第7話 モブキャラ、魔物退治に向かう
「魔力充填~♪ 魔力充填~♪」
即興の鼻歌と共に道具を作る。
スカーレット家までの道のりは結構長く、生成する時間は十分あった。
「不気味な色ですわね……何を作っていますの」
「スライムとレモンを混ぜてるだけだ。後は魔力充填」
「スライム? 毒薬でも作っているのかしら?」
ほぉ、鋭いな。
スライム種は毒や薬の材料になりやすい。
確かスライムの体液が状態付与系の効果を倍増させるんだっけか?
原作でもポーション生成によく使っていた。
「これがデーモンオークには効果抜群だ。まぁ見てな?」
「ふぅん……」
今回はポーションではなくもう一つの使い方。
魔力充填だからこそ効果的に発揮できる手段だ。
「ご、ご主人様!! あれを見て下さい!!」
「ん? おー、いるなぁ」
焦るメディが指差す先にはデーモンオークの群れ。
なんか食べてる?
「ウルフ種を食べている……という事は腹を空かせて気が立っている状態ですわね」
「おっそろしいですねぇ。デーモンオークは一匹でもかなり厄介なのにー」
何頭ものウルフ系モンスターの山をバクバクと。
食事の邪魔をされて怒るのは人間も魔物も同じか。
(デーモンオークだけか?)
あいつらって群れで行動するけど、群れなら必ずボスがいるはず。
だけど群れの中にボスらしき姿はいない。
まぁいいか。目の前のやつを倒そう。
「ストップだ」
「りょーかいですっ」
馬車を止めて降りる。
気が立っているとはいえ、食事に夢中なら少し大胆に近づけると思う。
「ここでいいのかしら?」
「無駄にヘイトを買いたくないからな」
ポイントに付いた。
この距離なら投げても届くだろう。
「大好きなスライム液の時間だぞっ!!」
後は俺のコントロール次第!!
ビュンッ!!
「グモオオオオオオ!!」
「デーモンオークの肌が溶けてる? あんなの初めて見ましたわ……」
「アイツら酸性の液体に弱いからな。いやぁ、いい具合に効いてくれた」
ただの酸性ではなく、スライム液と魔力充填で更に効果をあげた特別品。
俺の魔法は状態付与の効果アップにも使える。
ゲームだと特性瓶をボコスカ投げまくるだけで周回できて便利だった。
「「「「ブモオオオオオオ!!」」」」
「っ!! 残りの四体がこっちに気づきましたわよ!!」
ただ、当てたのは一体だけ。
仲間がやられて相当怒ってると見た。
「いーや、もう遅いね」
ま、既に対策してるんだけどね。
ポイッと石ころを投げる。
「煙?」
「低質なマナ鉱石に魔力を込めて投げた。すると高温でスライム液が蒸発して……」
ボンッ!!という大きい音ともに小さな爆発が起きる。
「「「「ブモォオオオ……」」」」
「動きが止まる」
酸性の煙がデーモンオーク達を覆い、苦しめ続ける。
煙だけで倒す事は出来ないが、動きを封じることができる。
効果範囲が瓶投げより広いから、原作でも詰みそうになった時に使っていた。
「残りもポイポイ投げて終わらせよう」
「デーモンオークの群れをあっさり……嘘でしょ」
「ご、ご主人様の知識は凄いですねー。こんな解決策があるとは」
「何せ生まれ変わったからな、ハハハハ!!」
デーモンオークなんて低レベルでも狩れる。
真っ向から戦わなくても、対策すれば全然倒せる相手だ。
今回は魔力充填のおかげで楽だったけど。
「そーんなご主人様が大好きですよー♪」
「ご褒美ありがとう」
メディが嬉しそうに抱きついてくる。
終わりまでスムーズで気持ちがいいねぇ。
「っと。素材の回収だけ終わらせるか」
ドロドロに溶けてもマナ鉱石とかは残ってるからな。
後は骨とか多少持って帰れたら……
ドドドドドドドドド!!
