僕は夢を見た(22)
いつもの城門の前に立つ僕。
時刻は早朝だろうか…
日の出前の薄ら明るい空。
街には朝靄が立ち込めていた。
いよいよだ。
今から戦いが始まろうとしている。
騎士宿舎へと向かう僕。
途中、リズの親父さんの八百屋の前を通ったが、店はまだ開いていない。
騎士宿舎に着くとレンジャーが話しかけてきた。
レンジャー:「そろそろここを発つ。」
レンジャー:「よしひろう殿は準備は出来ているか?」
よしひろう:「いつでも大丈夫です。」
レンジャー:「この朝靄が晴れる前に森に着きたい。」
レンジャー:「では、行くぞ!」
馬に乗りエアリスの森へと疾走するレンジャー。
その少し上空を飛翔する僕。
レンジャーの姿がギリギリ見える高度。
森へと着いた頃には朝日が登り始め朝靄が晴れてきていた。
レンジャーは馬を降り、手綱をその辺りの木にくくりつけた。
木の上に立つ僕を見上げながら
レンジャー:「よしひろう殿、ご武運を。」
と言うと森の中へと入っていく。
見ると二人一組で行動しているようだ。
最初の見張りの居るポイントに到着する。
レンジャーは音も立てずに見張り役を仕留めていった。
声を立てられぬよう喉を矢で射抜く。
別の見張りに背後から忍び寄り首に小刀を突き立てる。
瞬殺といっても過言ではない。
会話など一切しない。
全て手の仕草だけで意思疏通を図るレンジャー。
次のポイントでも、その次のポイントでも同様の殺戮が行われた。
ある者は小刀で喉を切り裂かれ。
ある物は首の骨を折られ絶命していく。
一方的な殺しあいだ。
アスター隊長の言った通りだった。
正に一騎当千、鬼神のごとき強さだ。
それをただ木の上から眺めている僕…
山賊の拠点である洞窟入り口の見張りを倒し、狼煙を上げるレンジャー。
30分ほどしてアスター隊長率いる騎士隊一行が現れた。
剣を抜く騎士達。
ソーっと洞窟入り口の隠し板を動かすレンジャー。
レンジャー1人を入り口に残し、洞窟の中へと入っていくレンジャーと騎士達。
中からガシャンやキンッと言った金属音がし始めると同時に言い争う声も聞こえてきた。
始まったのだ。
その声や音に聞き耳をたてる。
絶叫、雄叫び、悲鳴、嗚咽…
耳を塞ぎたくなる。
その音や声が嫌で少し高度を上げる僕。
しばらくすると洞窟の反対側の斜面に何やら動くものを見つけた。
高度を下げ近づいてみる。
かなりの大男と、中肉中背の小男の二人が穴から這い出てきていた。
どう見ても騎士ではない。
山賊が抜け道から逃げてきていたのだ。
よしひろう:「ここで逃すわけにはいかない!」
とその二人の前に降り立つ僕。
ポケットからあの赤い玉を取りだし、地面に投げつける。
ボン!という爆発音とともに赤い煙が発生した。
大男:「なんだ!てめーは!!」
と大振りな剣を振り下ろしてくる大男。
ギリギリで避ける僕。危なかった。
自分の腕や膝がガクガクと震えているのが分かる。
震える手でなんとか木剣を構えた。
大男:「俺の事知らねーのか?」
と剣を再び振り上げた。
小男:「首領、こんなの放って逃げましょーぜ!」
よしひろう:「行かせない!」
大男:「行かせない・だ・と・よ(笑)」
と小男に呆れたような仕草をしてみせる。
もう一度縦の斬撃が来た。
ガツンと言う音とともに地面が抉れた。
それもなんとか避けることができた。
大男:「ちょこまかと面倒くせー!!」
今度は振り上げた剣を縦に振るように見せかけた斜め横方向への斬劇。
僕の鼻先スレスレを大振りの剣が掠めた。
手に持っていた木剣は山賊の剣に当たった衝撃で手から離れ吹き飛んでいく。
よしひろう:「ダメだ…」
足が震えて動かない。
大男の振り上げた剣が僕にトドメをさそうと振り下ろされた瞬間…
もうダメだと僕は目を瞑った。
セナ:「せいっ!(ガキン!)」
目を開けるとセナが僕の前に立っていた。
山賊の剣をセナが受け止めてくれたのだ。
セナ:「よしひろう!下がれ!!」
震えながら後ずさりする僕。
目の前で激しい剣撃が繰り広げられる。
大男の剣を盾で受け止めつつ隙をうかがうセナ。
大男が剣を振り上げるとガツッという音がした。
背後にあった木に当たり剣が引っ掛かったのだ。
その瞬間、大男に突っ込むセナ。
セナ:「せいっ!!!」
セナの剣が大男を貫いた…
のだが…急所から僅かに外れてしまっていた。
引っ掛かった剣を離し両手でセナの首を絞め始める大男。
大男:「殺すにゃ勿体ないが、こっちも命が惜しいからよ!」
