変わらない無力感 2
学校に戻ってきて、彼女たちは廃墟寸前の建物ところまで戻ってきた。白希は彼女たちの部屋に入る手前で足を止めた。戦闘を歩いていた竜花は既に中に入っていたが、続く猩花と白希が入って来ないことが不思議に思って部屋から出てきた。彼女は彼が落ち込んでいるのを見ていた。竜花の頭には彼を剥げます言葉も、彼を貶す言葉も浮かんでいる。だが、そのどちらも口にはできない。蓮花と菜乃花は、商店街を出てからずっと黙ったままだ。猩花だけが、歩きながら彼の顔を時折見上げて心配そうな目を向けていた。だが、彼はそれにも気が付けない。妖精たちも猩花と同様の心持ではあり、彼を心配しているが彼に言葉をかけることはなかった。
「それじゃ、僕は帰るよ」
その静けさの中、最初に口を開いたのは白希だった。落ち込んだままでも、彼は顔を上げて、皆の顔を見た。妖精たちは彼の選択に反対することはなく、彼がその場から去ろうとすると、彼に付いて行くだけだ。後ろにいた菜乃花と蓮花は彼の為に道を開ける。彼を引き留める権利は自分たちにはないと、二人はそう思っていた。だから、彼の手を掴む死角はない。
「ま、まってっ。い、し、白希おにいちゃんっ!」
その中で、猩花だけは彼の手を掴んだ。彼女はここで彼と別れてしまえば、このままずっと会えないような気がしていた。いや、自分と彼だけであれば、会うことはいくらでもできただろう。だが、こうして姉たちを含めて、全員が同じ場所にいるということが無くなるような気がしていた。実際にはそんなことはないだろう。この姉妹の中の誰かが動けば、きっと同じ状況を作ることは出来る。だが、きっとそれは心地の良い物ではないだろう。そうなれば、もう集まることはないだろう。
彼は掴まれた手に視線を向けて、自分の手を掴む猩花に視線を移していく。彼女の小さな手が自分の手を掴んでいる。彼女が引き留めている。彼はその手を振り払うことができなかった。異世界でも子供に引き留められると、どれだけ急いでいても足を止めてしまう。日常生活では子供に助けられたことも多々ある。そのせいか、彼は子供の手を振り払うなんてことは、どんな状況でもできなかった。
「まだ、まだ、わたし、話したいこと、ある。だから、だから、わたしとお話しして?」
彼女は焦ったように言葉を口から出す。彼を引きとめるためなら、手段を問わないというような決意すら感じる。彼はその言葉に首を振ることなどは出来なくて、彼女の言葉に頷いて返事をした。
猩花以外の朝野姉妹たちは、まさか猩花が彼を引き留めるとは思っていなかったため、驚いていた。そして、彼女がわがままのように彼に言った音葉にも驚いていた。
「助けられたからだと思う」
「それだけで、あんなに必死に引き留めますか?」
「んー、正直、あんまりわかんないね~。まぁ、仲が良いならいいんじゃない?」
竜花と蓮花は、猩花の態度の変わりようについて、考えていた。同じ部屋にいるというのに、三人は菜乃花のスペースで小さな声で話し合いをしていた。猩花はそれを特に気にも留めずに、白希と話をしようとしている。白希にはその会話は聞こえていた。菜乃花は、猩花が彼と仲良くなることには反対しないようで、のほほんとしながらお茶を飲んで、一息ついている。竜花と蓮花は長女が特に深く考えてないのを見て、自分たちもそれ以上考えても仕方ないことだと諦めた。
「あの、今江さん。その、さっきはとっさに言っちゃたんだけど、おにいちゃんって呼んでもいいですか?」
「好きに呼んでいいよ。白希でも、おにいちゃんでも」
「え、えと、じゃあ、白希おにいちゃんって呼びますね」
猩花はかなり緊張した様子で、彼を前に正座して彼と向き合っていた。自分で彼を招待したのだが、話したいことはあっても、そこに至るために話す話題がないというような様子だ。彼女自身はそれを自覚はしていない。どうすればいいのか、わからずにパニック寸前だ。その様子を白希は見ていた。なんとも微笑ましいことだと思った。異世界ではそう言ったことはなかった。子供には警戒されるか、懐かれるかのどちらかだったのだ。しかし、子供の仕草と言うのは癒される。彼の落ち込んでいた心も少しずつ、明るい方へ向かっていた。
「あ、その、実はですね。このくまっ、このくまさんは小太郎って名前で、この犬さんがハチ、ねこさんがにゃむって言うんです。みんな、宜しくお願いします」
「ああ、よろしく」
彼はぬいぐるみ一体一体の手の部分にそっと触り、挨拶をした。猩花は姉たちでさえもしてくれなかったことをしてくれたことがとても嬉しくて、ニコニコと笑っている。
クロカミサマとの戦いの後、ぬいぐるみを拾ったのも実は彼だ。姉たちは動けず、彼がその場所から去ろうとしたところでようやく、我に返ったようなものだ。彼の後に走り近づいたところで、そのぬいぐるみを渡された。返してやれと、それだけ言っていたのを、姉妹たちは覚えている。




