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12.決闘二回目

 



 いや、そうだ。時間が巻き戻ったのなら、今はまだ、クレアに気持ちを伝える前だ。


「わ、悪い。そうなんだ。夢見が悪くてな」

「ムリしないで。まだ強壮丸の後遺症が抜けきっていないだろうし」

「あ、ああ」


 クレアはすこし顔を赤らめて、目を逸らした。



 一方的にクレアの気持ちを知っているというのはフェアじゃないな。




 だがおれはクレアを護れなかった。


 負けたんだ。そんなおれがクレアと一緒にいる資格なんて‥‥‥


「はい寝ましょうねー」




 もしあの悪夢が再び起きるとしたらおれは勇者に負ける。


 いや、待てよ。


 なんで負けたんだっけ?



 おれは悪夢を思い出す。

 決闘の最中、急に身体が動かなくなった。


 ルーアンだ。

 奴の口ぶりからして奴がおれに魔法を掛けた。



 対処できる。


 決闘の条件なら勝てる。

 奴がスキルを使って来ても、奴の動きは思ったほどでは無かった。


 冒険者の間の不文律。

 決闘の結果は絶対。

 勇者はクレアに固執している。

 だが決闘で負かせば、勇者でもクレアに手出しできない。



 おれは逃げて良いのか。

 否。

 クレアは知らないが、おれは一度、はっきり彼女に気持ちを伝えた。


 それなのに都合が悪いからと逃げるなんてできない。


 勝てる見込みがあるならやろう。



 命を賭けて。




「クレア、好きだ。おれと付き合ってくれ」

「……え? ちょっと??」


 慌てて動揺するクレア。


「クレア!!」

「なっ、なに?」

「お前はおれが護る。おれの側に居ろ!!」

「はぁっ? ……はぃ、あの‥‥‥うん」


 今度こそ。

 おれは彼女を護れるようにならなくてはならない。

 やってやる。

 奴らが姑息な手を使って来ても全部叩きのめす!!



「なぁ、クレア。ルーアンの……どうした?」


 クレアは布団にくるまって丸まっている。


「時間が無いんだ。ルーアンについて教えてくれ」

「……突然抱き着いて、告白とか……なんだかヴィンって思ってたよりチャラいよね。他の娘にもこういうこと言ってる?」


 早まったか。

 戸惑っているようだ。


 全部話そう。

 わかっていることだけでも。

 彼女にも協力してもらわなければならない。


「実は――」



 ◇


 おれはスキル『デジャブ』のこと、夢で見たこと、前回はそれが現実に起こったことを話した。


「そっか」


 やけにあっさり信じられた。


「それでも、また勇者に挑むの?」

「ああ。無謀だと思うか?」

「フフ、そこまで必死になるくらい私が大事なんだ?」


 いじらしくおれの顔をうかがうクレア。

 こんないい女が他にいるはずが無い。




 二人でこの二回目が発生する現象を仮に『二回目(トゥワイス)』と名付けた。




『二回目(トゥワイス)』はおれが意識を失ったときに起きている。

 二回目はおれの行動で結果が変わる。



「私のママが『予知』を使えるんだけど、色々条件があるし、断片しか見えないって言ってた。全部体験したように感じるのは実際に体験しているからかもしれないね」

「やはり『デジャブ』と同じだ」

「でも二回目は一回目よりステータスが上がってたんでしょ? ということは一回目の経験値とかステータスの変動が記憶と一緒に二回目へ引き継がれているんだ」


『デジャブ』より優れている。

 いや、やはり『デジャブ』に新しい効果が追加されたってことか?

