↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/64

44.クレア4

クレア目線の回です。



パーティ用の宿舎。

広い部屋の中に私は一人佇んでいた。


さびしい。


あれからもう一週間。

ヴィンとは会っていない。


私は信じて待つ女。それがいい女。


たださびしい。


あ、誰か来る。


もしかして!!


「クレアさん、私たちのパーティに入ってくれない!?」


一人でいるとよく勧誘がある。


「え、えーっとごめんなさい。間に合ってます」

「即答!? なんでよ!」

「もう、パーティを組む相手がいるもので」

「それってあれでしょ。あの人」

「あの特待のおじさん?」

「ヴィンはおじさんじゃないよ!!」


勧誘はありがたい。でも目的を共有できないなら意味が無い。

それに何となく、メンバーは私よりヴィンが決めた方がいい気がする。

何となくだけど。


「でも、あの人って本当にランカーのクレアさんが組むほど強いの?」

「ヴィンはこれから強くなるんだよ」

「私噂で聞いたんだけど、あの人まだE級だって」

「ねぇ、クレアさん。何か困ってない?」

「なんで!?」

「だって、釣り合ってないよ」


周りからはそう見えるのか。

ヴィンの活躍はあまり人目に付かない。

なぜなら助けられた本人が助けられた自覚がないから。


というかピンチに陥ったとも知らないだろう。


今までにヴィンが行動しなかったら死んでいた人がたくさんいるはず。私も知らないけど、彼らも知らないのだ。


だから、傍に居なければヴィンの凄さは分からない。

彼は『トゥワイス』の力に目覚めてからまず他人を救った。街を救った。自分を殺そうとした勇者を救った。


いくらでも悪用の出来るあの力を持ちながら、揺るがない人格。

急成長し、一変した生活。それでも変わらない人柄。


だから信じることができる。


彼が一回目で実際何をしていたのか私にはわからないけど、二回目で最善を尽くしていることを私は知っている。


でも、それを説明できないのよ。


だからヴィンの評価は低いし、侮られている。

これから先もずっとこうだとしたら、ヴィンは正当な評価と栄誉を得ることができるのかな。


ああ、歯がゆい。


「あの、クレアさん?」

「え?」

「気を悪くしたのなら謝ります」

「違うの。私はあんまり説明とかうまくなくて、伝えられないなぁと」

「まぁでも、特待入ったってことは才能あるんでしょ?」

「えっと……」



たぶん、特待になったのはお父さんの差し金だ。


一番上のお義兄ちゃんだったし。


ママより前の奥さんとの息子で、小さい頃に何度か会っただけだけど。

確かこの間まで貴族の顧問とかしてるって聞いたけど、わざわざ教官になるとは……


「なんか私あの人の訓練見たけどずっと石投げてたわよ」

「それってどういうこと?」

「石で的当てして遊んでた」

「そう……」


投擲の練習だ。

そっからやるんだ。私も子供のころやったなぁ。

私が思い描いていた近接戦闘に特化したアシストできる山賊ポジじゃなく、中距離攻撃もできるように。それと爆裂方陣筒を活かせるようにだ。


あれはヴィンの攻撃の基点であり決め手。それに中の方陣札を変えれば応用も効く。普通の冒険者は扱いにくいから敬遠するけど、筒に入れてすぐ起動できるようにした工夫がすごい。


