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未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学1年生
57/160

夜の海のふたり

香月よう子side

(な、なんでこんな展開になったんだ……?!)


 うのっちは考える。


 今、自分はお佳と手を繋いで歩いている。

 お佳は、手は繋いでいるものの、だんまりだ。

 海までは、徒歩約五分。

 しかし、うのっちにとっては、永遠の様だった。


「もういいわよね」

 浜辺に着き、お佳は手を離した。

「あ、ああ。もういいだろ? 紅羽?……て、あいつら、どこにいるんだよ?!」


 後ろを振り返ると、二人の姿が見えない。


「あの娘ったら……」

 完全にしてやられた風に、お佳はため息をついた。


「まあ、せっかくここまで来たんだから、暫く海を見て帰りましょ」

 お佳が、さばけた口調で言った。


 日はもうとっくに暮れて、海は昼間の海と様相を異にしている。

 日中は砂浜だった場所が、波間に隠れて、もうそこまで波が押し寄せている。


 暫く、黙ったまま、二人は海を見ていた。


「夜の海、て何だかすごいわね」

 お佳が呟いた。

「すごい、て?」

 うのっちが問い返す。

「闇の中、大きくて、広くて、飲み込まれて行きそう……」

「おい、変なこと考えるなよ」

「変なこと、て?」

「いや……。俺の杞憂だったら、それでいい」

 うのっちは、お佳がまるで、入水するのではないかという想いにかられたのだ。


「夜の海なんて、中三以来だわ」

 お佳が語る。

「修学旅行で、宮島に泊まったのよ。その夜、仲のいい友達と二人で、旅館を抜け出して、海を見に行ったの。やっぱり、足元まで波が押し寄せて、その娘と一緒に、砂浜に他愛のない文字を書いて……」


 お佳がその時を懐かしむように、言った。


「でも、まさかあんたと二人で夜の海を見に来るなんて、想像もしてなかったわ」

 お佳は呆れたように、でも、くすっと笑った。


「なあ、お佳……」

「何?」

「お前、まだあいつのこと好きなのか?」


 そのうのっちのストレートな問いかけに、お佳は暫く黙っていた。


「忘れよう。忘れなきゃ、て思うんだけど……。うまくいかない。私の「初恋」だからね……」

「初恋、て嘘だろ?!」

「なんで驚くのよ? 私は、初等科からずっと女子校だったのよ?」

 考えてみれば、そうだ。きっと規律も厳しい学校だっただろう。

大学でやっと自由の身になって、初めて恋に堕ちてもおかしくはない。


「お前には、もっといい奴が現れるさ」

 うのっちが、励ますように言った。


 お佳は、そのうのっちの言葉に、暫く反応しなかった。


 しかし、お佳はまた泣き出したようだった。


 うのっちは、あの花火大会の夜の様に、お佳を抱きしめてやりたい衝動にかられた。

 

 けれど、そんなことは出来ない。

 俺は、お佳の彼氏でも、想い人でもなんでもない。


 それでも。


 うのっちは、再び、お佳の右手をぎゅっと握った。


「うのっち……?」

 お佳は不思議そうに、自分より15㎝ほど背の高いうのっちを見上げた。


 その横顔は、いつもの頼りないお茶らけたうのっちではなく、ただ眼前に広がる広大な夜の海をじっと見つめている真剣な顔だった。


 お佳もまた、前を見つめ、そしてほんの少しだけ、うのっちに握られている右手をぎゅっと握り返した。




 一方、紅羽と竣は、お佳たちとは方向が違う海の岩場に来ていた。


「あの二人、今頃どうしてるかしら?」

 紅羽が、岩場に腰かけながら、言った。


「そうだな。少しでいいから、あいつらの仲が進展してるといいな」

 竣もまた、紅羽の隣に座りながら言った。


「恋、て、難しいのね」

 紅羽が呟いた。


「あんなに激情を剥き出しにして、誰かを想い続ける、て、私にはピンとこない」

「紅羽は、誰か男を好きになったこと、ないの?」

 その竣の問いかけに、

「わからない。好きになった男の子がいた気もするけど、今はよく覚えていない」

紅羽は、色のない声で答えた。


「どうして、お佳みたいに綺麗で、何でも出来て、性格もいい娘がああいう想いをしなきゃならないの」

 紅羽は、理不尽だと言わんばかりに、そう言った。

「こればっかりはな。お佳の片想いの男じゃないけど、「運」と「タイミング」だと俺も思うよ」

 竣が冷静に答えた。


「お佳……立ち直ってくれるわよね」

「ああ。「時間」がいずれ解決してくれるさ」


 それっきり、ふたりはただ黙って、眼前に押し寄せてくる波を見つめていた。


 竣は、いつかまた紅羽とふたりで、お互いに特別な想いを抱いて、夜の海を眺めてみたいと思った。



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