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22 滅びの魔女

 ファルマの家、そうナナリーが断言する場所に四人は立っている。

 辺りには人は居なく、いつの間にか。どんよりと曇った空が広がっていた。

 ファルマの家からのっそりと人影が出てくる。

 身長はカレンと同じぐらいに高く、小ぶりな胸の女性。

 特徴的なのは、黒くお尻まである長い髪、砂漠というのに熱が吸収しやすい黒いワンピースを着ていた。なにより目立つのは、その眼の部分であった、同じく黒い布で両目を隠している。



「貴方達、家の前で騒がしいわよ」

「あら、ファルマ」

「なっ。風よっ! 我が敵を切り裂けっ!」



 ナディは突然現れたファルマに、瞬時にして魔法を放つ。

 眼を隠しているファルマは、ナディのほうを見向きもせず左手を前に出した。ナディの風の魔法が、なんらかの魔法で打ち消した。



「久しぶりね、小さい方はナナね。貴方は前にあったロキ。こちらの二人は見た事ないけど魔女と、珍しい男性の魔法使い。貴方以外にもやっぱり居るのね」

「ご無沙汰」

「お久しぶりですわ」



 ナディは自らの魔法が片手でふさがれた事に混乱し、回りをみて、最後にロキを見ている。



「先生っ! あのその、悪い魔法使いじゃ……」



 最後の方は声が小さくそうであって欲しいと思いを込めた声。



「ああ。ごめん、ちょっとした嘘。それに僕自身は、悪い魔法使いとは言っていない」

「まぁ、悪い魔法使いって、わたしの事かしら。確かにそう思われても仕方が無いわね、わたしは今からこの町を滅ぼす悪い魔女」



 ファルマは口元をニヤリとさせる、赤い舌が上唇を舐めるように見せ付けた。

 ナディは思わずその顔を見て固まる。余りに固まる物だからファルマが姿勢を正すと困った声を出した。



「刺激が強かったかしら ナナ。この少年が動かないわよ」

「驚いているだけでしょう。固まっているほうがナディさん。此方の女性がカレンさんですわ。お二人ともロキ様の弟子ですの」



 ナナリーは、ロキとカレンをファルマに紹介すると、カレンは遅れていた事を詫び、慌てて自己紹介をした。



「別にそんなに謝らなくても。遠い所から態々わたしに会いに来てくれたんでしょ。立ち話もなんだし家に入ろう。そうでもしないと、わたしは誰も居ない空間に話しかける変人になってしまうし」



 くるりと反転すると、部屋の中へ消えていく。

 ナナリーも、お言葉に甘えまして。と、言うと家の中へ入っていった。



「師匠。そういえば。ファルマさんは私達をみてましたね。町の人は認識しないって言っていたのに」

「高位の魔法使いだからね、それぐらいは……」

「わたくしの、信頼する御友人ですわ、さて、ナディさんは、わたくしが連れて行きますからお先にどうぞ」



 短く返事をしたロキが部屋に入っていく。カレンのその後を続けていると、ナナリーはちらっと背後を見ると、固まったナディの顔をナナリーが突いて正気に戻していた。


 室内には木箱が沢山つまれており、その他にも乾燥した葉や果物、パン、飲料水にしているのか水の入ったタルなどが無造作に置かれている。



「うわー、すごい食べ物? の数ですね」

「二人暮らしには過剰な食料よ。断るんだけど置いて行くのよね。貴方達に食べて貰いたいけど、食べないわよね」

「ええ、まぁ。食べれないんですよね。そうなんですよね師匠」

「いや、食べようと思えば食べれるよ。コツや訓練はいるかもしれないけど」

「え。そうなんですかっ!」

「別に食べなくてもいいから大丈夫だけど、なるべくは過去に干渉はしたくないかな」

「えーっと、師匠。何か矛盾があるんですけど……」



 ロキの言葉を借りれば、ここは過去のカーメルの町である。ロキとナナリーは過去にいるファルマに用事がありここに来ている。いまさら過去に干渉も何もあったもんじゃない。

 カレンは白い目でロキを見みる。

 ナナリーが申し訳ない声でカレンへ謝った。



「そんなにロキ様を攻めないでください。今回はわたくしが頼み込んで危険な真似をさせたのです」

「え。危険がある魔法なんですかっ! さっき危険な事はないとか……」

「あー。魔法そのものに大きな危険はない」



 はっきりというロキであるが,その顔は何かを隠しているような顔だ。

 ファルマが思わず小さく微笑む。



「そうね。確かに魔法そのものに危険はないわねー、扉を作るだけだし」

「ええ、そうですわね」

「どんな危険があるんです。そして、なんでこの町の、ファルマに会いに来たんですかっ」



 ナディの質問にロキは口を開きかけ閉じる。何から伝えて言いか迷っているようだ。

 