必死で抵抗するが体を持ち上げられているせいで力が出せないセナ。
だんだんとセナの顔から血の気が失せていく。
両手で大男の手を掴み必死に足をバタつかせている。
その動きが段々と小さくなっていく。
そして…全く…
動かなくなった…
よしひろう:「セ…ナ…?」
震える声でセナの名を呼ぶ僕。
大男はセナの体を横に放り投げた。
ズサッいう音とともにセナの体が力なく横たわる。
大男:「次はオメエだ!」
この時になって始めて気がついた。
僕がセナの事を好きだったことを。
憧れだったことを。
僕の瞳から涙がこぼれ落ちてきた。
怖かったからではない。
悲しかったのだ。
大切な人を目の前で失った悲しみ。
守れなかった悔しさ。
目の前では大男が再び剣を取りゆっくりとこちらに歩いて来る。
僕は震える手でクナイを大男に投げる。
が、着ている鎧に弾き返された。
もう一本のクナイを握りしめ身構える。
大男が目の前まで来た。
よしひろう:「(もうダメだ!)」
と目を瞑った瞬間…
「ゲフッ」という声にならない声が聞こえた。
目を開けてみると…
大男の喉を背後から切り裂くレンジャーの姿があった。
そのすぐ後からアスター隊長もやって来た。
その場を見渡すアスター隊長。
僕はセナに駆け寄った。
よしひろう:「セナ!セナ!」
返事はない。
セナの体を抱き締める僕。
アスター隊長:「何人だ?」
部下に仕留めた山賊の数を確認させるアスター隊長。
よしひろう:「何を言ってるんですか!?隊長!!」
よしひろう:「セナが死…」
と言おうとした瞬間、アスター隊長の言葉がそれを遮った。
アスター隊長:「わかっている!!わかって言っているんだ!!」
辛そうに顔を背けるアスター隊長。
アスター隊長のこんなに感情的な声を聞いたのは始めてだった。
騎士の男:「58人です。」
その場でセナを抱き締め泣きじゃくる僕。
ふと前を見ると、小男が居た。
騎士達の前で必死に命乞いをしている。
そこにレンジャーの一人が現れた。
無言でその小男の胸に小刀を突き刺すレンジャー。
レンジャー:「これで59人。」
よしひろう:「え?…」
よしひろう:「捕まえないんですか?…」
よしひろう:「殺す必要はなかったんじゃないですか!?」
目の前で行われた無為な殺人に動揺する僕。
レンジャー:「何故レンジャーである我々がここに派遣されたのか考えてみろ。」
レンジャー:「ヤツラは騎士を殺した。」
レンジャー:「陛下の臣下である騎士をだ。」
レンジャー:「それは即ち陛下への反逆である。」
よしひろう:「でも!「正義をもって世を…」」
そう言おうとした僕をレンジャーが言葉で遮った。
レンジャー:「それは騎士の誓いだ!」
レンジャー:「レンジャーのではない。」
レンジャー:「我々の使命は敵を「探し、見つけ、殺す」こと。」
レンジャー:「セナのことはすまなかった…もう少し早く駆けつけていれば…」
僕にはもう返す言葉が見つからなかった…
セナが生きていてくれたらもっと違う感情だったのだろうか?
この任務の成功を心から喜ぶことができたのだろうか?
小男の生死なんて正直どうでもよかったんじゃないか?
単にセナを見殺しにしてしまった怒りをレンジャーにぶつけているだけじゃないか?
そんな考えが頭の中をグルグルと駆け巡る。
自身の考えが分からなくなり、セナの体を強く抱き締める僕。
「グハッ」という声が耳元から聞こえてきた。
と同時にセナが仰け反った。
「え?」とこちらを見つめるアスター隊長と騎士達とレンジャー4人。
僕も「え?」とセナを見る。
セナ:「ど…どう…なった?」
よしひろう:「お、終わりました!」
涙が嬉し涙に変わった瞬間だった。
セナ:「よしひろう…ひどい顔だぞ?…」
よしひろう:「元からですよ…(泣)」
アスター隊長:「よし!勝ちどきだ!」
アスター隊長&騎士達&レンジャー:「えい!えい!おー!!」
その後、セナは僕が騎士宿舎まで飛んで連れて帰ることになった。
お姫様抱っこで。
セナ:「これはさすがに恥ずかしいぞ(苦笑)」
よしひろう:「我慢しろよ。一応怪我人なんだし。」
よしひろう:「それに空を飛ぶのって初めてなんだろ?(笑)」
アスター隊長と騎士達、レンジャーは乗ってきた馬で騎士宿舎まで帰る。
セナを部屋まで送り届けた後、僕は着替えるためにロッカールームにいた。
普段着へと着替える僕。
今日の事は一生忘れられないだろう…
段々と意識が薄れていく。
目が覚めた。
目から涙が溢れていた。




