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3.迷宮攻略

 


 迷宮に入る前に、やるべきことがある。

 その難関を突破すれば、攻略の目途が立つ。




「迷宮を攻略するなら、伝えておくことがある」




「ほ?」

「君の仕事は迷宮ボスまでのルートを案内することだけだ。あまり出しゃばらない方がいい。いいカッコしようとして恥をかくのは君なんだからな」

「……」


 勇者の態度は相変わらず頭にくる。

 こいつはおれの命などなんとも思っていないクズだ。

 おれを殺そうとした奴だからな。

 魔導士のルーアンも勇者の横暴を黙認して言いなり。


 唯一まともなのは女戦士だ。


 奴らは彼女の忠告や意見にも聞く耳を持たない。


 このまま進んでも結果は見えている。

 あの凄惨な結末を回避する最低条件。




 それは‶勇者パーティがおれの指示を聞く〟ことだ。




「なぁルーアン、あんた『鑑定』のスキル持ちだってな。それでおれのステータスを見てくれ」

「……」


 無口な魔導士は「なぜそんなことを?」という表情だ。

 というより「なぜ知っている?」という顔だな。


 奴は迷宮ボスに殺される前に『鑑定』のスキルを使っていた。

 ちなみにその瞬間勇者とおれを置いて逃げようとして殺されたから迷宮ボスのステータスを知る術はない。


「冒険者が自分のステータスを公開するのは仲間内だけだ。君にはぼくらのステータスは見せない。君のステータスにも興味はないしね」

「勘違いするな。口で言うより、見せた方が話が早いってだけだ」


 おれのおかしな提案を不気味に思ったのだろう。だがもとより『鑑定』する側にリスクは無い。


 三人は少し話し合い、了承した。


「ルーアン、読み上げろ」


 ルーアンは『鑑定』し目を見開いた。


「……! これは……一体?」

「何だ?」

「どうしたの?」


 ルーアンはおれのステータスを読み上げた。



 三人とも驚愕の表情を浮かべている。


 ==============


 ヴィンセント・アルトリンデン(30)♂

【職 業】:アマチュア冒険者

【レベル】:11

【体 力】:D[521 / 1000]

【耐 久】:F[ 82 / 200]

【膂 力】:F[146 / 200]

【速 さ】:E[230 / 500]

【知 力】:D[850 / 1000]

【運 気】:E[120 / 200]

【魔 力】:D[518 / 1000]

【精 神】:D[780 / 1000]

【器 用】:D[980 / 1000]


【スキル】:『デジャブ』(Eⅹ[1000210 / 1000000])


 ==============



「お、お前、貴族だったのか?」

「アルトリンデンって確か隣国の大領地アルトリンデンだよね?」

「……二十年前。特異なスキルを持つ嫡子が追放されたと聞いた」


 ルーアン、こいつ隣国の二十年前の貴族のいざこざまで知っているとは何者だ?

