偶然なのか?必然か……
香月よう子side
そうして、一夜が明けた。
「おはよう。お佳」
「……はよう。紅羽」
ベッドの中で、まだ半分夢の中にいる体で、お佳は言った。
「早いわねえ、紅羽。もう準備してるの?」
紅羽は、まだナイティーのままだが、メイクを始めているところだった。
「紅羽のメイク道具、可愛いじゃない」
お佳が、しげしげと紅羽の化粧ポーチの中を見つめて言った。
「え? お佳が使ってるような高級ブランドじゃないわよ」
それは、ドラッグストアで売っている「CANMAKE」のピンクのクリームチークに、ピンク・ブラウンの二色アイシャドウ、グロスだけちょっと背伸びした「JILL STUART」のロゼピンクだった。
「そういうプチプラアイテムでも、紅羽が使えば効果が違うわね」
「やだ、お佳。言っても何も出ないわよ」
朝から、女二人で盛り上がる。
お佳もメイクを済ませ、昨日の装いとは違う紺のボーダーTシャツに、白い七分丈のクロップドパンツに着替えると言った。
「紅羽のリネンのワンピ、可愛い~!」
それは、麻の赤いタータンチェックのシンプルなミモレ丈のワンピースだった。
「ふふ。これ、今年の夏一番のお気に入りなの」
紅羽が、嬉しそうに笑う。
メイク道具や私服などのあれこれも、女同士の旅の楽しみの一つだ。
「竣にLINEいれたら、準備出来てるって。チェックアウトの準備して、食堂前で落ち合おう、て」
「あの二人にしては、上出来じゃない。ま、竣がうのっちのお尻叩いたのが目に見えるようね」
くすくすとお佳が笑う。
その笑顔は何の混じりけもなく、すっきりとした表情だった。
それを見て、紅羽は内心、この海に来て本当に良かったと思う。
「紅羽! お佳。おはよう!」
「おはよう! 竣。うのっち」
四人は、午前八時半前に食堂まで来た。
「ここの朝食ビュッフェは期待できるらしいぜ」
「へえ。どんなんかなあ」
「本格フレンチに、スイーツもケーキだけで十五種類あるらしいから、紅羽たちはそっちをメインに楽しんでもいいと思うよ」
「うわ。フランス料理にケーキバイキング、てわけ? そりゃ、楽しまないとね」
「お佳はダイエットしてないのか?」
「ダイエットはメリハリが大事なの。楽しむ時は楽しまなきゃ!」
そうして、四人は約一時間かけて、贅沢な朝食ブッフェを味わった。
焼きたてのクロワッサンにベーグル、ローストビーフとポトフは料理の中でもとりわけ美味しく、スイーツも種々のケーキに三種のアイスクリーム、新鮮なメロンやオレンジのフルーツポンチと、とてもバイキングとは思えない極上の味だった。
四人は盛り上がりながら、存分にそれらを堪能した。
チェックアウト時間の午前十時前に、四人はホテルを後にした。
予定通りの帰りの電車に乗り込み、目の前を海辺の風景が通り過ぎてゆく。
「ああ。いい二日間だったわね」
お佳が窓枠にもたれかかり、外の風景を眺めながら、そう言った。
これで、ちょっとはお佳の傷心が癒えてくれればと、三人が三人共、黙ってはいるが同じ想いだった。
「あ……」
「どうしたの? 竣」
「いや。何でもない。悪い」
竣は、とっさに取り繕った。
その時、初めて竣は気付いたのだ。
行きの電車では、紅羽とお佳、竣とうのっちが隣同志だったのに、帰りの今、竣の隣には紅羽、うのっっちの隣にはお佳がいる。
それが単なる偶然なのか。
竣には判断がつかなかったが、四人がごく自然にそう振る舞っていることを、嬉しく思う竣だった。




