同期の絆
香月よう子side
紅羽は、学内のカフェテリア「サティア」で、ぼんやりと考え事をしていた。
今度の秋の学祭「鳴治祭」で、紅羽の所属する文芸サークル「鳴治館大学文士会」では、臨時の機関誌「清流特別号」を発刊し、一冊500円で販売する。
その為に、新たに原稿を書き下ろさなければならないのだが、それがうまくはかどらない。
それで、レポート用紙を前に、ミルクティーを頂きながら、構想を練っているところだった。
その時。
「紅羽ちゃん!」
紅羽を呼ぶ声がした。
はっと顔をあげると、
「心乃ちゃん……」
「文士会」同期で文学部一年の長谷川心乃が、紅羽の席の前に立っていた。
「なんだか難しい顔をしているわね」
「うん……。今度の「清流特別号」の原稿がね……」
「うまくいってないの?」
「うん……」
紅羽は素直に言った。
「私で良ければ、相談に乗るわよ」
「え? いいの? 心乃ちゃん?!」
「同じ同期の仲間じゃない。ここの席、同席してもいいかしら?」
「勿論!」
そうして、心乃は紅羽の前の席に座った。
「あら。でも、プロットのようなもの立てているし、少しは書けているみたいじゃない?」
心乃は、レポート用紙を見て言った。
「うん……。紘子先輩が、お題を出していてくれて」
「ふうん」
それは、童話だった。
十二歳の伯爵令嬢ルフィが、病弱だった母・ルイーザの死に際し、ルフィ七歳の時にルイーザから贈られた誕生日プレゼントであるオルゴールを、ルフィの隠れ家である屋敷の屋根裏部屋で、悲嘆に暮れながら一人聴いている……
そういった内容だった。
「なかなか良く書けていると思うわよ」
「でも、ラストをどういう風に持っていけばいいかわからなくて……」
「そうねえ……。私なら……」
心乃はひととき考え、それから紅羽にアドバイスをした。
それは、紅羽の元の原稿を尊重した上で、しかも実に的を射たものだった。
「心乃ちゃん! すごい!!」
紅羽は興奮したように、心乃のその的確なアドバイスに感嘆した。
「童話は、私の一番好きで得意分野だから」
心乃は、少し照れたように言った。
「でも、これなら私、このお話、最後までちゃんと書けそう!」
「そうね。紅羽ちゃんならきっとこれ、良い作品に仕上げられると思うわよ。何しろ処女作であの「都会の雨」を書いたんだもの。才能あると思うわ」
「そ、そんな……才能なんて……。高校時代も文芸部に入っていたのに、読むだけで何にも書けなくて……」
紅羽は俯いて言った。
「全て紘子先輩のお陰、てわけね。貴女の才能を引き出して、導いてくれたこと」
「うん……。紘子先輩のことは、心から尊敬しているし、感謝してもしきれない」
紅羽はしみじみと呟いた。
「でも、やっぱり、紅羽ちゃんの努力と才能あってのことよ。自信を持って!」
心乃は一言、明るく、紅羽を励ますように言った。
心乃ちゃんのようなサークル仲間がいて本当に良かった……
「文士会」に入部し、紘子先輩の存在があって、そしてまた心乃という仲間に恵まれたことを、紅羽は心から感謝した。




