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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
3章 モブキャラ、修行する

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第72話 モブキャラ、変化に驚く

「その……女の子だったのか……?」

「ううん、男だよ」

「だよな……うん……」


 一旦、話を整理させてほしい。

 目の前にいる黒髪ツインテールが原作の主人公?


 原作に性別変更イベントなんてなかった。

 つまり、これは完全に女装ということになる。


 ……なんで、そんな方向に変化してるんだ?


「何かイベントでも出るのか?」

「え? 特にないよ?」

「つまり趣味で?」


 ライトがこくりと頷く。

 同時に、俺は頭を抱えた。

 過去一番の衝撃が、冷静さを根こそぎ奪っていく。


 別に否定するつもりはない。

 似合っているし、可愛い。

 本人がそうしたいのなら、それを尊重するべきだ。


(……すげぇな)


 ただ、受け止める時間はほしい。

 原作主人公が女装堕ちなんて、さすがに予想外すぎる。

 一体何があった? どうしてこうなったんだ?


「経緯を説明してもらっていいか?」

「あぁ、そうだよね……実は病んで病んで、三日くらい引きこもってた時期があって……」

「引きこもってた?」


 俺がフィールドロワイヤルやリーンの治療でバタバタしていた間に、そんなことが起きていたとは。

 ようやく落ち着いて顔を出そうかと思ってた時に……いろいろ噛み合わないな。


「そんな時にユイが、いろんな楽しめることを教えてくれてね」

「で、その中で一番ハマったのがこれか……」

「うんっ♪」


 その仕草……完全にアイドルだ。

 誰かを射止めるために計算されたような、あざといスマイル。

 それも全部ユイの仕込みなのか?

 “ハマった”というより、“まるごと入れ替わった”と言っていいレベルだ。


「あ、ライトー!! 大丈夫だった!?」

「うん、なんとか逃げてこれたよ」


 と、ライトを変えた張本人・ユイがやってくる。


「あんまり無理しないでね。ライトは可愛いんだから、すぐ狙われちゃうよ」

「大丈夫だよ。それにユイもいてくれるでしょ?」

「もぉ、そういう言葉はどこで覚えたのかなー!?」


 二人だけの世界でイチャイチャし始める。

 俺が知らない間に、ずいぶんと距離を縮めたらしい。

 原作主人公がヒロインと結ばれたのは何よりだが……結果はちょっと複雑だ。


「それと、恩人である友達を助けたかったからね」

「恩人?」


 俺のこと? そう思って指を指すと、ライトは元気よく頷いた。


「迷っても自分のやることを信じて突き進めって。だから、自分に素直になってみたんだ♪」

「……」


 OK、すべて理解した。

 原因、俺だわ。


 確かに間違ってはいないし、ライトも楽しそうだからいいけどさ?

 あのアドバイスから女装ルートに行くのか!?

 もう何を言えばいいのかわからん……


 言葉には魂が宿るというけど……俺の“美少女好き”が無意識に影響したんだろう。

 うん、そういうことにしておこう。これ以上考えたら頭がパンクする。


「あら、珍しくうろたえてるじゃない」

「一か月前に会った男友達が女装にハマったんだぞ?」

「……まぁ、びっくりはするね」

「ウチも驚き」


 三人は面識こそないが、事情を聞くと同じように乾いた笑みを浮かべた。


「ほんと可愛いなぁ……今度またデートに行かない? いい店知ってるの……ふふっ♡」


 ユイのその笑顔――

 笑っているのに、その奥から闇のような愛を感じた。

 “可愛いものが好き”というより、“ライトを可愛いに染めたい”タイプだな、これ。


 俺の言葉が結果的に二人を妙なルートへと導いてしまったということか……ははは。


「というか聖教委員会なんてヤバいとこ、関わったらダメだよ? そのせいで、Aクラスでも混乱が起きてるのに」

「Aクラスが? 何が起きてるか教えてくださいまし」

「は、はい……って、レア・スカーレット!? こっちはサーシャ・クラウンって……メンツが凄い!?」


 今さら気づいたのか。

 ガクガク震えながら、ユイは状況を説明する。


「Aクラスでは聖教委員会を支持する生徒が増えていて。私たちにも押し売りみたいに信者にならないか迫ってくるんです~」

「Aクラスが? あいつら、下級クラスメインじゃないのか?」


 さっきの演説も下級クラスに向けたものだった。

 反応も悪くなかったし、信者はその辺の人間がメインだと思っていたが……。


「……サクラですわね」

「サクラ? まさかあの生徒達って」

「半分は聖教委員会の人間。金に任せて人を集めたのでしょう」


 妙にバルカン寄りの意見が多かったのはそれか。

 最初から俺はアウェーに立たされていたというわけだ。


「そもそも下級クラスにはお金の余裕がありませんわ。なのに免罪符などであくどい営業を続けるってことは……」

「下級クラスの支持が薄い?」


 その瞬間、ようやく腑に落ちた。

 聖教委員会の委員長が自ら演説していた理由が。


「上級クラスからすれば、お金を払うだけで公爵家の人間であり、聖教委員会のトップとも深く関われますわ。けど、上級クラスには生徒会や風紀委員会を支持する層も一定数存在する」

「つまり、影響力を発揮しきれないわけか」

「えぇ。だから下級クラスに目を付けたけど……」


 強引な集金癖のせいで、支持を集めきれていない。

 金は組織の運営に必要だが、それを前面に出せば反発を招く。

 特に余裕のない下級クラスでは顕著だ。


 憎き生徒会や風紀委員会を打破したいが、信者は増えず。

 それでも金もうけのイメージが強すぎて、庶民層からはそっぽを向かれている。


 中身のない演説も、その焦りの現れか。


(あいつらはリーンも狙っている。しかも下級クラスの支持まで……)


 俺とレアが狙う層を、聖教委員会が奪おうとしている。

 正直、邪魔な存在だ。どこかで一度、力を削いでおく必要がある。

 フィールドロワイヤルに口出しされたら、収益にも影響するしな。


 よし、決めた。


「潰すか、聖教委員会」

「「「「「えっ!?」」」」」


 その場の全員が、声をそろえて驚いた。

 少し休もうと思っていたが――もう少し、踏ん張るとしよう。

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