 そんなことあるのか。



「今の実力を把握して、作戦を立てる。それと、決闘の流れが変わらないようにそれまでは出来るだけ一回目の行動をなぞるほうがいいかも」

「そうだな。作戦か……考えがある。まずは昼食を外で食べよう。話はそこで……」




 念のため一回目と同じお高めのレストランに入り、同じ席に通された。


「それで?」

「うん?」

「一回目はどうやって告白してくれたのかな?」

「いや、それはもういいだろ」

「ダメ」


 結局おれは一回目と同じ告白をまたさせられた。

 クレアも一回目の時より余裕がある。

 同じように店と周りの客から祝福された。


 料理と酒の味も前より楽しめた。


 そして、作戦の内容を詰めた。


 ほどなくして、二人でギルドに向かった。





 冒険者ギルドで勇者とクレアがパーティの去就でもめ始めた。

 一回目と同じく、ルーアンが口上を垂れ、決闘を促す。


 やはり、何もかも同じだ。


 クレアもおれが言った通りに成り行きを辿ったのを最初は驚いていたようだ。





 作戦は至ってシンプル。


 ルーアンの監視だ。


 だがクレアのことは警戒しているだろうから彼女以外に頼むしかない。

 それも決闘に横やりを入れる前に止められて、信用できる人物。



 それは一人しかいない。



 クレアと勇者たちがもめている間、おれはギルドマスターにある取引を持ち掛けた。

 詳細を記した紙を渡す。



「――いいだろう。その話が本当なら見過ごすこともできんからな。任せろ」



 彼は快く受けてくれた。





 そして、万全を期して決闘が始まった。


「ヴィン、がんばって!」


 話を長引かせ、時間稼ぎをしてくれたクレア。


 ここまで作戦通りだから余裕が見られる。


 彼女はまだ知らない。

 勇者が『身体強化』を使うことを。



 それに対抗する手段は一つしかない。




「身の程を教えてやる!! お前みたいな――ぐへぇ!!」


 顔面に頭突きを食らわした。

 一回目より確実に速い。



 怯んだ勇者はパワーで引き離そうとする。

 そのパターンは知っている。



 離際にさらに攻撃を加える。



「く、ひ、卑怯者め!!!」



 勇者の通常時のパンチの軌道、攻撃のタイミングはもう掴んだ。


『デジャブ』を使うまでもなく躱す。



「うそだろ、勇者をアマチュアが圧倒してるぞ!!」「おいこら、勇者のくせに情けないぞ!!」「本気でやれ!!!」



 おれは反撃の暇を与えない。



「くそ、くそ、クゾォ゛ォ゛ォ!!!」



 早い段階で勇者は『身体強化』を使った。

 強引におれを突き飛ばし、距離を置く。


「卑怯だ、格下相手にスキル使いやがった!!!」

「おい、反則じゃないのか!?」

「勝敗には関係ない。だが、情けないぜ」


「え、ちょっとヴィン?」


 クレアが動揺の声を挙げた。


 勇者のスキル使用だけではない。

 おれの異常に気付いたのだろう。


 戦う前、おれは「強壮丸」をまた飲んだ。



 三粒一度に飲んだことで、身体に青い筋が浮き始め、汗が吹き出し、目と鼻と耳から血が流れる。



 ギルドマスターとの話を付けた後、こっそり買っていたのだ。


「ヴィンまた強壮丸を!?」


「おい、あれ禁断症状だぞ!?」

「バカか! 一気に何粒か飲んだな!!」

「心臓が破裂するぞ!!」


 おれは構わず動き出した。



 これからが本番だ。



『デジャブ』で攻撃と防御の選択肢を絞り、『身体強化』の早さと力に対抗する。


「うらぁぁ!!! 死ねぇ、死ねぇ!!!」

「うぉぉぉぉ!!!」


 おれの一発では勇者を後退させられない。

 だから全部カウンターだ。


『デジャブ』発動。


 >おれは右ストレートを打つ

 >勇者が避けて腹に膝蹴りを食らう


 >「ぐぅ!!」



 ――『デジャブ』による既知感を獲得成功。

 フリーズも無い。

 行ける!!


 おれは右ストレートを打つ。

 勇者が避けて膝蹴りしてくるが、今(・)度(・)は(・)その膝蹴りを左手で受け止めた。


「な、なに!」


 おれは打ち出した右腕の戻しで回転右エルボーを放った。

 脳天にカウンターが直撃だ。


「――っぁあ゛!?」


 怯んだ隙に猛打。


「うぉぉぉぉ!!!!」


「このぉ!!!」


 勇者が反撃してくる。


『デジャブ』発動。


 >左手を掴まれ左ボディー


 >「ぐはっ!!」



 ――今度は左ボディーをいなして頭突きでカウンター。


 怯んだ隙に猛打。


 勇者が反撃してくる。


 だが、させない。



『デジャブ』発動



 >勇者がタックル

 >おれに馬乗りになって殴り掛かってくる



 よし。


 タックルに来た顔面に膝蹴りでカウンター。


「ぐぎゃ‥‥‥」



 これは効いたぞ!


 怯んだ隙に猛打。



 ダメージが濃厚になってきた。



 同時におれも強壮丸のリバウンドがやって来た。



「ぐぅ‥‥‥うおおおお!!!」


「はぁ、はぁ、調子に乗りやがって!!!」

「ヴィン!!?」



 止まったことで奴(・)はおれを狙いやすくなる。




「うらぁぁぁ!! 死ねぇぇ!!!!」




 勇者が殴り掛かる。

 大振り、特大のテレフォンパンチ。


 おれはそれを何とか躱す。


「はぁ、はぁ、はぁ、お前、ぼくにもしものことがあったら街がどうなるかわかっているのか?」

「ああ」


 一度見たからな。

 よく知ってるよ!


「ぼくは絶対降参はしない!!! ひひ、だがぼくをこれ以上殴ったら追い詰められるのはお前だ!!」


 どこまでも性根の腐った奴だ。

 こんな奴の命を一度救ってしまったなんてな。


 もはや体面を気にする余裕もないらしい。

 さすがにこの様子を見て勇者に味方する奴はいなそうだ。



 ルーアンを除いて。



 一瞬だが、勇者の視線が逸れた。


 これだ!!


 一回目は気が付かなかったが、間違いない。


 今コイツは明らかにルーアンへ視線を送った。


 勇者が不気味な笑みを浮かべながら殴り掛かってきた。




「この決闘待ったぁぁぁぁぁ!!!」




 突如ギルドマスターが試合を止めた。



「――はぁ?」

「決まったな」




 信じていた通り、ギルドマスターが遣わしたと思われる魔導士たちがルーアンを拘束していた。



「~~ッ!?」

「神聖な決闘を魔法で汚すなど、魔導士の面汚しめ!!」

「『反転』の魔法で彼の魔法は自分に返りました。これは『麻痺』ですね。しばらく動けないでしょう」

「決闘の経緯を含めかなり悪質ですね。この件は魔導協会に報告します」

「~~~ッッ!!!」




 遅ればせながら周囲も事態を把握し始めた。




「勇者側の反則負け。勝者ヴィンセント!!!」




 おれの勝利が高らかに宣言された。


 振り返るとクレアがいた。

 抱きしめる。


「もう、無茶しすぎだよ」

「はぁ、はぁ、悪い。これが確実だったからな。『ヒール』頼めるか?」

「はいはい」




 治療を待っていると、顔をやさしく包まれ、そのまま引き寄せられた。





「これで、ヴィンは私のものだからね!!」



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