九尾・琥珀の力 2
プロイアの忠告のお陰で、妖精モドキが使用したであろうインビジブルエッジを感じ取り回避した。彼は相手の近くから逃げるように移動したが、それ自体が意味がなかったと悟る。男が妖精モドキにあの呪文で命令した時点で、心を読まれていたのだ。相手が動いたのは、自分の頭の中から読み取った魔法を使うためだったのだ。しかし、自分の魔法となればその対処はわかっている。そして、相手はおそらく全ての魔法を読み取ったわけではないのだろう。異世界で使ってきた魔法の中には、生物を閉じ込める檻を作り出す魔法や人一人を気絶させる電気を作り出す風の魔法などもある。それ以外にも強力な魔法はいくらでもあるが、それを使ってこないということは、最近使った魔法しか読み取っていないと考えることもできるだろう。だが、昔使った魔法を使ってこないというだけで、その魔法自体は使える状態にあると考えると対処もできるかもしれない。思い込みで、使えない魔法があると思うと、対処しきれないかもしれない。
「シラキ。ボクが、対処する」
彼の耳元でミストが小さな声で、彼に耳打ちする。彼にしか聞こえないような声だが、ミストにとってはそれでよかった。自分の声は彼にだけ聞こえていれば、届いていればいい。
「水よ。リボルトストリーム」
ミストが彼に聞こえる程度の声の大きさでそう唱えると、彼女の周りに水の球がいくつか生成される。そして、その水の球同士が水の端によって繋がっていく。そして、それは彼の周りに大きな流れを作り出した。それが作られている間に、彼にも攻撃は飛んでくる。だが、その水流に押されて、魔法は掻き消えた。その魔法に対して反撃するかのようにして、流水の端が上へと伸びていく。それも途中で止まり、その端がヘビのようにうねりながら、妖精モドキの方へと飛んでいく。妖精モドキはそれを回避することはなかったが、自らの前に土の壁を作り出した。だが、その程度ではその流水を止めることは出来ず、土の壁を破って妖精モドキに直撃した。頭に遭った不定形の白い火が消えて、妖精モドキは爆発しながら消滅した。その爆発のせいか、流水の魔法が消失してしまった。
「ミスト、ありがとう。何とかなったよ」
彼はミストにお礼を言ったが、まだまだ油断はできない。倒したのは着物を着た男の手下のような物だけなのだ。
「現代の人間がここまでやるとは。いやしかし、魔法を扱う人も出てくるとは思わなかったな」
「いい加減。朝野菜乃花に掛けた呪いを解いてくれないか」
「呪い、か。わしはそんなものは知らないがな。知らないものを治す、と言うのは無理というものだろう?」
男は真顔で彼にそう言った。白希は彼の言葉を信用することができない。彼の中では既に目の前の男が菜乃花をあの状態にしたと決めつけているのだ。その決まっていることを変えることは難しい。白希と男しかいないこの状況ではその平行線の意見が交わることはない。
「わしのいうことは信用できないのか。ならば、わしに勝って、嘘を押してみるか? 無駄な努力だな。わしに人間ごときが勝つことも、その嘘を押し通すことも、な」
明らかに挑発している。それは彼にも理解できていることだったが、菜乃花の命がかかっているかもしれないとなると、その挑発に乗り、相手に勝ちどうにかあの状態から解放してもらわないといけない。
普段の冷静な彼ならば、気が付いただろう。男の言葉には少しも嘘は入っていなかったこと、男は明らかに自分を試していることを。そして、後者に気が付くことが出来れば、相手の実力が自分よりも高い可能性にも簡単に気が付けただろう。だが、珍しく彼は冷静さを失っていた。それは朝野姉妹のためと言うわけではない。関節的にそう見えるというだけで、実際には異世界で彼が救えなかった家族のことを思い出すからだ。仲の良い家族で、家族で経営していた宿屋にお世話になっていたのだが、とある町に山賊が襲いに来て、娘を守ろうとした父は殺され、母は盗賊に捕まった。二人の娘を白希は預かり何とか逃がした。その時にはまだ、プロイアもミストとも出会っておらず、ファスとも契約していない状態で、フレイズとも中級の契約までしかしていない状態で今よりもかなり力がないときのことだ。結局、山賊のアジトを潰し山賊を根絶やしにすることは出来たが、宿屋の母は既に息絶えていたのだ。残ったのは娘だけで、彼女は気丈に宿屋を続けると言って、おそらく今も宿屋を経営しているのだろう。その出来事が、朝野姉妹の今の状況を見て、フラッシュバックする。菜乃花がここで死んでしまったり、生気不能の状態になれば、朝野姉妹はもう笑うことは出来ないだろう。仲の良い家族が壊れてしまうことを彼は許すことが出ずに、焦りと怒りが彼の正常な思考を乱していた。




