お佳の告白
香月よう子side
夜11時25分。
お佳は、大地が住むマンションの前に立っている。
大地がもうすぐ帰ってくる。
それは、確かめた。
そして、大地は11時30分過ぎに帰って来た。
「佳ちゃん」
「大地さん……」
お佳はまっすぐ大地の目を見つめる。
「こんな時間に、女の子が出歩くもんじゃないよ」
大地が諭すように言う。
「だから、うちまで送って下さい。終電もうない……」
「我儘だね」
そう言いつつも「おいで」と大地は言い、また駐車場へとユーターンした。
「で、何しに来たの」
大地が車を運転しながら、助手席のお佳に声をかける。
「もう、耐えられない」
お佳が声を絞りだすようにそう言った。
「大地さんに彼女がいるのはわかってる。でも……。私は大地さんのことが好き」
「けじめをつけにきた、てことか」
と、大地が呟いた。
高速で、オレンジ色の光の中を走りながら、
「俺の気持ちは変わらないよ。彼女と別れる気はない。だから、君の気持ちには応えられない」
はっきりと大地は言った。
その一言、一言がお佳の胸を鋭く貫いた。
車は、お佳のマンションの前に停まった。
「部屋まで送るから、降りて」
そして、お佳は大人しく車を降りる。
大地は、お佳に寄り添うように歩く。
お佳の部屋の前で、二人は対峙した。
「どうして……」
お佳は、絞り出すように呟いた。
「こんなに。こんなに大地さんのことが好きなのに……。どうして……」
お佳は泣き出していた。
「もし、私が彼女さんより前に大地さんと知り合っていたら、彼女にしてくれましたか?」
「多分ね」
大地はさらりと呟く。
「縁がなかったんだよ。俺たちは」
「縁……?」
「そう。俺が佳ちゃんと知りあう前に、今カノと出逢ったのは、「運命」だった。運命には抗わない方がいい」
「そんな……」
お佳には、にわかには大地の言葉を受け止めることができない。
「どうしたらいい。どうしたらいいの……」
お佳はうわ言のように呟きながら、大地の胸の中で泣いた。
そんなお佳に、気の済むまで胸を貸す大地だった。




