竣の笑顔
香月よう子side
「おはよう」
「ぉはよ」
朝一コマ目が始まる前のひととき。
学生達が講義室に入って来て皆、挨拶を交わす。
いつもの風景。
その日も紅羽は誰よりも早く入室し、最前列真ん中の席に座っていた。
そこはもう、「紅羽の指定席」という不文律になっている。
そして、
「おはよ、紅羽」
竣が、その右隣に座る。
これもまた、ルーティンだった。
「どうした? 紅羽」
しかし、その時。
竣が訝り、怪訝そうに紅羽に声をかけた。
紅羽が緊張したような面持ちで、竣を見つめているのだ。
「あ、あのね……。竣……」
「うん?」
紅羽は口籠り、次の言葉がなかなか継げずにいたが、遂に思い切って口にした。
「次の日曜日、映画観に行かない……?」
その紅羽の言葉を聞き、竣は一瞬、ぽかんとした。
「紅羽と二人で?」
そう、竣が尋ねたら、
「ううん! 違うの!」
紅羽が即座に否定した。
しかし。
「あの……例の幼児教育学科の茉莉ちゃんがね。映画のチケット4枚もらって、茉莉ちゃんは彼氏連れてくるから、私にも誰か男の子を連れてきて、て……」
と、紅羽はしどろもどろになりながら、そう説明した。
竣は一瞬、真顔で考えたが、
「俺でいいの?」
と、軽く問うた。
竣のその一言に、
「うん……」
紅羽は、真っ赤になって俯いている。
「次の日曜な。予定空けとくよ。詳しい話が決まったら、またLINEして」
破顔一笑。
竣は、いつものように明るく言った。
しかし、その笑顔は清々しく、嬉しさに満ち溢れている。
竣のその眩しい笑顔を見て、何故か胸の安堵を覚える紅羽だった。




