59.神鉄の結束
食堂で飯を食べることになった。
近場の労働者たちや職人が食べに来ているらしく冒険者のおれたちは浮いていた。
「うひょー美人だねー。姉ちゃんたち」
「やめとけ、お前には不釣り合いだぜ」
「なんだと!」
「エルフに獣人に小人、聖騎士‥‥‥冒険者か?」
客たちが口々におれ以外の話をし始める。
だが絡まれることは無い。
シンシアが手を振るとご機嫌だ。
「やめろ、なんだそのサービスは」
「人々の労苦を労っているのだ。美人に笑顔で手を振られたらうれしいだろう?」
「自分で言うな」
クレアがおれに手を振った。
「いいね!」
「おい」
「冒険者といえば聞いたか? 勇者の話」
おや、市井もすでに勇者の件に気づいているようだ。
噂は広まる。
あの勇者が消えれば何かあったと気づくだろうし、苦しめられた人たちは嬉々として話すだろう。
「偽者だったらしい」
「やっぱり、神があんな奴を選ぶはずないと思ったぜ」
「自分の手柄のために魔族の王女様を拉致したんだろ?」
「さすがに王の不興を買ったとさ」
「王家御用達の始末屋に始末されたらしい」
もう死んだことになっているのか。
処刑はまだ先のはずだ。
伯爵家が勇者を利用していたのか。
伯爵も利用されていたのか、それはまだわかっていない。
「その始末屋、魔族の間じゃ結構有名になってるらしい」
「先代魔王もそいつの扱いには配慮するほどらしい」
「見た目は普通のヒュームだが、両腕が死人のように赤紫で、触れた相手を殺せるらしい」
間違っている!
色々間違って伝わっている!
「‥‥‥あいつ」
当然だが普段は呪腕が見えないよう手袋をしている。
バレないはず。
「さっきからコッチ見てるぞ」
「おっかねぇ。目を合わせるな」
「なぁ、あんなやつ入って来たときいたか?」
「あの手つき‥‥‥おい、貴族じゃないか?」
「なんでこんな場末の食堂に‥‥‥」
おれは聞こえないふりをしながら肉を切り分けるナイフの手を止めた。
どうやらおれは浮いているらしい。
「ヴィンはお上品だから」
「冒険者とは思えんな」
「お前たちも似たようなものだろ」
「それだけではない。お主はどこか違う。ステータスや人相だけではなく‥‥‥」
「何が言いたい?」
ちまちま食べるツユキ。かわいいな。
「……ヴィンセント殿、我々もまたお主に恩義あってこのパーティに参加している。七大迷宮攻略も、お主の目的だ。だが、常人はそのような大望は抱かぬ。それもヒュームの三十歳ともならばなおさらだろう」
「何だよ急に」
「お主にはすでに冒険者としての力も、名声も、金もある。今の光景はまさに一介の冒険者の極致ではなかろうか? それに愛する者も、家族もある。他に何を求めている? 何故七大迷宮に挑むのだ?」
「あのね、それはお父さんが……」
「その話は聞いた。だが二人の仲を認めさせるというだけで掲げる目標ではあるまい」
そうか、そういうことも打ち明けなければいけないのか。
おれの最優先は何か。
『サトリ』でわかっているだろうがわざわざ聞いたのは、ここにいる全員で共有するべきことだからだな。
「おれは今30歳だ」
「ん? うむ‥‥‥」
「ヒュームの30歳は人生折り返しなんだよ」
一同、ピンと来ていないようだ。
「……今の内に功績を残しておきたいと?」
「それもある」
「もしや高みに昇らねばクレアの気持ちが離れると思っているのか?」
「えぇ!?」
「正直それもある」
「えぇー!? 私はヴィンのことずっと好きだよ?」
「ありがとう。でもな、おれにとってはこれが当たり前なんだよ」
確かに、おれは望んでいたものを全て手に入れた。
それは運が良かったり、クレアや他の人の協力があってのことだ。
でも大前提として、おれがあきらめず頑張った自分の手柄だと思ってる。
冒険者は向いていないからとあの迷宮に潜るのを止めていたら、おれはきっと今ある幸福を手に入れてない。この恵まれた環境を得るためにした努力、その姿勢を失ってはならない。
「今できる全力で最高の結果を出したい。おれがこの人生で最高の結果を出せるとしたらいまだ。十年後には無理だろう。挑戦せず、平凡な冒険者に甘んじていたらクレアに相応しいと自分で自分を認められなくなる」
と、まぁどこまで言っても自分の都合だ。
「七大迷宮に挑むのはクレアの親父さんに言われたからというのも確かにある。でもおれがおれの人生で一番時間を費やしてきたのは迷宮探索だ。そして、その攻略は近づいている」
今理想的なパーティメンバーがそろっている。パトロンもいる。育成校にコネもある。
おれは自分がやって来たことに迷うこともあるが、今は違う。
おれは今正しく進んでいる実感がある。
「少し前まで冒険者になることが夢だったが、これは夢じゃない。次の目標なんだ。それに付き合わせて悪いとは思うが」
ふぅ。
こんなに長々と本心を語るのは久々だ。
いや、こうして信頼して話すなんてことはそれこそクレアや院長、ギルマス以来か。
「甥っ子は頑張り屋さんでございますねぇ」
「そうか、お前は自分らしく生きているだけなのだな」
「勇猛な生き様だな」
どうやら納得してもらえたようだな。
おや、クレアは?
胸に手を当て、涙ぐんでいる。
「どうしたクレア?」
「何でもない、ちょっとうれしくて」
「……クレアはどうなんだ? ヴィンセントと一緒に居たいとは聞いたが」
「うん」
そういえば、クレアの気持ちをハッキリ聞くのは意外と無いな。
天真爛漫に見えて結構秘密もあった。
「お前はどう思う、クレア? 聞かせてくれ」
「一緒だよヴィンと。私は冒険者になるように育てられたの。でもただ冒険者でいることに迷いがあった。それで幸せになれるのかなって。でも今幸せだよ。だって自分が得意なことに全力であることが好きな人のためになるんだからね」
「クレア……」
おれたちは同じ方向を向いていた。
そうだ。自分のできることを生かせる。それがいいんだ。
「突き進むが良い。道は切り開こうぞ。拙者もそれが侍の本分ゆえ」
「ふふん、せいぜい私の後ろに隠れて守られるんだな。これぞ聖騎士の本懐だ」
「フフ~、せいぜいワタクシの後ろに隠れて守られるのだぁ。それが魔導士の本質でございますぅ」
「!」
よかった。
別に大きな使命も、果たすべき義務でもない。
「パーティ名だけど、『聖銀の結束』ってどうだ?」
「……どういう意味?」
「いや、なんか固い結束のパーティみたいな……」
あ、なんかこれ言ってて恥ずかしいな。
「う~ん」
「悪くはないか」
「どうせなら『神鉄の結束』に致しませんかぁ?」
言った後、リナトリアもカァーと顔を紅くした。そうなんだよ、言った後くるんだよ。
「そ、そうだな! 『神鉄の結束』で異議なしだ。うぅ」
「『神鉄の結束』……ま、まぁ半端よりは良かろう」
「いいね、私たちは神鉄並みの固い結束で結ばれているってことだね! 乾杯だね!!」
「あ、うん」
「『神鉄の結束』の結成を祝してカンパーイ!」




