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58.サムライソード



結局パーティ名は決まらなかった。

いつの間にか夜が明けており、どっと疲れた。まだパーティ名も決まっていないというのに先が思いやられる。



「お腹が減りましたぁ」

「飯にしよう」


個室から出ると、周囲からの視線を感じた。

やはりこの面子だと目立つな。


「すげぇ、S級ばっかだ」

「何が始まるんだ?」

「あんなメンバーでやることなんて迷宮攻略に決まってるだろ」

「戦士、クルセイダー、剣聖、賢者……あいつ誰だ?」


くっ、やっぱり。


もう多分山賊なら受かると思うが、勇者のせいでまだE級のまま無職だ。

このままでいいのだろうか。

迷宮に潜れば活躍する自信があったが周囲からすればおれはただのお荷物。

このメンバーならおれより優れた山賊職を雇えるだろう。


「お前知らねぇの? 特待のヴィンセントって奴だ」

「元暗殺者らしいぜ」

「おれは王族に使える工作員だって聞いたが」

「実は冒険者の素行を調べるギルドの調査官って噂もあるぞ」



え、何?

なんでこんなに警戒されてるんだ?


「ムフー、やっとみんなヴィンの凄さに気が付いたようだね!」

「いやこれは黒い噂というやつだろう」


クレアは嬉しそうだが、噂の内容を良く聞いて欲しい。


「迷宮攻略と育成校で特待コースに選ばれた実績、S級パーティにいる事実、実力が無いと考えるおバカさんの方が少ないのでございますよ」

「不気味な存在、なぜ強さを隠すのか、正体は何者なのか、気になっている者が多いようだ」


そうなのか?


今までだって特待に居たが、わざわざ馬鹿にしに来る奴も多かった。


まぁいい。

おれもS級って感じでいよう。


「じゃまだ。通せ」


おれがいかにもな感じて声を掛けると冒険者たちがサッと道を造った。

気持ちぃ~。

癖になりそう。


おれたちは落ち着ける場所を求め歩いた。



王都は広く、様々な人種が行き交う。

だがそれでもおれたちは異質で目立った。

大通りを避けて下町の裏通りにやって来た。こじんまりとした素朴なお店が多い。

こちらは地元民のための店舗と職人街になっているようだ。


鉄をカンカン打つ音が聞こえる。


「そういえば、武器職人が必要になるが、いい職人はどこにいるんだろうな?」

「王都には指折りの職人が揃っているぞ。王都だからな」


シンシアがなぜか胸を張る。


「聖騎士殿の腰のものは大した業物とお見受けする」

「フフン、わかるか? 聖剣だからな。銘を『ゴットフリート』、一流の職人が仕上げた名剣だ」

「その職人はどうなんだ? 勧誘できないか?」

「え? いや‥‥‥誰が造ったかは知らない。300年前だからな。一流というのは使ってみた評価だから」


使えねー。


「クレア殿はどうなのだ?」

「私はあんまり武器にはこだわらない方だけど、冒険者ギルドに職人を紹介してもらったりだね。でもツユちゃんのそれは特殊っぽいから慎重に選んだ方がいいよね」

「サムライブレードか。確かに使ってる奴見たことないな」


細い刀身に緩やかなカーブを描いた片刃。


「なんだか脆そうだよな。折れないのか、それ?」

「折れる。すぐ刃こぼれする。ゆえに幾らか控えを持っている」

「ツユちゃんも普通の剣にすれば良いではないか! いいぞ、両刃で丈夫な方が」


確かに冒険者にとって武器の耐久力は死活問題。

折れやすいサムライソードは冒険に不向きだ。


「否、折れるのは単に粗悪ゆえ。良い刀は折れぬ」

「え? シマの免許皆伝なのに駄剣使ってるのか?」

「‥‥‥刀を実用するのは今ではシマ流のみ。刀匠という専門の鍛冶屋はわずか。これらは一流の武器職人がそれらを模倣せし創作、観賞用の工芸品」

「折れやすいのであれば材質を変えてみればよろしいのでございますぅ。聖銀や聖銅でサムライブレードを再現できないか、試していただくのは?」

「それにはかなりの大金が必要となる。刀は熱した刀身を急激に冷やすことで硬度を上げる。だが最適な間を見極めるのは難しく失敗すれば逆にもろくなる」

「金属疲労でございますねぇ。加熱冷却を繰り返すと金属も老いるのでございますぅ」


へぇ。知らなかった。

歩きながら鍛冶場の様子を見る。

確かに砕けた鉄の塊だったものが隅に散らばっている。


「ツユキ、ちょっとそれ貸せ」

「侍の魂を貸せだと? 不躾な」

「いいからいいから!」

「あ~返せ~!! あ~」


ツユキからサムライブレードを取り上げ、鍛冶場に入った。

聞いた方が早い。


職人たちが集まり作業しているところは屋外で天幕を張ってある。


「これよりいいサムライブレードを造れる、または知っている奴、情報をくれ。金は払う」


勇者の一件で儲かった金。

それを袋ごとドシャと机に置いた。


「フン‥‥‥サムライブレードだぁ?」


ほとんどの職人には無視されたが興味を持った職人が寄ってきた。


「‥‥‥無理だな。こいつは固さと軟さが絶妙なバランスで斬ることを追及している」

「いいものなのか?」

「王都に家が買えるぜ。これ以上となると、耐久力を上げるためにデカくなっちまう」

「材質を例えば極銀に変えたらどうだ?」

「無理だ。極銀でこの絶妙なバランスを再現するには職人が生涯を懸けてできるかどうかだな」


やはり難しいか。


「やるなら鍛冶師を大量に雇うんだな。それだけじゃねぇ、一流の錬金術師や付与術師、それにあらゆる鉱物がいる」


それは大変だ。


「はっ! 返す!」

「むぅ」


おれは袋の中の金貨を数枚職人に渡した。

仰天していた。


「一朝一夕で良い武器は手に入れないか。まぁ、そうでなければ名剣なんて生まれないからな」

「然り。迷宮攻略したくば良い刀を手に入れろ」


え、えらそう。

まぁ剣聖ともなれば実際偉いか。

武器が貧弱で実力を発揮できないでは困る。


このメンバーの最大の力を発揮するために、何が必要か。

それを考えなけらばならないな。



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