「そうだね。細かい注意事項は色々あるけど、まずはこの魔法はトップクラスの禁魔である。ナディなら解るだろう」

「なっ!」



 ナディが固まると、カレンが心配するような顔でロキへと尋ねる。



「えーっと。なんかやばそうな単語なんですけど。見つかったら牢獄……? ですか」

「関係者一同処刑、財産没収、弁解の余地は成し。魔法使いだったら登録の抹消。まぁこれは死んだ後だしどうでも良いんだけど」

「なっ……。冗談です……よね?」



 ナナリーが笑顔で首を振る、本当に極刑なのだろう。

 事の大きさが解ってきたのか、カレンとナディの顔色が白くなっていく。



「色々限定されるとは言え、僕らは本来の歴史の先からきた。その人物が過去の人間に未来の歴史を教えたらどうなるとおもう?」

「あっ……。歴史、いやそんな大きな事じゃなくても未来は変わりますよね」

「そう。そして、それは変えた者達しかわからない。実に面白い魔法だ」



 他にも過去の自分に会ったら、自身の両親を殺したらなど色々な問題があり禁術にされているが、そこまでの説明はしないロキ。

 ロキが頷くと、人数分のお茶をテーブルに差し出す。



「で、貴方達は、二度に渡ってわたしに会いに来ている。一度目は、ロキとナナ、他にも数人居たけど、この場に居ないので省かせて貰うわね。そして今日、そんな危険まで犯してだ。わたしの医術でも教わりに来たのかな。貴方達のいる世界のほうが医術は発展してそうだけど」

「つれないですわね。本日の用件はコレですわ」



 ナナリーがポーチから二つの石ころをテーブルの上に転がした。

 バジリスクの目である。



「え、これは……」

「あら。普段すましている癖に、一応は驚く顔は出きるのですね」

「いや、まって、これは、でも、本当、本物?」



 ファルマはバジリスクの眼を手に取り触り始める。



「ええ、言いましたでしょう。たとえ何百年かかろうともわたくしは貴方を見捨てないと」

「そう、言っていたけど……」



 二人の空気を作りだすと、それを見ていたカレンはクシャミをした。



「大変、風邪。この地域は暑いとはいえ風邪が無いわけじゃないし。ちょっと喉を見せてっ!」

「え、いや。いいですよ、あの、ちょっと――」



 カレンは無理やり口を開かされて喉の置くまで覗き込まれる。軽い診察が終わったファルマは笑顔で、何もないなと喋った。



「もう。だから大丈夫って言ったじゃないですか。土埃がはいったんですよー。それにしても、魔法使いではなく、お医者さんなんですか?」

「魔法使いに医者か、それにしても魔法使いねぇ……。どちらかと言えば、わたしは魔女と呼ばれたほうがしっくり来るんだけど。魔法使いは男性の呼称なのよね」

「魔女……ですか。所でそのバジリスクの眼って、二個しかないですけどそんなに貴重なんですか? ここに来る時もバジリスクを育成しているの見たんですけど、眼だけだったら、危険を冒して過去に来なくても……」

