ある日曜日の出逢い
香月よう子side
初秋のある日曜日。
紅羽は、駅前の百貨店「LUMNOUS」を訪れていた。
お洋服や、靴や、バッグ。ハンカチや財布、ストールなどの雑貨。何を買うということなく、ぶらりと散歩する気分で見て回っている。
こういうウインドーショッピングは嫌いではない。
流行をチェックしたり、審美眼を養うには最適だ。
実際、お佳になると「LUMNOUS」での買い物は、ほぼ趣味の領域だ。
だから、たまに二人で見て回ることもある。
お佳の買う物を眺めたり、商品にあれこれ感想を言い、ダメ出してみたり。そして、時には専門の喫茶室でゆっくりお茶をする。最後はデパ地下で、ささやかなお菓子や総菜を買ったりして、そういうことを紅羽は密かに贅沢な楽しみにしている。
そしてその日も紅羽は、ウインドーショッピングを楽しみ、あるスイーツ専門店で398円のアソートチョコレート一袋を買い、総菜屋さんで夕食用にコロッケ二個とポテトサラダを買うと、そろそろ帰ろうとしていた。
すると、どこからか何か子供の泣き声が聞こえてきた。
思わず周囲を見渡すと、遠くの方で、3歳くらいの小さな女の子が一人でわんわん泣いている。
紅羽は思わず傍に駆け寄った。
しかしよく見れば、隣に誰かがいる。
それは紅羽と同じような女子大生のように見えた。
泣きわめく女の子に寄り添い、懸命に相手をしている。
「あの…。この子、もしかして迷子?」
紅羽は勇気を出して、話しかけてみた。
「ええ。どうもママとはぐれちゃったみたいで」
「それならすぐ、案内所に連れて行かなくちゃ」
「うん。そう思うんだけど、どうにも泣き止んでくれないの……」
困ったように彼女は言う。
紅羽は考え、そして、先程買ったばかりのチョコレートを取り出した。
「お嬢ちゃん。これあげる」
紅羽は、一口大のキャンディのように包んであるチョコレートを一粒差し出した。
すると、女の子は一瞬、泣くことをやめた。
紅羽が、チョコの包みをはがし、そのチョコレートを女の子の手に握らせた。
女の子は、きょとんとしたようにして、しかし、そのチョコを口に入れ、もぐもぐと口を動かす。
食べ終わると、
「もっと」
と、女の子は言う。
紅羽は二つ、三つと女の子の気の済むまで、チョコを与えた。
そして、ようやく女の子は完全に泣き止んだ。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
紅羽が女の子に話しかける。
「さくら」
女の子はそう言い、そして、
「ママ……」
と、また泣き出しそうになった。
しかし、
「お姉ちゃん達がママのところに連れて行ってあげるから、お姉ちゃん達と一緒についてきてくれる?」
と、女子大生らしき彼女がそう言って、女の子の右手をそっと握った。
「うん」
さくらちゃんはさっきまでの癇癪が嘘のように、紅羽とその彼女と手を繋ぎ、一階の案内所まで連れて来られた。
案内所で受付嬢がしっかりと対応をし、程なく、さくらちゃんのママが一階のその案内所までさくらちゃんを迎えに来た。
「もう、本当に申し訳ありません! ありがとうございました」
さくらちゃんのママは、心から申し訳なさそうに紅羽達に何度も頭を下げる。
「いえ、さくらちゃんのおかあさまが、無事迎えにこられて何よりです」
女子大生らしき彼女が、落ち着いて答えた。
「あの…、失礼かと思いますが。どうかこれを……」
そう、さくらちゃんのママは言い、バッグからチケットのようなモノを二枚取り出した。
それは千円の商品券で、紅羽と彼女に一枚ずつ差し出された。
「とんでもありません!」
「そうです! 私達は当たり前のことをしただけです」
紅羽と彼女はがんと固辞した。
しかし、さくらちゃんのママの方が更に押しが強く、
「少ないですけど、どうぞ、それでお茶の一杯でも召し上がって下さい」
と、言い募り、結局根負けしたような形で紅羽と彼女はその商品券を受け取った。
「さくら。お姉ちゃん達にありがとうは?」
最後にさくらちゃんのママがそう言うと、
「おねえちゃん。どうもありがとう」
さくらちゃんは立派に挨拶して、そして、さくらちゃん母娘は帰宅の途についた。
後には、紅羽と女子大生らしき彼女が残された。
そして、改めてお互いを見る。
「手伝ってくれてありがとう」
彼女は優しく微笑んだ。
そして、
「せっかく商品券を頂いたことだし。さくらちゃんのママも言ってたように、良かったら一緒にこれで軽くお茶して帰らない?」
彼女は、フレンドリーにそう紅羽に話しかけた。
紅羽は一瞬迷ったが、それもいいかも…と思い直して、二人は、「LUMUNOUS」内の喫茶室「GRACE GARDEN」へと入った。




