お佳の特技
香月よう子side
お昼休み中。
「学食」で食事を済ませ、喋っているいつもの四人。
しかし、
「あ、もう後十分で「アセンブリー」の時間ね。私、「文士会」行かなきゃ!」
「俺も硬式テニス」
「俺は、いつも通り、「LL教室」で映画でも観るか」
そして、
「お佳は「サティア」にお茶しに行くんだろ?」
とのうのっちの言葉に、すぐには答えなかったお佳。
「お佳?」
「あ…、私は。「音楽鑑賞室」」
「はあ?」
「遥人先輩から誘われたの。「ピアノ部」に入らないか、て」
「はあ? 「ピアノ部」?! 何するとこだよ?」
「グランドピアノを部員かわるがわる好きに弾きながら、音楽の話をするクラブ……みたい。私も今日が初めてだから、よくわからないの」
顔を見合わせるその他三人。
「ま、まあ。楽しんで来れればいいわね。どういう感じだったか、また聞かせてね!」
と、場を取りなす紅羽。
「ええ」
お佳は、曖昧に笑った。
「音楽鑑賞室」の前に立っているお佳。
(どうしよう…… 遥人先輩は「気軽においで」て言ったけど……)
その時。
「やあ、岡田さん!」
振り返ると、遥人先輩が近づいてくる。
「よく来てくれたね。さ、入って」
そうして、お佳は遥人と一緒に「音楽鑑賞室」の中に入った。
「部長! おそーい!」
中には、男女合わせて7、8名ほどの部員がいた。
「音楽鑑賞室」の室内はかなり広く、防音設備が施してある。
一番奥に、「YAMAHA」のグランドピアノがあり、その前に長テーブルと折り畳み椅子がいくつか置かれている。
部員は、ピアノにもたれかかったり、テーブルの前の椅子に座っている。
テーブルの上には、1.5リットルの「午後の紅茶」や、軽いスナック菓子、クッキーなどのお菓子が置いてあった。
「…て、あれ? 彼女……」
男子部員の一人が呟いた。
「そう。今年のミス・キャンの誉れ高い「岡田佳」さんだよ」
「せ、先輩……!」
お佳は、さすがに委縮した。
しかし、
「岡田さん。初めまして! ようこそ我が「鳴治館大学ピアノ部」へ!」
「岡田さん、どのくらい弾けるの?」
「何でもいいから、一曲弾いてみてよ」
先輩なのか、同じ新入生なのかわからないが、皆が口々に好き勝手を言う。
その雰囲気からすれば、およそ「ピアノ部」という名称から連想される堅苦しさのようなものはまるでない。
「私、下手ですよ」
ようやく、お佳が自分らしさを取り戻して言った。
「ピアノの経験はあるの?」
「まあ…。3歳の頃から習ってましたけど」
「いつまで?」
「ついこの前まで……高校卒業までです」
「それなら、かなり弾けるね。お得意を一曲是非!」
押しの強いピアノ部員。
お佳は覚悟を決めて、グランドピアノの前に座った。
一息、深呼吸をする。
そして。
おもむろに奏で始めた。
「これは……」
「ああ」
部員が皆、真剣にお佳の演奏に聴き惚れる。
最後の一音を弾き終え、束の間の静寂。
お佳がピアノから離れ、一礼する。
そして、部員たちから盛大な拍手が沸き起こった。
「すごかったね! 今の「テンペスト」第三楽章!」
「ああ。これぞまさにベトソナ(ベートーヴェンのピアノソナタ)だな」
全部員が感動して、お佳のピアノを褒め称えた。
「岡田さん、やっぱり弾けるじゃないか。自分は全く、みたいなこと言ってたけど」
遥人が苦笑交じりにそう言った。
「でも……音大に行かれるような方々と比べれば、全然です」
「それは、そもそも比較対象が違うよ」
「ねえ、岡田さん。他に何が得意なの?」
「好きな曲、作曲家は?」
部員がお佳を囲む。
「好きなのは、ショパン、ドビュッシー、ラヴェル、バッハ、モーツアルト、ベートーヴェンです」
「おお! さすが懐深いね」
「ねえ、他にももっと弾いてよ!」
すっかり、ピアノ部員の関心を集めたお佳。
その後も結局、ドビュッシーの「月の光」、イ短調のモーツアルトのソナタ、ショパンの「別れの曲」、リストの「愛の夢」を披露し、すっかりピアノ部員の心を掴んだ。
そして何よりピアノ部部長の遥人の推しで、お佳は結局、「鳴治館大学ピアノ部」に入部することになった。




