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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
1 異世界帰りの精霊使い
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異世界帰りの精霊使い 2

「さて、家に送られたわけだけど。どれくらい経ってるかな」


 彼は部屋の机の上にあるパソコンを開く。それを妖精たちは不思議そうに彼の後ろから覗いていた。それもそのはずで、異世界にはない物がこの世界には沢山ある。異世界の根本にあるのは、魔法だ。対して、この世界の根本にはあるのは科学。そこからしても、原理や仕組みが全く違う物になるのは当然と言えるだろう。妖精たちがパソコンを覗いているのを見て、彼はそれに対して軽く説明するが、彼女たちは全く理解していないようだ。妖精たちは、彼の解説のわかる部分だけを抜き出して、何度も書いている不思議な本と呼んでいた。


 そして、彼女たちがワイワイと騒いでいるところで、彼はパソコンにパスワードを入れて、ロックを解除した。カレンダーを開くまでもなく、デスクトップに表示されている日付と時間に彼は目を丸くしていた。


「二千二十五年八月二十五日……?」


 彼が異世界に行ってから異世界では一年以上、その世界で過ごしていた。彼が召喚されたのは、その日付の一週間ほどまえだ。異世界での一年はこの世界での一週間程度の時間の流れだったというわけだろう。その証拠に一年以上過ごしているはずなのに、彼の見た目は変わっていないのだ。先ほど姿鏡で見た自分の姿が全く変わっていないというのは、おかしな話だ、と彼は今更気が付いた。一年以上も経過して、全く見た目が変わらないなんてことはないだろう。


「うわぁ、マジか……」


 彼にとってはショックなことではあるが、異世界で一年以上一緒にいた妖精たちとの繋がりは元に戻っていなくてよかったと思った。さすがに、異世界での繋がりも全部嘘でしたなんて言われたら、本当にどうしようもない。


「あ、てことは」


 彼は部屋のドアを開けて、廊下を伺う。廊下と言っても学校や施設の廊下なんてこともなく、一軒家の二階の短い短い廊下だ。部屋が廊下には部屋が三部屋面しており、その一つが彼の部屋。もう一つは両親の部屋。最後の一つは物置だ。彼には姉弟などはいない。先ほど見た日付の下に記してあった時間は夜の九時過ぎ辺り。もし、本当にあれから一週間しか経っていないなら、両親はまだ、酋長から帰ってきてはいないだろう。彼が自分の部屋から出ると、妖精たちも彼に付いて行く。ミストが彼の髪に捕まりながら肩に乗り、プロイアは彼の横にぴったりとくっつきながら飛んでいる。ファスは彼の頭の上を自分の部屋のようにうつぶせに寝転がり、腕を組んでそこに顎を乗せて、彼と同じ方向に視線を向けている。フレイズは落ち着きなく、辺りを見回して、彼の近くを飛んでいた。


 そんな妖精たちを連れて、彼は両親の部屋をノックした。だが、返事はない。九時なら寝ているなんてことはないだろう。彼は入りますと言ってから、扉をそっと開ける。部屋の中にはダブルベットがあり、そこには綺麗に布団が掛けられている。そこに膨らみはなく、人がいるような気配はない。両親がそこにいないことを確認すると、彼は一応物置も開けた。物置にはもちろん人はいない。


「あれ、シラキ。あれ何?」


 フレイズに名前を呼ばれて、彼女が指さすものに視線を移す。彼女が指さしているのは掃除機だった。


「あれは、ゴミを吸い取る機械だよ。掃除機って名前なんだ」


 フレイズは自分から聞いたというのに、ふーんとだけ言って、すぐに視線を違う場所に逸らした。最初に会った時からこんな風に落ち着きのない様子であるため、既に気にすることでもなかった。彼は階段を下りて、一回に移動する。一階は玄関以外の照明は点灯しておらず、そこには誰もいないことが分かった。彼はリビングに入り、電気をつける。そこは彼が異世界に行く前に放置していた漫画と高校の宿題が広げられていた。明らかに宿題に飽きて、漫画を読んでいたのがわかる。リビングから続くキッチンに行くと、昼食を食べ終わった皿が水に付けられたままだった。本当に、一週間程度しか経っていないのだろう。そこで彼は急いで、玄関に戻る。彼は玄関のドアを見た。彼が気になったのは一週間前、異世界に召喚されたのは昼で、その前に少し出かけていたのだ。その際に玄関の鍵を掛けたか分からなかったため、今確認したのだ。鍵はしっかりと掛かっていて、彼がドアをガチャガチャとやったが、鍵がかかっているのがよく分かった。


「ふぅ、焦ったー」


「何よ。いきなり動かないでよねっ。それで大丈夫だったの?」


 頭の上で、ファスがワーワーと高い声で、文句を言っているが、彼は慣れた様子で人差し指で彼女の頭を撫でる。


「うん。大丈夫だった。ありがとう」


「ふん。別に少し心配になっただけなんだから」


 そう言いながらも彼女は嬉しそうにしていた。

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