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47.『デジャブ』考察 堕落エルフ学者の見解、充実の朝食と共に



院長モドキこと、堕落エルフ学者(リナトリア)はおれに就いている専属の教官だ。


院長と同じ顔、同じハイエルフというだけで院長ではない。


ちなみに部屋に入っていいとも言っていない。


「おれのスキルを調べてもらうのはいいんですが、寝てるのを観察するのやめてもらえす?」

「目的は達成したのでありますぅ。でもステータスが更新される瞬間は物珍しいので続けたいのでございますぅ」

「やめい」

「寝顔を見られるのが恥ずかしいのでございますかぁ?」

「寝起きにその顔を見るとドキッとするんです」

「顔? 困りますぅー。あなた様のことは男して見れないのでございますぅ」


イラァ……


ございますぅじゃねーよコラ。



「……あの、その顔止めてもらえます?」

「顔でございますかぁ? そうでございますねぇ、ラオシュンにいじってもらえば変えられるとは思うのですが」

「すぐやって下さい。その顔の冒涜はやめて下さい」

「顔の冒涜とは!?」


おれはこの人、堕落エルフ学者、リナトリアに調べられている。


冒険者ではなく魔導協会に所属する王立魔道学院の研究者で、あらゆることを研究している。今は育成校に出向して、おれの専属になっている。

まぁ、色々と手を出して出世や名声とは無縁で生きて来たという感じだろう。

一言で言えば研究オタクだ。


おれのスキルと呪腕が好奇心を刺激したらしく、訓練以外の時間は観察を受け、質問される。


魔法に関する予備知識をアレコレと教わっている。

基本的な対魔法戦闘だけでなく、方陣札の工夫についてもアイデアを共有している。


「朝食を食べるのでございますぅ。聖エルゴスの書『医学大全』健康と食事の章によれば、もっとも大事な食事は朝食なのでございますぅ。空腹によって精神が不安定になり怒りっぽくなるのですぅ」

「怒ってないよ。イラついてるだけ」


これも観察の一環なのか、食事を作ってくれる。まぁこれは普通に助かる。


「昔は料理人になりたかったのでございますぅ。おいしい料理を探し求めて里を飛び出し、魔法を研究してレアな魔獣を討伐し、素材を手に入れて料理をしたのでございますぅ」

「へぇ、結構アグレッシブだな」

「はいぃ~ですが素材を売らずに食べてしまったのでお金に困り、身売りして奴隷に堕ちて……」

「もうやめて。朝から重いわ」


実際かなり世話になっているのだが、やはり苦手だ。

こんな残念なのに、料理だけは院長よりうまいなんて……


「せめて、料理はマズくあって欲しかった」

「何ゆえに!? ですが、それはおいしいと思ってくれた証なのですぅ。うれしいですぅ」

「そのナントカさんの書に、人をイラつかせない話し方は載って無かったんですかね」

「ひどいですぅ!」


文句を言いながらも山盛りの朝食をすべて平らげる。そうでなければ一日持たない。


「なんだかんだ言ってたくさん食べてくれてうれしいのでございますぅ。できれば味の感想を言ってもらえると次からもやる気がでるのでございますぅ」

「ああ、美味かったさ。まぁ二回目だから知ってたけどな。二回連続で食べても美味いぐらい」


「はぁ、また一人、胃袋を掴んでしまったのでございますぅ。でも依存されても困るのでございますぅ」


聞いといてそれかコラ。


「いいか。あんたがおれに殴られてないのはその顔のおかげだ。品行方正に慎ましく孤児の面倒を見ているとあるハイエルフに感謝しろ」

「意味不明ですぅ。ごちそうを振舞ったのに理不尽でございますぅ。 ラオシュンの改造で頭がおかしくなったのですかぁ?」


薄ら笑いを浮かべ頭パッパのしぐさをするリナトリア。


「顔以外、顔以外ならいいよな!?」

「ああ、冗談でございますぅ!! あ、あと『トゥワイス』とスキルについてわかったことがあるのですぅ!! 教えるから機嫌治して欲しいのですぅ!!」

「え? なんだ……大事な話?」

「エゼキエルの書『魂魄理論』によれば人の肉体には精神、意識、魂から成るアストラル体が存在するのです」

「要点だけお願いします」

「『デジャブ』はこのうち、精神だけを同一時間軸の先へとアクセスする力と仮定します。そして追加効果として、過去へもアクセスするものと仮定できるのですが、この時、精神だけではなく、アストラル体そのものが過去へと遡っているのですぅ」


