最後に落ちた爆弾
これにて完結!少々急ぎすぎた感じはありますが、ご希望があればその後の二人の生活、その後異世界がどうなったのか等を番外編としてアップしていきたいと思いますので、お気に召しましたら是非ブクマ&評価をよろしくお願いします。
「電話?」
ほくほく顔の薫が鼻歌気分で後片付けをするのを手伝いながら、突然なったスマホに、雛子が首をかしげる。
こんな時間に誰からだろうか?
着信は数度コールを鳴らして止まったが、一応誰からだったのか確認しておく。
「…あれ……?」
着信履歴を見て、ますます謎は深まった。
「どうしたの、雛ちゃん?」
「いえ、純也さんから電話が来てるみたいなんですけど…」
「純也から?」
薫の眉間にも皺が寄る。
つい先ほどまでここに来ていたというのに、一体どんな用があるというのだろうか?
「とりあえずかけ直してみますね…」
もしかしたら慶一に何かあったのかもしれない。
というか、純也から電話といえばそれしか思い浮かばないのだ。
薫は渋い顔をしているが、とりあえず何も文句を言うつもりはないようだ。
「……もしもし?望月ですけど…」
呼び出し音の後、あちらでも待ち構えていたのか、すぐに相手が電話に出た。
『ひよちゃん!』
「……慶一くん」
元気のいいその声に、何か問題があったわけではなさそうだとひと安心する。
もしかして、慶一のいたずらで電話がかかってしまったとか、そういうことだろうか。
「お電話をかけたのは、慶一くん?」
念の為に確認すると、『うん!』という元気なお返事が。
「どうしたの?なにかご用事?」
『あのね、あのね、ぼくひよちゃんにいいたいことがあったの』
「なぁに?」
「…どうしたの?雛ちゃん。慶一から?」
片付けを全て済ませた薫が、すぐそばで聞き耳を立てる。
そのタイミングを見計らったように、その爆弾発言はやってきた。
『<こんかい>はでおくれたからゆずってあげるけど、つぎはぜったいに<また>ぼくがひよちゃんのだんなさんになるから』
「……え?」
瞬間的に思考が凍りついた。
声が漏れ聞こえたらしい薫が、雛子からスマホを奪い取ると、変わって電話口に立つ。
「慶一か!?まだそんなことを!だから雛ちゃんは僕のだって……!」
『だってずるいんだもん。ぼくはやっとひよちゃんにあえたばっかりなのに、あなたはずっとそばにいられたんでしょ?まえもそうだったのに、やっぱりずるいよ!ぼく、ぜったいにあきらめないんだから』
「……慶一?お前、何を言ってる?」
―――――慶一の様子が、どこかおかしい。
なんだか行っているセリフが妙だ。
今回は、だの、前は、だの…。
「まさかお前…!!」
ハッと何かに気づいたらしい薫が、電話口に向かって声を荒げる。
「アイツか!」
『――せめて、もうちょっとはやくうまれたかったなぁ』
薫の問いかけに答えず、全く別のことを語る慶一。
その口調は、完全にいつもの彼のものとは異なっている。
「お前猫を被ってたのか!?」
『ぼくはけがわなんてかぶってないよ。ぼくはぼくだもん。けがわをぬいだのはそっちでしょ』
「……やっぱり…」
「どういいうことなんですか、これ…?」
横で聞いていた雛子も、思わぬことに真顔で薫を見返す。
「どうもこうもないよ…。すぐそばに一番厄介な敵がいたって判明したって事…!」
「敵って…」
「慶一!前はお前に譲ってやったけどな、今回は絶対に譲らない!いや、これからずっと!」
電話口に向かって吠えるように噛み付く薫。
『でもひよちゃんはわかいほうがいいっていうかも…』
「言わない!」
――――うん、さすがに小学生はちょっと無理だ。
『しょうがないなぁ。でもね、ふたりともろうごはぼくがめんどうみてあげるから、あんしんしてね』
「……薫さん、なんか幼児に老後の世話を確約されてるんですけど…」
