60.ファーストミッション
「パーティの申請を頼みたい」
「あ、はい少々お待ちを……」
受付嬢は何やら資料を漁っている。裏の方もバタバタと人が行き交い忙しない。
なんだか忙しそうだ。タイミングが悪かったか。
「別に急がない。急ぎの仕事が終わったら声を掛けてくれるか?」
「も、申し訳ございません!!」
おれたちは座って待っていることにした。
「お前ら、休みの日は何してる?」
適当に話題を放る。
「私は鍛錬だ。普段はただずっと立っていることが多いからな。意外となまるんだ」
「ああ、聖騎士って実際何? 魔獣とかボランティアで狩りに行くとか?」
「はぁ? 私たちは神殿と信仰を護っているんだ。不届き者が市民から寄せられた寄付や大事な遺物を盗んだりしてしまわないように見張っている。後は悪魔憑きやデーモン系モンスターの討伐要請があれば出動する」
「へー、大事な仕事じゃないか。いいのかここにいて?」
「大神殿は人手が多い。見習いから古参までいるからな。私一人抜けたところで何も変わらん」
聖騎士は意外と暇みたいだな。それで一体いくらもらえるんだ? さすがに聞いたら怒るか。
というか、もっと趣味的なことを聞きたかったんだが。
「ツユキは?」
「拙者は次なる技の研鑽を積むのみ」
「あ、そう」
「そういうヴィンセントはどうなんだ?」
「おれはクレアとデートする」
「わーい」
おれたちののろけにみんな若干引いている。
「デートというのは何をするのでございますかぁ?」
「鍛錬か?」
「ふん、どうせ武器屋に行ってどれがいいかみたいなことだろう?」
はぁ、なんと悲しい奴らだ。
デートしたことないのか。
灰色の青春というやつだな。
「仕方ない、おれが教えてやろう。まず平服でちょっといいレストランに行く」
「ちょっといい席を予約してね」
「ちょっといいワインを飲む」
「ちょっといいデザートも付いてきます!」
「話しているとあっという間に時間が過ぎる」
「お店を出てもずっと話してるよね」
「散歩して気になる店があったら入る」
「武器屋に行ってどれがいい? ってなる。うん、シンシア正解だね」
「もういい。わかった。二度とデートの話はしない」
シンシアは分が悪いと分かり話を終えようとする。
「その後は何をするのだ?」
ツユキが無垢な声で質問した。
「男女がやることと言えば子作りでございますぅ。ちゃんと避妊はするのでございますよぉ?」
「なぁ! ちょ、やめてよ!」
「そうだぞ。ちゃんとしてるから大丈夫だ」
「そうじゃないよ! 話題にしていいことと悪いことがあるんだよ! そんな気軽に一線超えないでよ!」
「一線超えたのはお前たちだ」
「二人が男女の仲なら拙者たちは夜迷宮で気を使わなければならん」
「いやいいから! 節度は持ってるから!」
クレアが顔を真っ赤にして猛反論している。
女はこういうとき遠慮がないな。
「すいません、お待たせいたしました! あ、お話し中でしたか?」
「ダイジョウブです……」
タイミングよく受付嬢が声を掛けて来た。
「あの、パーティ申請ということだったんですが」
「何か問題か?」
「こちらの五名でパーティを組まれるということでお間違いないですか?」
「ああ。パーティ名も決めてあるほぼ丸一日掛かって考えた」
「そうですか。実はパーティの登録と同時に皆さまにクエストを依頼したいのですが」
受付嬢はおれたちのパーティ名に興味が無いらしい。
なんだか焦っているようだ。
「それはパーティ登録に達成条件があるということか?」
「いえ! 登録は自由です。ですが、皆さまの経歴を見たところ、ぜひすぐにでもうけていただきたい仕事がございまして……」
受付嬢は事情を切り出した。
■救出依頼:迷宮の調査団3パーティ13名の救出
【場所】王都南部にある中級迷宮
【対象】新階層のレイド調査団
【詳細】
『韋駄天』『赤い盾』『ロードメシア』の3パーティによる新階層の調査が冒険者ギルドより依頼。3日後の報告期限を過ぎ七日が経過。要救助の必要性ありと判断。
『韋駄天』5名
『赤い盾』4名
『ロードメシア』4名
計13名の救出を依頼するものとする。
依頼の用紙を見せられた。
「これだけ?」
「はい……調査団が戻らない理由はまだ……」
「違う。各パーティのランク、メンバーの名前とステータス、スキル、装備、それにその迷宮の地図を人数分」
