朝野姉妹 5
彼は仲良くなろうと言われても、仲良くなれると思っていない。だから、彼は仲良くしたいと言われても、特に返事が出来ない。竜花はそれを気にした様子もなく、悩んでいる。
「そうだなぁ。ボクの名前くらいしか教えてなかったな。ボクの好きなものはこのスペースにあるものを視てもらえば、わかると思うけど、恰好いいものが好きなんだ。キミの好きなものは何?」
どうやら、お互いの個人のことを教えあえば、仲良くなれると結論付けたらしい。彼は間違ってはいないが、それは小学生低学年の仲良くなる方法だろうなと思った。だが、それゆえにシンプルに仲良くなる方法でもある。しかしながら、彼には特にこれと言って好きなものはない。異世界で言えば、集落の仲間となるだろうが、この世界に置いては、妖精たち以外には興味がない。好みの食べ物も気に入っている家具や本、ゲームなんかも四人が読みたい、やりたいと言わなければ、彼自身が好んで買うことはないだろう。彼がそう言ったものを買うとすれば、やはりそれは妖精たちの為となる。
「好きな物、か。特にはないかな。僕はこの世界にはあまり執着心がない。この子たちが入れくれれば、どこに居てもいい」
「そうか」
竜花はそれ以上は話を広げることができなかった。そして、二人が沈黙しているのを見ていたのか、菜乃花が彼を呼んだ。彼女も立ち上がり、彼を扉の前に誘った。彼はそれに従い、差された位置に移動する。
「さすがに全員と仲良くと言うのは無理そうですね。正体、と言うか、この場所のことも言ってなかったのを思い出しました。うっかりです」
彼女は照れたように笑い、首を傾ける。外から見れば十分に可愛らしい仕草だが、彼の心には響かない。彼女もそれを狙っているわけではないため、すぐに次の話を始めた。
「こほん。この場所、と言うか、私たち四人は、対オカルト戦線。命名は竜花ちゃん。この町の異常なものと戦うために私たちが作ったの。この場所はみんなの力で外部から遮断されてるから、誰にもばれないの。今江くんも見たと思うけど、この町には宇宙人やネットロアみたいなものが、いつの間にか現れて町を壊したり、人を攫おうとしたりしてる。それをどうにかして、私たち四人で防いでる。そして、この町に貴方が現れたの。一学期の時は君はただ目立つ容姿をしているだけだと思ったけど、二学期になってから妖精を連れて魔法や超能力を使ってるのを見てしまったのよ。だから、できれば私たちと協力してこの町を守ってほしいと思っていたの」
彼女はゆったりとした口調ではあるが、それが真剣な話だということを理解するのに時間はいらなかった。だが、白希は彼女の話に賛同は出来なかった。オカルトと戦うということは、この前のくねくねの時のように、妖精たちを危険な目に遭わせてしまう可能性があるということでもある。彼の願いは、妖精たちと平穏に暮らすことであった。だが、異世界からこの世界に戻ってきてからというもの、オカルトに巻き込まれる頻度がかなり高くなっていたのを自覚する。
一学期は何ともなかったのだ。ただ、学校に行き、授業が終われば帰宅するだけ。家の中にも透明な何かなんて出てこなかったし、商店街を利用していても、変な化け物に襲われたり、変な空間に引き込まれることもなかった。いや、そもそも一学期にいた世界はこの世界とは違う。オカルトもただの妄言の一部に過ぎないはずだ。この世界はそれらが現実になっている。もしかすると、この世界で一学期を過ごしていれば、それなりにオカルトに巻き込まれていた可能性があるということだろうか。そう考えると、いざと言うときに、妖精と自分を逃がすための囮になれそうなのは、事情をすぐに理解できるこの四姉妹だろう。
「……わかった。邪魔はしない。協力するかどうかは、その時によって判断する。それでいいなら、協力しよう」
「そうね。都合が悪い時は、仕方ないですから。では、そうしましょう。連絡先を交換してもいいですか」
菜乃花は彼が自分を囮にするなんてことを一つも考えていない。同じ境遇である以上は、協力できると信じているのだ。だが、それはきっと彼女たちが悪い人に利用されたことが無いからだろう。異世界に行けば、彼女たちだって、人を疑うことを知ることになるはずだ。彼は自身を納得させて、心の奥に無自覚の罪悪感を押し込んだ。
「あっ、菜乃花お姉ちゃん。また、何か来てる」
突然猩花がそう声を上げた。菜乃花は猩花の近くに言って何かを聞いている。
「また、商店街の近くだよ」
「ありがとう。とりあえず、みんな、商店街を封印しましょう」
彼はそれだけで、また商店街に何か昨日の骨の化け物のような物が出現したのだと理解した。この場でそのことを知らされたのに、協力しないとなると、妖精たちに格好悪いところを見せることになると思った彼は、部屋を出ていく菜乃花に続いて、部屋を出た。