「相変わらずこまっしゃくれたセリフばかり吐いて…」
はぁ、とため息を吐く薫。
「え?雛ちゃんに代われって?嫌だよ」
「…ちょっと薫さん…変わって下さい。……慶一くん?」
半ば強引に奪い取るようにして電話口にでれば、『ひよちゃん!』という元気な声。
いつもと何も変わらないように思えるが…。
『あのね、ぼくはずっとずっと、ひよちゃんのことがだいすきだよ。
いつでもぼくにのりかえてくれていいからね。――――――あいしてるよ、ぼくのおくさん』
「……!!」
たとえ仮初であろうとも、雛子を妻と呼ぶことができたのは、唯一人。
それに気づいた瞬間、手に持っていたスマホが薫によって強引に奪い取られる。
そのまま通話終了ボタンを押した薫は、だめ押しとばかりに電源まで全て切ってしまった。
「……薫さん、まさか…」
「その、まさかだろうね…。あいつまでこっちに来てるなんて…」
一体、彼はいつ記憶を取り戻したのだろうか。
少なくともそんな様子など微塵も見せなかったというのに。
「絶対に最初から記憶があったんだと思う。まともにやりあっても勝負にならないと見て、わざと子供っぽい素振りで油断を誘ったに違いない」
あいつ性格悪いから、とはっきり断言する薫。
「こうなると純也も怪しいか…?でも誰だ…」
「…やめてくださいよ薫さん、変なこと言い出すの…」
まさか、向こうにいた面々が続々と顔を出し始めるんじゃないだろうな…?
ぐるり、とこちらに振り向いた薫が、真剣な様子で雛子の肩をだく。
「誰か来ても僕が一番だよね、雛ちゃん!」
「そりゃそうですけど…」
折角お互いに愛を確かめ合った直後に、これ。
「ちなみに雛ちゃん……アイツの事ってどれくらい覚えてるの…?」
「…う~ん…。私にとっては昔見た映画の登場人物みたいな感じですかね…。慶一君が実<あの人>だったって言われても、まだどうも上手く重ならないというか…」
確かに最初に会った時は彼も子供だったが…。
「あざといのはあいつの常套手段だからね、騙されちゃだめだよ雛ちゃん!」
「……なんだか何を信じていいのかわからなくなりそうです」
かわいい子供だと思っていた慶一が、今まで一体腹の中で何を考えていたのか…。
そう思うと、最初からずっと慶一の態度は怪しい。
なぜかすぐに雛子に懐いて、家に泊まりに来たがったり、しょっちゅう会いに来たり…。
記憶が途中から蘇ったのだとしても、もしやかなり最初の方からだったのでは…。
「これからは絶対油断しちゃダメだからね、雛ちゃん」
「……気をつけます」
中身が大人だとしたら、少なくももう二度と家に泊まらせることだけはないだろう。
「やっぱりはやく一軒家に引っ越そう。んで、あいつらとは連絡を切る…!」
決意を決めたらしい薫が握りこぶしを固める。
それに苦笑しながら、「まぁ無理だろうな」と雛子は思った。
なにしろ彼らは薫の父親と繋がりがある。
縁を切ることは難しいだろう。
それに雛子にとっても、慶一はまだかわいい子供のままだ。
「不謹慎かもしれませんけど……正直ちょっと嬉しいんです」
「?」
「薫さんがいて、あの子がいて、みんな笑っていられる未来がある。そう思うと」
もう、何も気にする必用はなく、皆で一緒に過ごすことができる。
終わりを待つ必要はない。
「雛ちゃん…」
雛子は微笑み、薫のそばまでやってくると、その額に自身の額をくっつけ、肩に両腕を回す。
「幸せになりましょう、みんなで」
「…うん」
薫と雛子と慶一と…。
もしかしたらまだまだこの世界には隠れているのかもしれないが、みんながそれぞれに新しい道を歩めればいい。
なんのしがらみもない、この世界で。
「ここから、永遠を始めよう」
最後まで読了ありがとうございました!