「カレンさんの質問ももっともですわね。こんなちいさな眼二つと私達の命、釣り合ってないと思っているんですよね?」

「いや、そこまでは」



 ナナリーがカレンとナディを見て、最後にファルマを見る。

 目隠しの上からでもファルマはナナリーを見ていて小さく頷いた。



「これは、祖と呼ばれるバジリスクの眼よ。わたしが本気になれば人間一人ぐらい不老不死……。いえ、不老ぐらいには出きるんじゃないかしら」

「不老って。そんな、小さい眼二個で出来るんですかっ。人間がエルフみたいになれるって事ですよね」

「きちんと製造すればね、そうねぇ。わたしがコレを探してた理由よね、それはわたしが、滅びの魔女だからって事になるのかしら」



 カレンは意味が解らないと首をふる。ナディも解らずに全員の顔を見渡す。



「唯一の親友として貴方は悪くないと言っておきますわ」

「ナナ、それは、わたしに親友がナナしか居ないって事になるわよ。別に親友ぐらいいますし」

「そうでしょうか? ではカレンさんとナディさんのために話を戻しますね。バジリスク瞳は今でも、治療に使われるほど貴重なんですけど。実は取り扱いが今だ良く解ってなくてですね。毒が合ったんです。その毒は、潜伏し感染し、数ヶ月から数年で死に至ります……」

「先生っ、早くこの町を出ないとボクらもっ」



 ファルマが、口元に手をあててクスクスと笑う。



「少年達には感染しないよ」

「何で言いきれるっ! お前が毒を撒いているんだろっ」



 ナディの怒りに、静かに「そうね」と答えるだけのファルマ。場の空気が一気に重くなった。

 ナディは居たたまれなくなり座ると口先をすぼめる。

 カレンがファルマの方を向くと、無理に明るい声を出した。



「で、でも。不可抗力。理由があるんですよねっ」

「カレンさんの質問にはわたくしが代わりに――」



 ナナリーは一つの昔話を全員に聞かせる。

 はるか昔に一人の魔女が村を追い出された。

 魔女が村を追い出されたのは理由は簡単である、魔法が使えたからだ。彼女は崖から落ちた村人を魔法で治療し、尚且つ近隣の魔物さえも倒した。村の領主が居たころはまだいい。

 魔女もそれなりに幸せだった。しかし、あるひ領主が些細な事故で亡くなった、魔女はその時も村のために魔物討伐をしていた。

 ある日領主を殺したのは魔女じゃないかと噂が立ち始めた、もちろん魔女は否定する。

 しかし、自分には無い力を使っている魔女の言葉は村人達には届かず、魔女の両目を潰して遠くへと捨てた。


 勿論魔女は抵抗も出来ただろう、しかし出来なかった。村人達の脅える顔、自分ひとりが死ねば村人が安心するならとされるがままになっていた。

 幸い眼は直ぐになれた、魔力を感じることで普通と同じ生活ができる、しかし生きる意味を持たない魔女は一人砂漠へと身投げをする事に決めた。

 砂漠なら例え死んでも何もかも消してくれると思って。


 そこで一人の死に掛けの男性を見つけた。魔女は、当時余り知られていなかったバジリスクの素材を使い、男を治療した。

 男は感謝し、自らの町へと魔女の手を引っ張る。

 魔女は言いました。

 怖くは無いのか、と。

 男性は言いました。

 怖いだなんて、素晴らしい力じゃないか、と。


 男性は彼女の身分を嘘偽り鳴く町人へと報告しました。

 村人の中には魔女を嫌悪する人もいますが、魔女の過去を知って同情してくれます、魔女も村人のために薬と魔法を使い怪我を治していきます。

 幸い薬となる材料は砂漠にいるバジリスクが居ます、眼は万能薬で傷の回復を早くしてくれます。

 それから数年後、魔女と男は町の領主にも認めら結婚する事となりました。



「良かった、悲しい事だけじゃないんですね。でも、この魔女さんがファルマさんとすれば、何も問題がないんじゃ……」

「カレンさん。この話にはまだ続きがあるのです」



 ナナリーが、カレンに伝えると、ファルマが続きを話し出す。



 魔女は知りませんでした。

 ある日、朝になると体が石のようになり死んでいる村人が発見されました。

 一週間後、また犠牲者が増えました、今度は三人です。

 そう、魔女は気付いていなかったのです。バジリスクの毒を。

 魔女は嘆きました、この町にはバジリスクの眼を使いなおした患者が数万人以上います。


 ナナリーの語りが終わった所でカレンが口を開く。



「それじゃ。ファルマが滅んだのって」

「ええ、わたしのせい」

「そんな……。師匠っ! ナナリーさんなんとかならないんですかっ!」

「君ね、そのために今回来てるんだけど。ナディが持って来たこのバジリスクの眼。コレは他のとちがって強力すぎる。そこから血清を作るつもりだ」

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