そして、そこに相手の火球から出た火炎放射がぶつかった。大量の水蒸気が出てきて、辺りを隠そうとする。
「プロイア、フェザーウィズ!」
彼らの周りを包む水蒸気を彼が起こした風が払う。視界をお互いに良好の状態。彼は妖精モドキをが発動した魔法が何かがわかっていた。彼がよく使う魔法、レッドドラゴンブレスだ。相手が同じ魔法を使ってくるとは、と驚いたが、彼の思考には相手の魔法には魔気を感じないことを思いだす。魔法を使うときは魔気が消費されるが、今の相手の行動にはそれが無かった。つまりは、魔法ではなくそれを模倣した行動と言うわけだ。だが、それでも脅威であることは変わらない。
「シラキさんッ。インビジブルエッジですッ」




