37.パーティメンバーの集め方
シンシアが激昂し、勇者に殴り掛かる
「うわぁぁぁっ!――……ああ?」
『デジャブ』でその未来を確認したおれは、一発奴の顔面に食らわすのを心の内では望んでいながらも冷静にその拳を制した。
おれたちの仲間だとすぐに認識した勇者はオーバーに倒れ込んだ。
だが拳はおれが止めたため、ただ転んだだけに見える。
「止めるな!」
「落ち着け。殴らせるために連れて来たんじゃない」
「貴様、なぜ自分で殴らん!」
「ばかめ。そうすればコイツの思うつぼだ」
「え、んん?」
「ぐっ……」
「勇者に殴り掛かったとなればそれをきっかけにコイツはあれこれと脅してくるぞ。せっかく明るみになったコイツの不正も取り消される」
「そ、そうか。すまない!」
素直に頭を下げるシンシア。
一方、倒れ込んだ勇者は何事も無かったかのように起き上がった。
「くっ、人聞きが悪いな。ぼくは被害者だぞ。それにシンシア、君に殴られる覚えはないよ」
「減らず口を!! 貴様が偉大な父上の後継者となりたいと言うからクレアを紹介したのだぞ! それが、なんださっきの話は! 二人を脅していただろう!」
「そうだそうだ!」
きっと父親を煽てられてコロッと騙されたのだろう。
「盗み聞きとは、趣味が悪い」
「黙れ! この件は父上に報告させてもらう!」
「フン、それがなんだい? あんな隠居した地味な中年に何ができる?」
「貴様、父上を……!!!」
さっき止めたのに、コイツまた……!
突き飛ばされた。痛ぁ!
おれの制止を振り解いた瞬間クレアが羽交い絞めにした。
「挑発に乗らないで、シンシア。ヴィンの我慢が無駄になるでしょ!」
「うっ……すまん」
気持ちは分かる。コイツは悪意を持って動いている。
確信が持てた。
コイツは掛け値なし、正真正銘の悪党だ。
こんな奴が聖属性の上級スキルを授かり勇者をやっているとは、神の悪戯か。
神などいないのか。
聖騎士であり、偉大な勇者を持つシンシアにとっては許しがたいだろう。
殴りたくなる気持ちもわかる。
「君たちが何を言おうと、ぼくが勇者であることに変わりはない。ギルドも王国もぼくの能力を高く評価している。それにぼくの力を必要とする人たちはたくさんいる。いつか近いうちに実力でぼくはA級に戻る。その時、果たしてどっちが悪者になるのかな?」
「ふざけるな!」
「ぼくは真面目だよ」
この余裕。
誰かが後ろ盾になっているということか。
「うぐぬぬぬ!!!」
「シンシア、ちょ、堪えて!」
シンシアは腰の剣に手を掛ける寸前。
「なんだ、腰抜けの勇者の娘はやっぱり腰抜けだね」
「ちょっ――」
「そこに直れ!!! 天誅ぅぅぅぅ!!!!」
勇者め、何としても被害者なりたいようだな。
いい気になるなよ。
言葉を凶器できるのはお前だけじゃない。
「――エレーナ」
「何っ!?」
「ぅぅぅぅ!!!!――んん?」
「あれ、どっかで聞いたような?」
「エレーナだ。彼女は真実を知るべきだな? ここに三人証人がいる。それともトラップ迷宮のもろもろの事情からお話に出向いた方が良いのかな? 予定は空いている。すぐにでも行こうか?」
勇者の顔が青ざめていく。
「な、なんで……お、お前、ぼくの――」
「さっさと消えろ」
足早に待合室を出て行く勇者。
「脅されてもウソの報告はしない、もう付きまとうのはやめてくれ!」
わざとギルド内に響くよう勇者の背中に言い放った。
「嘘の報告?」「おい、あいつ……」「まだ懲りて無いのか」「ギルド何してんだよ。早くライセンス取り消せよ」「冒険者の面汚しが」「裏切り者」「似非勇者め」
周囲の冒険者たちからも遠慮のない悪態を浴びながらギルドを去った。
はぁーん!!!
さまぁみろ!!
「はぁ、ちょっとスッとした。エレーナって?」
「さぁな。一番奴が慌てる言い方を探って使っただけだ」
『デジャブ』を使えばハッタリも簡単。おれはどこの誰かも知りません。
「クレア、ヴィンセント」
シンシアが床に膝を着いた。頭も床に着けた。
「本当にすまない!! あんな奴だとは知らなかったんだぁ!」
勇者の件で疲れたし、クレアも別に怒っていない。
「気にするな。あんな勇者がいてたまるかって感じだよな」
「だねー」
「私を殴ってくれ! 何か罰を!! 償いをさせてくれ!!」
「そんな、気にしな――」
「じゃあ、パーティに入ってくれ」
「はぇ……? わかった!!!」
「ちょ、早っ! いいのシンシア!?」
簡単だな。
全部おれの筋書き通りだ。
勇者が来るのはわかってたし、クソ真面目なシンシアが奴の本性を知って激昂するのも、おれたちに引け目を感じるのもわかってた。
クルセイダーが手に入った。
ありがとよ勇者! 初めて役に立ったな!!
「ふはは、パーティメンバーの集め方、要領を掴んだっぽいな!!!」
「ん?」
「ヴィン……」




