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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
1 異世界帰りの精霊使い
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異世界帰りの精霊使い 3

「シラキぃ、お腹空いたかも」


 ミストが肩に乗ったまま、彼の耳に囁いた。そう言われると、確かにそうだ。異世界からこの世界に戻ってくる前には何も食べていない。お腹がすく時間でもあるだろう。


「そうだね。じゃあ、買いに行こうか」


 彼は妖精たちをリビングで休ませて、自分の部屋で制服から私服に着替える。無地の紫色のシャツに、足首より少し上くらいの丈のジーパンを履く。部屋に置いてあった財布を持って、リビングへと向かう。


「お待たせ」


 彼がリビングに顔を出すと、妖精たちは先ほどと同じように、彼の周りに集まり、それぞれの定位置に移動した。それを確認すると、彼はドアを開いて、外に出た。玄関の鍵をかけるのを忘れずに、家を出た。


 外に出ると既に日は沈んで、街灯が道を照らしていた。彼の住んでいる場所は住宅街であるため、騒がしさはない。帰宅しているであろう車が何台か通るだけで、歩く人はほとんどいない。


「これ、凄い明かりですね。夜じゃないみたい」


 プロイアが辺りを見回して、街灯を不思議そうに見ていた。異世界では松明や篝火しかないため、本当に周囲しか明るくならない。そもそも、異世界では電気を発生させるのにもかなりの魔気というエネルギーを消費しなくてはいけないのだ。そのため、妖精たちはその光の源が電気だとは予想できないだろう。この数の明かりを電気で補っていると言っても信じることは出来ない。だが、それ以外に説明のしようがない。原理を知っている彼からすると、それが彼の常識であり、それ以上の説明は出来ないのだ。赤色を説明してくださいと言われても、物で例えるしかないのと同じだ。


 彼が街灯について軽く説明したが、妖精たちは首を傾げていた。彼は説明を諦めて、道に出る。その道ですら彼女たちには不思議なものだった。異世界にはコンクリートもなければ、車なんて見たこともない。それらはもはや、異世界にいる魔獣と呼ばれるものに見えるだろう。彼は律儀にそれに一々説明をしたが、どれも理解はしていないようだった。


 彼も異世界に召喚されてすぐには何も理解できなかった。魔法があったり、超能力があったり、人間以外の知的な種族がいたりと、物語の中でしか見たことがないことがほとんどだった。物語で見たことがあるからこそ、ある程度魔法も超能力も受け入れることが出来たが、彼女たちにはそう言ったものも無いかもしれない。何せ、この世界のように、物語を楽しめるような穏やかな世界ではないのだ。特にこの妖精たちはコレクションや奴隷として捕まっていたところを彼が逃がしたのだ。物語を楽しむ余裕なんてなかっただろう。つまりは、物語ではあっても魔法や超能力を理解するための土台があった彼とは違い、科学を理解するための土台もないというわけだ。すぐにこの世界に慣れることは出来ないだろう。


 コンビニに行くだけなのだが、彼女たちには大冒険だった。そして、ようやくコンビニの近くまで来たのだが、彼は今更ながらにあることに気が付いた。異世界では妖精の存在は当たりまえだったが、この世界に亜人はいないとされているのだ。ここまでの道のりでは暗い場所も多かったため、見間違いと言えるかもしれないが、コンビニの中ではそうも言えないだろう。


「プロイア、ミスト。姿を消す魔法って使える?」


「ええ、使えると思います」


 ミストとプロイアは同時に魔法を使用して彼の姿を消した。まだ、コンビニには到達しておらず、暗い場所で試しているため、気が付く人はいない。この世界でも魔法を使えることが確認できた。彼はその魔法を彼女ら自身に使ってもらった。そうすれば外からは見えないだろう。さらにスマホを出して、適当にそこに向かって話しているようにすれば、会話もできる。彼女たちには不便を強いるが、彼女たちが透明化を嫌がるなら家で留守番させることになってしまう。


「ごめんね。この世界の人って、未知のものを怖がるから」


「本当にボクらの世界とは違うんだねぇ」


 ミストが本当に異世界に来たことを感慨深そうに言っている。それは自分が初めて異世界の町に行った時に言っていたことと同じだった。それはそうと、彼らはようやくコンビニに入ることができた。彼女たちには全て売り物であるから、勝手に触れないようにと注意を促していた。欲しいものは自分に言ってくれと言った。見えない彼女たちが物に触れたり、持ったりするとおかしなことになるからだ。物がひとりでに動いたなんて、心霊現象になってしまう。


 コンビニにいる間は、彼女たちは大人しく、彼の体にくっついていた。欲しいものと聞いても何が置いてあるかもわからないのだから、注文することもできない。彼はすぐにそれに気が付いて、魚とか肉とか野菜とか、食べたいものを聞いた。異世界の料理名だったが、味を知っている物だったので、似たような味のものをカゴに入れて、ようやく買い物を終える。注文はされていないが、彼女たちは全員甘いものが好きなので、スイーツコーナーで甘そうなものを適当に買って、コンビニを出た。

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