第四話 廃墟
「ここか……」
魔力残滓を辿り、行き着いたのは山の中にある廃墟である。自然の地形を利用して作られた建物を再利用しているようだ。ローブの陰から、廃墟を見下ろす。
此処に土と骨で作られた『偽りの弟』を作った者たちが居る筈だ。その者たちを拘束し、弟の居場所を絶対に吐かせる。
「数十人と……こちらが、本命か……」
水魔法を使い、内部に居る者たちを探る。数十人が廃墟の中に点在し、上層階に数人が固まっているようだ。魔力の波形からして、上層階にいる者たちが『偽りの弟』を製作した者たちである。
『偽りの弟』の制作の居場所を突き止めたが、俺が安堵することはない。弟が生まれてから三年程経過している。弟が如何いう状況にあるか分からない。
唯一の救いは、弟がラスボスであるという情報だ。
ラスボスは、主人公と対峙する役目がある。それまでは無事である筈だ。しかし生きていれば良いという話でもない。将来の国王には求められるものが色々とある。愚かな者たちの行いにより、弟は3年間を無駄にしているのだ。国王になるには、その空白の3年間を取り戻さなければならない。
更にはこの愚かな行いを計画した者が居る。そちらの対応も必要になるだろう。だが、俺がやることは変わらない。弟を救出し、俺が一人前の国王へと育て上げる。そして俺はゆっくり快適生活を満喫するのだ。それを阻むものは何であれ、全力で排除する。それだけだ。
「騒がれると面倒だ」
弟を救出するのに、『偽りの弟』の製作者たち以外は邪魔である。水魔法で紐のような形状を作ると、手足と口を拘束していく。
現在は深夜であるが、明け方が近い。日が昇れば、城の臣下が俺を起こしに来るだろう。分身を見破られることはないと思うが、不測の事態に対応するには心もとない。早急に弟の居場所を聞き出し、城に帰還をしなくてはならないのだ。
「さてと……」
俺は砦が見える岩から飛び降りた。そして男たちを拘束した紐を形成すると、砦の一部に巻き付け砦へと静かに降り立つ。前世社畜の俺だが、今世では運動神経抜群である。物音一つ立てずに、着地をするなど不思議な感覚だ。だが、俺は運動神経抜群よりもゆっくり生活を過ごしたい。
「この部屋だな」
通路に倒れている男たちを避け乍ら進むと、目的の上層階に辿り着く。扉が無い為、奥から男たちの話し声が聞える。『偽りの弟』を製作者し、何を企んだかは分からない。だが俺の計画を阻み、弟を奪った愚か者が居る。その面を拝んでやろう。そう思いながら、足を踏み出そうとした。
「……おい!! これはなんだ!!?」
「……ちゃんとやれよ!!」
奥から怒声が響いた。
「あぁ!? 謝ればすむと思っているのかよ!? この餓鬼はよ!?」
「本当にな! 何度目だ!? 掃除も碌に出来ないのか!?
「この出来損の屑が!!」
複数の男たちの大声で罵倒する声が上がる。何かは分からないが、如何やら揉め事のようだ。仲間割れならば利用することが出来るが、今の俺は余り時間をかけている暇はない。全員拘束した上で、選択肢を与えることにしよう。魔法を発動しようと、手を構えた。
「……ご……ごめんな……さい」
幼く、怯える声が鼓膜を揺らした。
「……は……」
小さくか細い声だが、俺にははっきりと聞こえた。その声に思わず、構えた手をそのままに固まる。
何故か分からないが、その声の主が弟であると俺には感じられたのだ。もしかすると俺が弟の存在を求める余り、幻聴が聞こえたのかもしれない。何せ、俺は弟の声を聞いたことがないのだ。産声する聞くこともなく引き離された。弟の声など知る由もない。だが俺の心は、弟の声であると強く確信している。ならば、その心に従うだけだ。
弟がこの場に居るとは完全に予想だ。これで弟の居場所を聞き出す手間が省けた。嬉しい誤算である。後は、この者たちを無力化し弟を連れ帰るだけだ。
「やっぱり!! 餓鬼には躾が必要だな!!」
「俺たちだって! やりたくないが! ちゃんと出来ないお前が悪い!!」
「これはお前の為だ! 教員だ!!」
「……ひっ……ご、ごめんな……さい……」
愚か者たちを締め上げようと、一歩踏み出した。すると、複数の男たちが弟へと殴り掛かろうとしている。
「あ?」
その光景に目の前が、怒りの余り真っ白になる。
三年越しに弟と会うことが出来たというのに、俺の心は晴れない。
何故俺の大切な弟は殴られそうになっているのだ?何の権利があって俺の弟に暴言を吐いた?何故、弟は愚か者に怯えなければならない?いくら弟が幼いとはいえ瘦せ細り過ぎではないか?着ている洋服が簡素で薄汚れているのは何故だ?手足に怪我があるのは何故だ?
俺の大切な弟が何故、このような仕打ちを受けている?
「忌々しい」
俺は弟を殴ろうとしている男たちを水の紐を作り出し、瞬時に拘束する。一体、誰のものに、誰の許可を得てこのような暴挙に出たのだ。弟の凶報を聞いた時と同じ位に、気分が悪い。
「おい、貴様ら……誰の弟に手を出している……」
床に転がった男たちを、冷たく見下ろした。
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