35.クルセイダー
おれたちは聖母ソフィアの奇跡、『転移』で王都の神殿にやって来た。
伝説の冒険者二人とその娘の帰還に神殿内がお出迎えムードになるなか、雷鳴のようにその怒鳴り声が響くのに、そう時間は掛からなかった。
「認めぬ、私は認めぬぞぉぉ!!!」
クルセイダーという職業がある。
神殿で神の加護を受けた聖騎士だ。高い防御力を誇り、聖属性攻撃も持つため、勇者候補とも呼ばれる上級職だ。
ぜひとも欲しい。
七大迷宮を攻略する上で攻撃・防御をバランスよくこなせる奴がクレア以外にももう一人必要だった。
「クレア、おじさん、おばさん、皆この男に騙されていまいか!? クレアに相応しい相手は勇者であろう!?」
「その勇者に脅されたんですけど」
「信じられん! 勇者に選ばれしものがそのような……」
問題は彼女が勇者との一件でおれのことを敵視していることだ。
クレアが言っていたな。
勇者に経験を積ませるため迷宮攻略を手助けするようお願いしてきた「お世話になっている人」が彼女らしい。
彼女の名はシンシア。
おれと同じか、それ以上の身長。
神殿内ではさすがに武装は解いているが、腰に帯びている剣は女が持つサイズ感ではない。
年齢は分からないが、少なくともおれよりはだいぶ年下だ。
印象的なのは顔。
可愛らしいクレアとは対照的な系統で、女にモテそうなキリっとした顔立ちで短い金髪だ。
これが勇者の血筋か。ざっくりと強そうだ。
彼女はあの伝説の冒険者パーティ「気まぐれ超人同盟」のリーダーだった伝説の勇者の娘だ。
彼女はクレアの幼馴染であり、姉弟子でもある。
クレアの師匠があの伝説の勇者だとこの時初めて知った。
まぁ二回目だから前回知ったわけだが。
その姉弟子はクレアを待ちわび、ついて来たおれに怒りをぶつけた。
どうやらおれはクレアに相応しくないから、おれが皆を騙しているということらしい。
上級職に就いている奴はもっと頭がいいと思っていたが、馬鹿もいるようだ。
この思い込みの激しさがソロの理由だろうな。
「よろしくシンシア。おれはクレアの恋人のヴィンセントだ」
「保留、保留!!」
「おれたちは七大迷宮攻略を考えている。クルセイダーは理想的なメンバーだし、クレアとの仲がいいなら一緒にやらないか?」
返事は剣で帰って来た。まぁわかっていたけどな。
「落ち着いてシンシア! ヴィンはお父さんに認められたんだよ!?」
「お父さんじゃない、パパと呼びなさい! あと、まだ保留!!!」
クレアがその剣を斧で受け止めた。
速さ、力、ともにクレアと互角。
実力は備わっているらしい。
「なんのスキルを使われた? 『洗脳』か『幻覚』か? あんな幸薄そうな中年のどこがいい!?」
幸薄そうとは失礼だ。
正直能力以外はこっちだって願い下げた。
だが七大迷宮を攻略するにあたってクレアがどうしても誘いたいと言うし。
偶然出会って意気投合してできたパーティでは七大迷宮の攻略などできない、とボリスに言われた。
おれとクレア以外で必要な職業を定めて探すことになった。
必要なものは後衛で攻守を支える魔導士、聖属性魔法が使える神官、僧侶、聖騎士、それから前衛の攻撃の要、剣士。
確かにクルセイダーが入ることで護りが手厚くなり、魔導士には攻撃や補助魔法に専念してもらえる。
「勇者を信用しているのなら付いてこい」
「なんだと?」
おれは初めての王都。
だがこれから起こることを知っている。だから彼女に真実を見せることにした。
一回目は大げんかになって喧嘩別れになり、「あいつはダメだ」となった。
しかし自分の父親が偉大な勇者であるために勇者に対して盲目的な信頼をしてしまっているのは仕方ない面もある。
伝説の勇者の娘。ならば誰しも裏の本性など決して見せはしないだろう。
ならば解決策は簡単だ。
勇者の本来の姿を目の当たりにすれば目が覚めるだろう。
おれたちはギルドにやって来た。
おれとクレアが待合室で並んで座り、その奥でシンシアに観察させる。
さすがクレアのことを知っている冒険者たちは結構いた。
やがておれたちの存在を聞きつけて来たのだろう。
奴が現れた。
「二人とも、王都へようこそ」
そこに居たのはアマチュア冒険者に決闘を挑み、クレアを我が物にしようと不正を働き、挙句の果てに負けた勇者だった。