「グォオオオオオオン!!」
「「「っ!?」」」
突然、木々をなぎ倒しながら巨大な魔物が出現した。
「今の遠吠えは!?」
「デーモンオークではありませんね……というかさっきより強そう!?」
「あー、これは多分……」
三本の角。緑色の身体。
そして狂暴で暴れる事しか考えてなさそうな雰囲気は……
「Aランクのキングオーガ。あいつらのボスだ」
「「はいっ!?」」
間違いない。
ツイファンでは中ボスでお馴染みの魔物だ。
「グォオオオオオオ!!」
「岩をぶっ壊した!? どんだけ力あるんですかー!?」
あいつ力強いんだよなぁ。
舐めてると上級者でもボコされる。
今の俺で倒せるか?
あの技を使えばなんとか行けそうな気もするけど……
「Aランクとはいえ一体だけ。わたくしの魔法でどこまで抑え込めるかしら」
お? レアはやる気か。
自分より強い相手だとわかっても戦う姿勢。
流石はスカーレット家のお嬢様だ。
「足止めはできるのか?」
「はぁ!? こんな時に何を……」
「俺は本気だ。どうなんだ?」
少々クセの強い技だがやってみるか。
レアがいるなら絶対に倒せる。
「……少しなら」
「十分。いくぞ」
「へ!? ちょ、ちょっと!!」
俺は足にグッと力を入れ、そのまま勢いよく飛び出した。
「ご主人様!? なんでキングオーガに突っ込むのですか!?」
「ああもう!! ここで引いたらスカーレット家の恥ですわ!!」
レアも構える。
キングオーガの周りに魔法陣が展開され、魔力が放出されていく。
「”氷結山”!!」
ピキン!!
俺の全身を凍らせた魔法がキングオーガに襲い掛かる。
「グォオオ……!!」
「全身を凍らせるには時間が……!! もう少し余裕があれば!!」
しかし、今回は怪力自慢のキングオーガが相手。
凍った部分に力を入れるとヒビが少しずつ広がってしまう。
「いや、助かった」
その時間が欲しかった。
俺の大技を準備するために。
「魔力充填・光装剣」
ブォオオオン……
ナイフの刃に手を添え、撫でるように動かす。
するとナイフを覆うようにビーム状の光の剣が生成された。
「剣が光った?」
「刃渡りも伸びてます!! こんな使い方もできるんですねぇ……」
最早ナイフではない。
ビームソードと言うべきか。
「グォオオオ!!」
キングオーガの腕が俺に振り下ろされる。
しかし、
「一刀両断……!!」
俺はそれよりも早くブーストし、光の剣でキングオーガの首を真っ二つに切り裂いた。
「キ、キングオーガが……!!」
「たった一振で……」
キングオーガでも一撃か。
大技だけあって火力がケタ違いだな。
「あー!! やっぱこれ疲れるな……」
「魔力充填の応用? そんな事もできましたのね」
「維持するのに魔力を注ぎ続けるけどな。消耗しやすいが威力は最強だ」
ただ疲れた。
原作でも魔力を大きく消費する魔法だったけど、現実だと疲労もかなり溜まる。
今の俺に乱用はできないな……
「ありがとう。レアの援護でスムーズに倒せたよ」
「こちらこそ……次からは事前に説明して欲しいですわね」
「急だったからな。悪い悪い」
「それはそうですけど……」
ぷいっと顔を背けながら手を伸ばしてくれたレア。
その手を俺は強く握りしめ返す。
「さーて自慢話が一つ増えたな。この首をスカーレット領に持っていこう」
「キングオーガの素材なんて貴重ですからね。ご主人様の知名度もあがります!!」
素材を売ればお金もたまる。
今日はいい事ばっかりだ。
「邪魔者はいなくなったし進もう。スカーレット領はまだなのか?」
「後一日も経てば……けど、期待しすぎない方がいいわよ?」
「ずっと言ってるよな。そんなに自信ないのか?」
「見ればわかりますわ」
どこか消極的なんだよなぁ。
俺に見せたくないというか、色々諦めてるような。
何故そこまで……疑問しか浮かばない。
ま、着いたらわかるだろ。
◇◇◇
「あ、レア様だー」
「やったー、帰ってきたー」
「なんだこれ……」
「ね、酷いでしょ?」
一日経ってようやく着いたスカーレット領。
そこで俺達を待っていたのは……
ユルユルに緩みまくった領民達の姿だった。
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