夜の女王 3
「ミスト、アクアウォータハンマーっ」
水の塊が出現して、歪な長方形になる。その水の塊は骨の化け物の脛の辺りにぶつかった。その衝撃のせいで、商店街の中に響き渡る。だが、骨には大したダメージは与えられなかったようで、動じていないようだった。
「いや、肉の無い骨ならフレイズの超能力で」
彼骨の足に触れた。そして、崩壊の超能力を使用する。だが、崩壊の効果がない。フレイズの超能力は異世界では通用しないものはなかった。だからこそ、むやみやたらと使って事故を起こさないようにしていたほどだ。だが、この世界に置いては、効果のないものもあるということだろうか。いや、異世界でも全てのものに試したわけではないため、もしかすると効果のないものがあったのかもしれない。それとも根本的にこの世界の法則的に効果がないものがあるということなのかもしれない。しかし、それならより衝撃のある攻撃をしなければいけないだろう。彼が作戦を考えているときに、彼の横から何かが飛び出した。
彼は何かと思ったが、彼の後ろにいたのは一人しかいない。それは悪魔族の女性だった。マントを翻して、彼の前で、人間では超能力でもなければ、飛べない程の跳躍力でジャンプしていた。その高さは骨の化け獣の腰の辺りまでだ。空で彼女は自由に体勢を変えて、右腕を思い切り引いていた。そして、それを前に突き出し、骨の骨盤を思い切り殴りつけた。その瞬間に、轟音が彼の耳に届き、骨の髑髏がガシャガシャと激しく鳴る。
「もう一撃、くらいなさいッ!」
彼女はそう叫びながら、今度は左の拳を前に突き出した。二度目の轟音。骨は更に激しく鳴っていた。化け物はもはや、彼らをただの小さな虫けらだとは考えていない。骨は空中にいる悪魔族の彼女を掴もうと手を出した。だが、彼女は空中で翼をバタバタと羽ばたかせると、鳥より自由に空を飛んでいる。そこでようやく先ほどの跳躍力が足の力だけではなく、翼の力もあるのだと理解する。そこまでの強さを持ている悪魔の種族はあまり多くはなく、大抵は体が大きい種族となる。人と同じサイズで翼もある悪魔族は彼の知る限りでは一つの種族しか思い当たらない。それはヴァンパイアだ。異世界でもあまり数が少ない希少な種族。希少なものは価値が高いとするのは異世界でも同じで、ヴァンパイアはその希少性ゆえによくコレクターの依頼によって、高値で誘拐されることが多い。弱点を考慮しなければ超能力が無くともかなり強い種族ではあるが、弱点のせいでしっかり準備していれば、捕まえるのは難しくないようだった。彼の助けた中にもヴァンパイアが一人いたのを思い出す。そのヴァンパイアと今、攻撃しているヴァンパイアは違う人だが、それでも異世界で出会った種族と同じ種族の人にこの世界で会えるとは思っていなかったのだ。
「私はあなたなんかに捕まらない。……っ」
彼女が悠々と空を自由に飛んでいたのにも関わらず、その途中で相手の手の辺りで一瞬だけ何かが発光した瞬間に、彼女は動きを止めてしまい、目を覆った。ヴァンパイアは五感が強く、この暗い夜の中で目を焼くほどの光を放たれると、その強い五感がそれを強くとらえてしまう。そのせいで、目が見えなくなるどころか、痛みすら感じてしまうのだ。動きの止まった彼女を骨は右手で彼女の胴体をしっかりとつかんだ。
「つっ、う。あ」
骨は手の力を緩めたり、強めたりして彼女の反応を見て愉しんでいるようだった。骨の表情は変わっていないはずなのに、嗤っているように見える。
「……けんなよ」
そこに込められた怒りを妖精たちは気が付いた。それは最初に竜花と戦った時にあった怒りよりも強い物だ。
「シラキ、落ち着いて」「シラキ……」
「シラキさん」「シラキっ」
妖精たちが彼が我を忘れて怒ろうとしているのを何とか引き留めようと声を掛ける。だが、妖精たちはそれで止められるとは思っていない。彼は絶対にヴァンパイを助け出すだろうと、四人ともそれは確信していた。いや、確信ではなく当たり前。もはや、そこに疑いはなく、助け出すだろうということすらも考えていない。
「ああ、少し冷静になれた。でも」
「わかってる」「うん」
「わかっています」「わかってるわ」
妖精たちは彼を止めることはない。そうではなく、冷静さを欠いて、その隙を突かれて彼に大けがをしてほしくないだけだ。助けたいという思いは一緒。それに、彼のその想いを彼女たちは否定することが出来ない。彼にその心が無ければ、きっと彼女たちもひどい仕打ちを受けて、暗い部屋やクズの目の前でくたばっていただろう。彼が持つ心を妖精たちは理解していた。




