第166話:終末海のその後で
「ひゃっはーシエルちゃんを空へ打ち上げますよ!」
「もっとはやく、お願いレヴィ」
「……ウォータースライダーが伸びてるな……うえに」
「スライダーじゃないだろこれ、楽しいからいいけどよ」
「あのぉ、皆殿? なぜ拙者達は、海辺で遊んでるでござるか?」
拙者の眼前の光景は……最早ロケットの射出装置みたいになったとても大きい水の建造物で皆殿が上に飛んで行く光景だった。
「それはアレですよ、椿殿ちゃん! エンディング、的な!」
「それは、百歩譲っていいのでござるが……レヴィ殿は、敵でござったよな?」
「え、あ……はい。ですが今は霊真さんの召喚獣になったので!」
ウォータースライダーを自由自在に変形させながらも、ドヤ顔で語るレヴィ殿。シアンの髪色をした終末の蛇? は、白い水着に身を包みとても楽しそうに遊んでいる……そんな彼女を見ながらもあぁでかいで、ござるなぁと。
「それは、霊真殿から聞いたのでござるが……肝心の霊真殿は?」
「え、あっちですけど」
「疲れた、無茶した、つらい、からだ……とてもいたい」
「大丈夫霊真? 今冷やすからね」
「……我が弟子ながらに無茶しすぎだよ、世界から蛇を奪いとるって何してるのさ」
最終局面で、魔神の様な姿になったせいか、全身が筋肉痛の上に魔力回路が限界のようで彼はうわごとのようにああやって呟いている。
そんな状態でメルリ殿と綾音殿に看病されていて、心配だから拙者も手伝いたいけど、それは彼女らの役目だろうから待機。
「いやぁ、大変そうですねぇ」
「元凶が何いうでござるか……」
「まぁ、それについてはごめんなさいです」
しゅんと……少しツッコめば申し訳なさそうな反応を示す彼女。
その際に揺れた何某については言及しないが、なんというかこうも見せつけれるとなんというか複雑な感情だ。横目で傘の下で寝転がる幼馴染みも……アレではあるし、拙者の味方はシエル殿しかいない気がする。
「……どうした椿、何項垂れてるんだ?」
「何も敵視してないでござるが!?」
「お、おう。どうした声荒げて……あぁ、気にしてんのか」
「は、なにも? 拙者が、気にするわけないでござらんですけど」
「口調壊れてるぞー……」
拙者の上擦った声と一瞬だけレヴィ殿の一部を見てしまったせいか、何故か本当に何故か勘違いをするバカ師匠。
普段は絶対に気にしないようにしている、格差社会。
動きやすいからいいのでござるが、こうも直に差というモノを見せつけられると、この世の理不尽さを恨みたくなるというか。
一応ソル殿がいれば、もう少し数の利は得られたかもしれないけど……少し話したときに拙者とは違って気にしてなかったから惨めというか。
そもそも、確かに少し皆殿に比べても拙者は小さ……くわないでござるよな。
これは、周りがデカいというかいっぱい食べて毎日牛乳を飲んでいるのに大事な所だけが成長せずに身長だけが伸びていく体が悪いというか?
そもそも、女性の価値はそこだけでは内は分かってるけれど、幼少期からどんどん成長していくラウラが怖いというか――というかあれだ、全部世界が悪い。
偶然流れてきたツミッターに比較画像とかまで流す世界が悪い……あの時ばかりは拙者でもキレたし、初めての感情に驚いたくらい。
というか、待って欲しいな諸々考えると、紗綾ねぇとかもデカいし、黒羽殿はさらしを巻いてるだけで温泉入ったときに知れたし……なんかもう、つらいなって。
「うぅ……ヘコめばいいのに」
嫉妬……はある。
だって皆女の子らしいから――あれ、そういえばメルリ殿はこの中では小さい方だし、仲間に引き込めるかもしれない。それにだ……もしかしたら周りのを吸収出来る魔法とかもあるかもでござるし、これはもう頼むしかないのかなぁ。
「侍っ娘……一つ言うけど、そんな禁忌級の魔法があれば私は使ってるよ」
「思考盗聴止めてくれるでござるか?」
「勘だよ、ごめんね……」
「メルリが……あや、まった? あぁ、これ夢か」
今にも魂が抜けかけている霊真殿。
少しだけど失礼なことを言いながらも、その光景が信じられなかったからか余計に力が抜けているみたい。でも少し安静になったのか、綾音殿達が離れ、二人はレヴィ殿達の方へと行った。
「海が嫌いになりそうでござる」
「なぁ大丈夫か、椿さん?」
砂浜でのの字を書きながら世界に恨みを吐いていれば、そこに疲れた様子の霊真殿がやってきた。
「えっと質問でござるが、霊真殿は敵でござるか?」
「ん? 何の話か分からないけど、俺は椿さんの味方だぞ?」
「それは、変わってるでござるなぁ」
わぁ、霊真殿は貧しい方が好きでござるのか。
珍しいけど……今思えば霊真殿はそこら辺は気にしなさそうでござるし、聞く相手ではなかったかもしれない。
「まぁ、あれだ。椿さんの事は大事だし、何かあったら助けると思う」
「――それは、拙者が悪い子になってもでござるか?」
無意識に、そう零れてしまった。
自分でもなんで彼にそう言ってしまったのか分からない……だって、それは誰にも悟られてはいけないことだから。ふと、言ったことで怖くなって霊真殿の顔色を窺えば……とても不思議そうな顔をして。
「当たり前だろ? 椿さんは大事な仲間だし」
「あぁ、ははっ――そうでござるな、霊真殿はそう言うでござるな」
「何がおかしいか分かんないけど……とりあえず椿さんも遊ぼうぜ? 少し回復したし、せっかくだからさ」
そう言って手を差し伸べる彼を見て……眩しいなと。
どくんと少しだけ鳴る心臓の音、拙者の中に流れる忌鬼の血がどくんどくんと脈打っていて、黒い炉心が稼働している。
……きっと、拙者が拙者でいられるのはもう長くないんだろう。
ぱちぱちと……拍手のようななにかが耳に響いて離れない。
あぁ、ほんとこの人に出会いたくなかったな。出会わなければ、彼がこんな人じゃなければ、希望なんて捨てたのに。
「そうでござるな、ビーチバレーでもするでござるよ!」
「おっいいな。カイザー式ービーチバレーしようぜー!」
「む、我が友よその順番だとカイザー式みたいで格好いいな!」
「おい五郎、どんなビーチバレーだよそれ」
――――――
――――
――
黒く滾る炎熱の中で、楽しそうに遊ぶ彼女の視線を通して笑う英雄を見る。
彼女に希望を与えてしまった化け物を、善性に狂った怪物を。
(もう少し、だね。お姉ちゃん)
もうすぐ、私は産まれるだろう。
そうしたら彼と戦うことになる……あぁ、楽しみだな。
全てに否定された私が、やっと望まれるんだから。
岩漿滾るこの場所で、黒い炎の炉心の中で――鼓動を繰り返して、私は嗤う。
「さぁ――神殺しを始めようね」
3/12に漫画が発売されるので、予定を凄く早めて五幕が終わるまで出来るだけ毎日更新です――よろしくお願いします!