でもヴィンはそれを設置したり、至近距離で使ってた。


戦術の幅が広がる。

さすが長男。ヴィンのことよくわかった上での訓練だ。



「それにさ、特待コースって受け持つ教官が厳しすぎて入った人のほとんどは途中で心折れるって聞いたわよ」

「どんな過酷なことでもやらされるし、『死ななければいい』って感じで訓練するって言うし」

「石を投げさせられてるってことは、もう見放されたってことじゃない?」

「ダイジョウブ、ヴィンは器用だから、すぐできるようになるから!」

「え、うん。でも石を投げるためにここに来たの?」

「いや、だから……」


「ハッキリ言ってやれ、クレア。ヴィンセントは『黒拳』と『聖女』、そしてこの私が認めた男だとな!!」

「シンシア」


シンシアが尋ねて来た。


「キャー、聖騎士のシンシア様!!」「素敵です!!」「かっこいい!!」


「どうしたのシンシア?」

「どうした、か? 育成校に行くと言って早一週間。ずっと神殿で待っていた。合格の報せをする気はなかったか? そうかそうか、私はまだパーティメンバーではないからな」

「あ、あの……すいませんでした!!」


迫力のシンシアに他の女の子たちは退散した。

うぅーひとりにしないで。


「全く、お前たちは!」

「だって、ヴィンが」

「何を心配している。あの男ならすぐに目的を達成させるさ」

「うん」

「それで、クレア。お前の方はどうなんだ?」

「う~ん。勧誘してくれる人はたくさんいるんだけど七大迷宮って言うと皆あきらめるんだよね」

「まぁ、普通はやらんからな」


迷宮は七つの国に散らばり、その移動だけでも数年はかかる。

人生を賭けた戦いとなる。


でも大抵の冒険者は立身出世できればいいのだ。

有名な冒険者になって、貴族のお抱えにでもなれば裕福に望むままに暮らせる。


「というか、そっちのことではない。ランカーコースに入ったのだろう?」

「うん。それがもうS級になっちゃった」

「だろうな」


一日目に審査を受けてあっさり昇格してしまった。


「クレアが育成校に入る意味あったのか? ここにはボリスおじさんほどの人や父上並みの師はいないだろ」

「うん」

「ならなんで?」

「ヴィンと離れたくなかったから」

「乙女か!! なんだその理由は!!」


だって、私はヴィンがやりたいことを達成するのを支えられればそれでいい。



「でも結局離れ離れじゃないか」

「そうなんだよね。寂しいよぅ」


だから性に合わないのに悩んでいるんだよ。

ずっと一緒だったから離れるとヴィンのことばかり考えてしまう。


「む、誰かいるな」


ドアの向こうに誰かいる。


「すいません、こちらにクレアさんがいらっしゃると聞きまして。少しよろしいでしょうか」


少し高めだけど少年の声だ。


「来客か。確かに勧誘には困ってないらしい」

「間に合ってまーす!」

「クレア、ドアを開けろ。その子、ただ者ではない」


シ、シンシア。ドアの向こうにいるのに、そんなことまでわかるの? すごい!


ドアを開けると少年が一人。ちょこんと立っていた。ヒュームだ。


どっかで見たような?


「あの……パーティのお誘いかな?」

「いえ、ぼくは冒険者ではありません。先日の失礼をお詫びに参りました。ヴィンセントさんがどこに御滞在か分からなかったもので、こちらに伺わせてせていただきました」


あ、おじさんを追いかけてた剣士の子!


「あの後大丈夫だった? ごめんね、事情も知らずに」

「はい、まんまと見失いましたが目的は分かっていたので、とあるお方の近くで待ち伏せして捕まえることができました。巻き込んでしまいこちらこそ申し訳ございませんでした」


少年はぺこりと頭を下げた。まぁ! 礼儀正しいお坊ちゃんね!


「クレア、こちらは?」


あれ、シンシアが興味あり気だ。ああ、年下好きなんだっけ。確かにかわいい顔しているけど。

おい、ただ者ではないそういう意味かー!


「申し遅れました。私はとある方の従者をしております、セキヤと申します」

「セキヤ? やはりあの、セキヤ・クゼか! クゼ一族の剣士、12歳で気鬼明閃剣、クゼ流免許皆伝、王国剣術大会最年少で優勝、『剣聖』となった……」


すごい子でした。

てか何歳?

天才だ。神童だ! 有名人だ!!


「いえ、ぼくなんて剣を振る以外には能が無い一介の従者です」


少年は律儀にもヴィンが戻ってきたら改めて来るからと帰ろうとした。


「あ、待って。セキヤさんはヴィンセントとはどういう?」

「ヴィンセントさんとは三年前、ぼくが剣聖になった後に出会いました。西のトラップ迷宮で」

「君も?」


てか15歳?

同い年!?


「ええ。自惚れていた僕はとある方に誘われて迷宮攻略に臨みました。しかし、すぐに迷ってしまい、食料も尽き、死にかけたところをヴィンセントさんが助けて下さったのです。きっとヴィンセントさんは覚えていらっしゃらないと思いますが」

「そうだね」



でも助けられた方は一生忘れないんだ。わかる。


そういえば、ヴィンのことを遠巻きに見ている冒険者たちが結構いた。


新入校生にも、在校生にも、教官にも……



「トラップ迷宮ってさ、駆け出しは皆行くよね」

「はい。魔物が少ないですし、都市からも近いですから」


二十年、救助要請で稼いでたって言ってたっけ。


「そっかぁ。なるほどねぇ」

「何を一人で納得しているのだ?」

「うん、ヴィンが戻ってきたら、パーティメンバーは割と簡単に集まりそうだなって思って」


知っている人は知っているんだな。

全部が報われないわけじゃない。


ヴィンが救った人たちがちゃんと、私以外にもヴィンを知っていてくれれば。


私たちは剣聖セキヤを引き留め、ヴィンのことを話した。

セキヤ少年は私が知らないすごいヴィンの話をしてくれた。





でも、そのエピソードの中にはとんでもない事実が紛れ込んでいた。



セキヤ少年を迷宮攻略に誘った人物。ヴィンがセキヤ少年と一緒に救出した人物。



それがまさかこの国の――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。