ですぅってなんだコラ。

何言っているのかさっぱりわからないぞコラ。


「ひぃ……」


おれがピンと来ていないのが分かったのか彼女は結論を出した。


「記憶、ステータス、スキルを現在のあなたが未来のあなたから受信しているのですぅ。記憶の流入は精神に負荷を掛け、ステータスは違和感だけで済みますぅ。でもスキルは無限に重複しあなたの魂を圧迫しているですぅ」


つまり……

【スキル】:デジャブ


ではなく実際は


【スキル】:デジャブ

      デジャブ

      デジャブ

      デジャブ

      デジャブ

      デジャブ

        

ってことか?



「でも、おれは『トゥワイス』が起きる前からスキルを修得できなかったぞ?」

「それについてはわかりません。アルステイナーの書『スキル統一基礎理論』によれば、スキルが統合されない場合、同一スキルはステータスには表示されませんが2つ3つと魂に留まっているのですぅ」


つまり、おれは1回目のおれが経験した記憶と獲得したステータス、スキル『デジャブ』を受信している二回目のおれということか。その時点で一回目のおれという存在は消えていて、おれの記憶の中にしか存在しなくなる。

『デジャブ』はその度におれの魂の中に積み重なっていて、他のスキルが入る余地が無い。


おれは子供のことからすでに複数の『デジャブ』を持っていたってことか?


「『デジャブ』自体の容量が大きすぎて他のスキルが習得できなかったとも考えられますが、あなた様が『デジャブ』の重ね掛けを行った件から見ても、『デジャブ』は複数所有しているとみられるのでございますぅ」

「どういうことだ?」

「ボリス=ドラグノフとの戦闘で『デジャブ』の重ね掛けを試み、成功したと聞き及んでおりますぅ。しかし、単一のスキル発動中に、もう一度発動を重ねるなんてできないのでございますぅ」

「――あっ、そうか、だから」

「はいぃー。あなた様は複数の『デジャブ』をすでに使っておられるのでございますぅ」


何となくできそうだからやった。でも、確かに、他のスキルでそんなこと出来るなんて聞いたことなかった。


おれはどうしてできると思ったんだ。


できることを知っていた?



「ジゼルの書『スキル実用の検証と考察』によれば一般に人の魂に内包できるスキルは10が限界とされて居ります」

「まぁ、そんなものだろうな」

「ですが、それは異なるスキルの場合なのですぅ」

「何が言いたい?」

「同一スキルをこれほど身に宿した例はなく、検証してみなければあなた様がどれだけの『デジャブ』を有しているのかはわからないのでございますぅ」

「検証って?」

「限界まで『デジャブ』の重ね掛けをやって見て欲しいのでございますぅ!」

「待て! 今日はダメだ。これから地獄で死神が待っているんだ……」

「あっ……ご愁傷様でございますぅ」



くそう。朝から嫌なことを聞いた。

まさか『デジャブ』のせいで他のスキルが修得できなかったとは。




よろよろと部屋を出て礼拝堂から演習場へ。


一回目体験した地獄をまた味わい、スタボロになり、夜、再び泥のように眠った。


そんな生活が一週間続いた。





暗殺マスクマン→ロナルド ボリスの息子。クレアの義理の兄。ヴィンはまだ知らない。

死神メガネ神官→ラオシュン 薬物で勝手にヴィンを改造中。ヴィンは知らない。

堕落エルフ学者→リナトリア セイラの姉。ヴィンは知らない。

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