 いや、好都合だ。

 これで、おれのこれからの発言に信憑性が生まれる。



「そうだ。それがおれだ」

「つ、追放されたということは貴族じゃないんだろ? 職業がアマチュア冒険者ってことはもう縁は切られているってことさ!!」

「おれが知ってもらいたかったのはスキルの方だ」

「確かに、聞いたことないよ。ルーアン知ってる?」

「アルトリンデンのあの噂、まさか本当だったのか?」


 もしコイツがおれのスキルについて全部知っていたらダメだ。

 コイツらを騙せなくなる。

 一か八か――



「ああ、おれには――未来が見える」



『デジャブ』は発動後数秒経つと発動時に時が巻き戻るスキル。

 おれの体感ではそうなっているが、実際は時間が巻き戻るというより、数秒間の実体験が記憶と化すスキルなんだと思う。

 だから『デジャブ』の間の記憶以外、肉体やステータスに変化はない。


 その数秒間の未来の記憶を「未来が見える」と豪語するのはあまりに誇張が過ぎる。


 だが今はあの悪夢の記憶、あれをおれのスキルの力として信じ込ませる。



「ハハハッ、何を言うかと思えば『未来が見える』だと? そんな奴がなんでアマチュアなんだ!?」

「勇者、お前はこれから迷宮ボスと戦って死ぬ」


 勇者は一瞬キョトンとして、それから激昂で真っ赤になった。

 もう後には引き下がれない。

 あれが夢であれ何であれ、おれには確かな記憶、情報がある。


 それを信じる。




 激昂に駆られ勇者が胸倉を掴んで殴り掛かって来た。それを女戦士が止める。


「ちょっと、やめて! お兄さんも、いくら何でも言っていいことと悪いことがあるよ!!」

「――『エレーナ』」


 勇者が止まった。


「あ? な、なんでお前がその名を……?」

「何? 誰のこと?」

「お前は最後の時、その名を叫ぶ。誰かは知らないが」


 その光景をおれは確かに見た。


「う、嘘だ……なんで……??」


 反応を見るに、エレーナは実在する。

 確信が持てた。



「勇者、お前は罠など構わず突き進むつもりだろう」

「な……!!」


 図星と言った表情だ。


「言っておくが迷宮ボスにお前のスキル『聖・閃光剣』、『炎斬』、『螺旋波動剣』は一切利かなかった。ルーアンの火魔法、風魔法、闇魔法も同様だ」

「『螺旋波動剣』は誰にも見せてないのに……!!」


 おれはつらつらと彼らの戦法やスキルの内容を話す。

 よし、おれが「未来が見える」ことに疑いは無いようだな。


「ね、ねぇ私は? 私も死ぬのか?」


 女戦士が不安そうに聞いて来る。


「あんたの『マテリアルガード』は迷宮ボスの攻撃を防げない。それで――」


 死ぬ。しかも、会って間もないおれを庇ったせいだ。

 なぜそんなことをしたのかはわからない……

 もし迷宮攻略ができたら、聞いてみたい。


「そっかー」

「ならここの迷宮ボスは倒せないって言うのか!?」

「いや、倒せる」


 これは正直、確信は無い。

 だが、長年この迷宮に潜り続けて謎だったものがある。

 あの攻撃が効かない迷宮ボスとこの迷宮の性質と合わせて考えるとある仮定が生まれる。


「いいか、信じられないかもしれないが事実を言う。ここの迷宮ボスの本体は最後の部屋には無い」

「「「え?」」」


 三人ともキョトンとしている。それはそうだ。

 それでは‶最後の部屋に迷宮ボスがいる〟というセオリーに反する。


「そもそも、この迷宮は他の迷宮のセオリーに沿っていない」

「ん、うん……確かにそうだね。階層は浅いし魔物は少ないし、その反面トラップが異様に多くて厄介」

「そうだ。この迷宮はトラップが主体、魔物はおまけ。そして、迷宮ボスのいる最後の部屋もトラップだ」

「え?」


 という仮定で挑む。確証は無い。


「長年ここの迷宮を探索していて、たまに他のトラップとは違うトラップが出現する。低レベルの冒険者では破壊できない顔のような岩や、脚のような柱、腕のような壁が出現する。それらをおれはずっと『トラップ亜種』と捉え避けて来た」


 迷宮内には謎の構造物や何のためにあるのかわからない部屋が多数存在する。

 おれはその全てを把握している。


「あ、あれか。確かに他の無機質な仕掛けと違うデザインのものが現れたことがあるよ」

「まさか、それがここの迷宮ボスの本体だっていうのか? 何の根拠があって‥‥‥」

「見たなら話が早い。見たのは一週間ほど前だろ?」

「なんでわかるの?」

「その日、冒険者が消息を絶った。『トラップ亜種』は冒険者が帰らない時発見されている。特に迷宮を攻略すると息巻いている奴らが消えた日にな」


『トラップ亜種』は行方不明者が死んだ、もしくは見つからないときに現れていた。

 救出班の案内を頼まれたことが何度もあるから確かだ。

 彼らは迷宮ボスに挑み死んだのだろう。


「だから最後の部屋へ行き、各ポイントでその『トラップ亜種』自体を攻撃して破壊する。それでこの迷宮は攻略できる」



 つまり、最後の部屋に誰かが入ると、部屋の外で『トラップ亜種』が起動。

 その『トラップ亜種』を倒さない限り、最後の部屋に現れる偽物はいつまで経っても倒せない。

 魔物・魔獣の弱点属性である勇者の聖属性攻撃が効かなかったことから、可能性はかなり高い。


 性質の悪い仕掛けだ。迷宮ボスを倒しにいく者は実体へ攻撃できないようになっている。



「いいか、この地図を確認しろ。今日のトラップ配置、種類がメモしてある」

「今日の?」


 三人にそれぞれオリジナルの地図を配った。

 あの夢の中で『デジャブ』を使って確認した。

 ランダムなトラップ配置、種類も全てわかっている。


 三人を各『トラップ亜種』破壊へ差し向け、おれが一人最後の部屋に残る。


「そ、それじゃあ、あなた一人で戦うってこと?」

「そうだ。攻撃と防御ができない以上逃げ回るだけしかない。それにおれにはあれらの『トラップ亜種』は破壊できないからな」


 ウソを付いた。

 爆裂起爆札を使えばおれでも破壊できるかもしれない。

 しかし、誰かがボス部屋に入るとなれば女戦士が犠牲になる可能性がある。


 それではここまで来た意味が無い。


「確証があるの?」

「……ああ。おれには未来が視えるからな」


 女戦士は心配そうにおれの顔を覗き込む。


 彼女の眼はおれの決意を確かめているようだった。

 おれはその眼を真っすぐ見返した。

 すると女戦士が先に目を逸らした。


「いいんじゃないか? 最悪、言い出しっぺのそいつが死ぬだけだ。ここまで詳細な地図があれば正直彼はいらない。こんな楽に攻略できるならやってやるよ」


 よし、勇者が乗る気になった。

 これで、残る問題は一つだ。



 おれが、あの迷宮ボスから逃げ続けられるかどうか。


読んでいただきありがとうございます。

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