朝野姉妹 4
菜乃花のスペースで黙ったまま、お茶を二三口飲んでいると、竜花がじっと自分を見ていることに彼は気が付いた。どうやら、さすがの彼もずっと視線を感じていると、彼女が何か言いたいのではないかと察することもできるだろう。
彼は菜乃花のテーブルを離れて竜花の方へと移動する。菜乃花は立ち上がった時こそ、彼を見ていたが、彼が竜花のところに移動するのを見て、そこから視線を外してお茶を飲んでいた。そもそも、彼女が白希をこの場所に読んだのも、自分に用事があるというよりは、姉妹たちと仲良くなってもらうことが目的だ。特に猩花は警戒しすぎている。超能力者である彼とは敵対関係より、協力関係にしたい。協力関係に慣れずとも、敵対関係にさえならなければいいと考えていた。この町には、宇宙人や幽霊などのオカルト関連の現象が頻繁に目撃されている。それに対処するのに、人が多ければ、それだけ対処するのも簡単になると考えていた。後者はそうなればラッキーくらいの感覚である。いきなり、こちらを信用しろと言うのは、彼女自身も無理な話だ。協力するためにはまず、お互いのことをある程度知り、仲良くなることが大切だと彼女は考えていたのだ。
「よ、よく来たな。その、……何て呼べばいい?」
最初こそ、眼帯を右手で抑えるようなポーズをしていたのだが、彼をなんと呼べばいいのか迷い、そのポーズを止めて、首を傾げて彼に訊いていた。
「好きに呼べばいいよ。僕がわかれば返事するから」
「で、では、その、白希と、呼んでもいい?」
しどろもどろで、中二病の雰囲気も失くなっていた。男子とはあまり話してこなかったのかもしれない。と言うか、そのキャラクターで日常を過ごしているのならば、近づく人も少ないだろう。異性となれば、余計に話しにくいだろう。
彼女が彼を名前で呼ぶ提案をすると、彼の後ろから蓮花が来た。彼の横に立って、竜花に強い口調で注意する。
「目上の人を呼ぶときに名前なんて、失礼でしょう? ちゃんと今江さんとか、今江先輩とか、そうやって呼びなさい」
「だって、この人がなんでもいいって言ったんじゃん。名前呼び捨てでもいいでしょ?」
「なんでもって、礼儀ってものがあるでしょう? ちゃんとしないと、恥をかくのは貴女なのですよ?」
「もー、蓮姉ちゃんはいっつも、恥恥って、そればっかり。姉ちゃんこそ、少しは他の人の意見を聞いた方が良いよ」
小さな声で竜花が反論するのを、白希も蓮花も聞き逃さなかった。
「何か言いましたか?」
しかし、蓮花はそれ以上怒ろうとはせず、先ほどのように聞こえなかったふりをする。先ほど違うのはそれ以上竜花が彼女に突っかからなかったことだろうか。
「そ、その、私だっていつも怒っているわけではないんですよ……?」
蓮花は自分が怒っている姿を見られたくなかったようで、それを恥じているようだった。しかし、彼から見れば、彼女たちの今の彼女には特に興味はなく、返事は特にしなかった。
「何にしろ、僕のことは白希と呼んでもいい。そう言ったのは僕だからな」
それに異世界ではシラキと言う名前でしか、行動していない。今更、今江と言う苗字で呼ばれるのも慣れないのだ。自分の名前だという自覚はあるが、長い異世界生活のせいで、この世界に戻るまでは苗字と言う概念を忘れていたに等しい。そして、超能力を持つ彼女たちには、周りの他人よりかは近い物を感じている。その人たちに苗字で呼ばれるというのは中々奇妙な感触があるのだ。
「今江さんがそう言うなら、これ以上は言いません。失礼しました」
「君も、僕のことは名前で呼べばいい。苗字は何となく、馴染まないんだ」
「そう、ですか。わかりました。では、そうさせていただきます。白希さん」
本当なら、さん、とかそう言う敬称も不要だと思ったが、そこまで指定すると、蓮花は苦しいかもしれない。この世界では名前で呼び合う仲と言うのは、仲が良く相手のことをお互いある程度知っていることが必要だ。そのため、いきなり名前呼び捨てで呼ぶのは、礼儀正しい彼女には無理なことかもしれない。
蓮花はそれだけ言うと、自分のスペースに戻っていく。竜花は、すぐに彼女から視線を外して、折り畳みの椅子を置いて白希の座る場所を作った。中二病全開の黒を基調とした空間。十字架や金色のミニチュアの剣。風のエフェクトを纏うマントを羽織った男性キャラクターのフィギュア。それ以外にも、そう言ったものが並んでいる。物は多いが、かなり整理整頓されている印象を受ける。彼女は学習机の椅子に座り、彼の方を向いた。
「同じ超能力者同士、ボクは仲良くしたい。どうすれば君と仲良くなれるのだろうか」
中二病と言うか、硬い話し方をして中々、可愛い提案をしてきた。