「では、受けていただけるのですか!?」
「おい、そんな性急な!」
「この即席パーティでは二次被害が出るとも限らん」
「ワタクシたちは迷宮に潜った経験が少ないですからねぇ」
「ほ、報酬はその分多くご用意できます。お願いします!!」
こういう場面は前によく見た。
ギルドの受付嬢というのは冒険者と直接やり取りをする。面倒な輩も多いが、有名な冒険者と懇意になれるチャンスもあり人気の仕事だ。
だが実際は続かない者の方が多い。受付嬢は頻繁に変わる。
顔も名前もステータスも趣味や声の調子、しゃべり方、クセ、好みのタイプ、好きな酒。
よく知る相手がある日突然死ぬ。
彼女たちの肩には日々重く現実の死がのしかかっている。その上で笑顔で対応しなければならないのだ。
彼女もまた13名の生死を背負っている。藁にも縋る想いだ。
「まず冒険者は冒険者の救出を拒んではならない」
「……え?」
おれの言葉に受付嬢が意外そうな顔をする。
いつの間にか聞き耳を立ててる他の冒険者たちもだ。
「そんな決まりが?」
「おれの持論だ。この仕事に安全や保障は元々無い。なら必要なのは助け合いの心だ。自己保身で冒険者を見捨てた奴に冒険者を名乗る資格はない」
おれに救出の依頼があったのは他の冒険者たちが助けに行かなかったからだ。
おれは奴らとは違う。
ただ金を稼ぎたいなら他の仕事をしているさ。
というのは建前で、早く職業が欲しい!!
おれだけ無職でE級のままでは格好がつかない!
今はまだバレてないからいいが、これが周囲に明るみになるのは時間の問題。
その前に実績をつくる。
これだけの騒動で、13名も救出すればギルドもおれを認めるはず。
「お主、恐ろしいな」
「な、なんのことだ?」
『サトリ』を使うな!
「それに、これだけの冒険者がいる中であえて即席パーティのおれたちに依頼するということは必要なんだろ。おれたちの力が」
「はい! 三つのパーティ『韋駄天』『赤い盾』『ロードメシア』はそれぞれA級です。各パーティのリーダーはS級ランカー。救出にはS級4人以上が必要と判断しました。それにヴィンセントさんのことを小耳に挟みまして……」
なるほど、それだけの実力者が戻らないとなれば相応の危険度。
それでもおれたちに頼むのはランクの高さとおれの過去の実績か。
アマチュア時代救出は何度もやってきたから慣れている。
山賊先輩の話によるとおれが迷宮で過ごした時間は一般的な冒険者の100倍。
黒死王の迷宮も大して難しく感じなかった。体感で15点から25点。
だがあれで中級迷宮。
「地図を見せてくれ」
「は、はい……」
なるほど、12階層あるが今回新階層が発見されたのは2階層か。
ざっと見た感じモンスターのレベルと出没率でそこそこ難易度が高いと言ったところか。
構造は複雑じゃない。高く見積もっても30点止まりだな。
気になるのは新階層が発見された場所。
モンスターの現れる場所と被っている。気持ちが悪い。
通常隠し通路は何もない通路や、罠の先にあったりする。モンスターが現れる場所はそれ用の仕掛けがあって複雑。モンスター×罠とか、モンスター×隠し通路とかのギミックは見たことが無い。
「もしこの迷宮を造った奴が2階層に迷宮そのものよりも難易度の高い隠し階層を用意していたとしたら、不気味だな」
「なんで?」
「こんなシンプルな迷宮だ。複雑な迷宮にする性格には見えない」
「性格……?」
だとすれば、3パーティが戻って来ない理由は4つだ。
1、仲間割れ
2、シンプルに強いモンスターに襲われた
3、仲間割れ+モンスターに襲われた
4、迷宮の製作者がサイコで新階層は別の趣向で造られている
4の場合は中級とかシンプルとかでは推し量れない。これが一番やっかいか。
「おれは行く。だが、まだリーダーじゃないしな。多数決で決めよう」
全員が手を挙げた。
「あ、ありがとうございます!」
「お前の持論は正しい。私も冒険者だ。仲間を護るのは当然だな」
「良い機会だ。迷宮内でのお主の力、見せてもらうぞ」
「いい機会だぁ。迷宮内でのオヌシの力、見せていただくのですぅ」
「……!?」
「私はヴィンが行くなら行くから」
おれたち『神鉄の結束』はパーティ結成と同時に高難易度クエストを受けることになった。




