第90話 モブキャラ、修行する
「で、勝算は?」
「半々かなぁ。久しぶりに修行しないと」
「相変わらず行き当たりばったりね……」
レアに呆れられてしまう。
思い通りに上手くいくことなんて、そうそうない。
アドリブで乗り越えてこそ、人生は面白い。
……本当はもう少しスムーズに進むと思ってたんだけどな。転生してからトラブルが多すぎる。
「大丈夫だよっ。ダーリンなら、あんなお漏らし委員長に負けないって♪」
「誰がお漏らし委員長ですか!! お姉さんに負けて泣きじゃくってたくせに!!」
「な、なんでそれを……!?」
風紀委員会の連中が、どこかに潜んで情報を得ていたんだろう。
ってことは、俺の計画も全部筒抜けか……まぁいいや。
「起こしてしまったものは仕方ありません。ですが、ゼクス・バーザム」
「ん?」
「貴方に遠慮はしません。徹底的に叩きのめします」
覚悟のこもった視線で俺を見つめ、ナターシアは部屋を後にした。
「ゼクス」
「ん?」
と、リーンが俺の袖をちょいちょいと引っ張る。
「結構大変だよ」
「大変? 俺が負けると思ってるのか?」
「そうじゃない。委員長は、すごく強いから」
リーンがそうまで言い切るってことは、相当だな。
流石に固有武器や戦術は大きく変わってないと思うが……一応聞いてみるか。
「二種類あるんだろ? 固有武器が」
「……流石。よく知ってるね」
大当たり。伊達に原作をやり込んだわけじゃない。
「固有武器が二種類? どういうことですの?」
「そのままの意味だ。鞭と弓――それがナターシアの固有武器」
「えぇ!? 二種類あるなんて聞いたことないよ!?」
武器に詳しいサーシャがここまで驚くってことは、この世界でも二種類の固有武器はかなり珍しいらしい。
「デュアルウェポン。風紀委員長になるだけあって、才能にも恵まれているよな」
原作では中盤と終盤で立ちはだかる敵として登場した。
二種類の武器を風魔法で自在に操るその姿――あれは、かなり厄介だった。
……なんで戦ったんだっけな。
確か主人公がナターシアの胸を揉んでしまって……どこのエロゲだよ。まぁ、ゲームだけどさ。
「対策はあるのかしら?」
「武器が増えただけ、と考えればいい。簡単だろ?」
「そんな、あっさりと……」
確かに攻撃手段は多い。だが、対策ができれば無意味だ。
多いことが正義じゃない。倒せなきゃ、意味がない。
「そういやナターシアを万全にしないと……神聖水でも使ってやるか」
「神聖水を!?」
「これさえあれば問題なし。約束も守れて一石二鳥だ」
「依存させるとは言いましたが、ここまでとは……」
貴重な道具も、使い方とタイミングがすべてだ。
資産として抱えるより、こういう場面で使う方が面白い。
「で、ゼクスはどうやって鍛えますの?」
「とりあえず魔力充填からだな」
「魔力充填?」
その場にいた全員が息をのむ。
「さらに凝縮させた魔力充填――“魔力神填”を使いこなす」
地道に修練を重ねてきた、あの秘儀。
ついに、それを披露する時が来た。
◇◇◇
「魔力神填とは?」
「魔力充填をさらに凝縮させたものだ。充填のままじゃスピード特化にしても追いつかれるからな」
「なるほど……確かに速いけど、見えますわね」
その時点でおかしいんだよな。
魔力充填は本来、ステータスを尖らせることに特化した魔法。
その上がり幅は、ゲーム内でもトップクラスだったはずだ。
だが――インフレのせいか、全員余裕で見切ってきやがる。
だから、上位互換が必要だった。
「というか、修行してましたのね」
「作業しながら魔力のコントロールをしてた。魔力神填に耐えられる身体を作るためにな」
「あぁ……どうりで貴方の身体から魔力を感じる機会が……」
もう二ヶ月くらいになるか。
日課のトレーニングと、実務中の魔力訓練を繰り返す。
魔力神填は強力だが、同時に危険な魔法だ。
存在そのものがイレギュラー――だからこそ、時間と身体が必要だった。
「どれどれ、早速……」
周囲はスライムたちが暮らす、何もない訓練部屋。
リーンの治療もあるし、何か起きても対応できる。
俺は右腕に魔力充填を施し、その上にさらに魔力を流し込んだ。
「っ!!」
「ちょっと!?」
……が、失敗。
魔力は暴走し、皮膚から血が吹き出した。
「ってぇ……やっぱコントロールが難しいな」
「このままだと身体を破壊されますわよ!? というか、このレベルの魔法を使おうとしてますの!?」
「じゃないとナターシア戦はキツい。まぁ、ずっと魔力神填を使うわけじゃないし……」
幸い、傷は魔力充填で回復できる。
魔力回復も神聖水がある。
つまり、気力と時間が続く限り――訓練はできる。
「レア、外から魔力の流れを見てくれ。多分、俺だけじゃわからないこともある」
「そうねぇ……魔力の放出が多いから、抑え込む分に魔力を回した方がいいわよ」
なんと的確な指導。
魔法に関しては、さすがエキスパートだ。
「肉体が弾け飛ばない程度に頑張りますか……」
「相変わらず無茶ばかりしますわね……」
無茶ばかりの環境にいるんだ。仕方ない。
俺はひたすら、魔力神填のトレーニングを続けた。
失敗しては傷を治し、
失敗しては傷を治し、
それでも、確実に前進している感覚がある。
何より――試行錯誤するのは、楽しい。
魔法に関するトレーニングなんて、前世にはなかったからな。
「……何故笑っていますの?」
「面白いから」
ワケがわからないと呆れられながら、修行の時間は過ぎていった。
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