【海編5】4人と鈴 『水着でたいけつ』
「スイカがありますよー」
「棒とハチマキも用意しました!」
スタッフの一部からこんな声があがったとき、四人は二人組に分かれて対戦していた。
孝司と美有貴は水鉄砲を使った銃撃戦。シオンと宗佐は砂山に棒を立てて砂を取っていく陣取り合戦だ。
ルールもあやふやななか、バナナボートで身を隠しながらの遠距離射撃が宗佐とシオンの顔に直撃したり、美有貴が潜水して孝司のパンツを脱がしたり、砂山が波にさらわれたりと邪魔もあって勝敗は決まっていない。
「スイカ割りだ! これで勝負つけれる~」
「やろう」
「オッケー。割ったやつが優勝ね」
スイカ割りは映像にも収めようということになって、しばらく休憩ということになった。自由時間を与えられてそれぞれ好きに動こうとした美有貴と宗佐とシオンを、「おい、おまえら」と地に響くような孝司の低音ボイスが呼びとめる。
「シオン。返せ、おれのパンツ」
「あれ。隠してたのにバレちゃったか。ああ、波で砂山が崩れたのか」
「……残念だ」
「もーなにしてんのシオくんも秦っちも。頼むよー」
「主犯、いい加減にしろ」
孝司は先ほど水着を脱がされてからゆくえを探していたのだ。アンダーを穿いているので問題はないが、下着同然の格好をカレンダーに正式採用されることはないだろう。仕事も邪魔され勝負もうやむやになって面白いわけがない。ご立腹である。
シオンと宗佐の泥まみれの魔の手から無事パンツを取り返せた孝司は、いたずらっ子の頭を拳で小突いた。
「あはは……大丈夫でしたか? 霧森さん。サポーターつけていてよかったですね」
砂まみれの水着を洗っている孝司のもとに、タオルを持った鈴がやってきた。先ほどまでのやりとりを見ていたらしい。妙に気恥ずかしくて、孝司は「ああ」と頷いて視線を泳がした。
「サイズが大きかったせいで脱げたわけではないですよね?」
「ああ、問題ねーよ。あのバカが脱がしやがっただけだから」
「了解です。こちらタオルです、しっかり拭いてくださいね。それから絵を変えてみたいので、Tシャツ着ていただきたいんですが大丈夫ですか?」
孝司は鈴のほうを見ずに「ん」と手を差しだしタオルとTシャツを受け取った。
「あとは――はい」
「ん?」
ついでのように手渡されたものはやけに細くて長かった。受け取ったものを顔の前に持ってくると、白くて長くてひらひらした布が手からだらりと垂れている。ハチマキだ。
「って、なんでおれだよ」
「あ、どなたでもいいんですよ。みなさん四人で決めてくださいね」
ぱたぱたと手を振り振り否定する鈴にそれ以上聞いてもムダなようだ。タオルやTシャツのついでに孝司に渡しただけなのだろう。
ハチマキを恨めしく睨んでいる孝司の視界がふっと暗くなった。鈴と孝司の間に誰かが割り込んできたのだ。
「や、鈴ちゃん。さっき預けたやつもらっていいかな」
シオンだ。ちらっと孝司に意味ありげな視線を送りつつ、鈴に笑顔で用事を言いつける。
「はい! パーカーですよね。待っててください。すぐお持ちします」
「ああ、待って待って。オレも行くよ」
鈴が走りだそうとすると、その手をとられぎゅっと引かれた。
「どうしたんですか?」
「日差しがきつくて、しばらく日陰にいたいんだ」
シオンの手はすぐに離れていったから、鈴には足止めの意味しかもたなかった。
「じゃあ、こちらにどうぞ。飲み物もありますから」
ちょこちょこと小動物のような動きで前を行く鈴を追って、シオンはゆっくりと歩いた。
水着を着ているせいか下半身にレギンスをつけていないから、むっちりとした太ももが晒されている。見えるものもいいが想像するのもいい。
鈴のことだから狙ってのことではないに違いないが、彼女は白いTシャツを着ていて、シャツの下の水着が少し透けて見える。
微かなヒントを得た上でのシオンの予想は、白地にピンクの花柄ビキニだ。
「そういえば、その水着新しく買ったんだよね」
「その? あ、下に着ているやつですか? はい、つい先日」
「一人で。誰かと一緒に選ぶのも楽しいよ?」
「あ、いえ、わたしも二渡とミヤちゃんと園山さんと一緒に買いに行ったんですよ。シオンさんの仰る通りみんなでわいわい選ぶのは楽しかったですね」
「なるほど女の子で買いに行くってのもあるのか。それじゃオレが混ざるのは悪いね」
「女性用水着売り場で買い物をする女性四人グループに男性一人混ざるのは目立ちそうですねえ」
相変わらずナナメ上の返事だなとシオンは笑った。鈴は海の家につくなりシオンを日陰に座らせ、飲み物とタオルとパーカーを次々に置いてはどこかへ行ってしまう。仕事なのだし二度も手を引いて邪魔をするのも忍びない。ちょこちょこと視界を動く姿を見るだけにとどめておくことにした。
「宗佐くん? どうしたんですか、その棒。スイカ割りに使う棒ですよね」
ビーチに戻った鈴は、熱心に木の棒を見つめている宗佐に何ごとかと声を掛けた。
「鈴。……俺、割るよ」
「ん? えーと、割るって、スイカのこと?」
鈴に言葉を補ってもらい、宗佐はこっくりとうなずいた。言葉が少なかったんだと思い至り「スイカ割りは久しぶりだから」と説明を増やしてみる。
「綺麗に割りたいと思ってるんだ」
「でも、宗佐くん。スイカどこにもありませんけど……」
きょろきょろと鈴が不思議そうに見回すので、宗佐は「今じゃない」と笑った。だいたいスイカ割り本番は、写真や映像に撮られながら行う予定だから、今宗佐だけで割るわけにはいかない。
「素振りしてたんだ。力強く振るためには、どう持ったらいいかな、って」
「きゃ」
宗佐が軽く木の棒を振ると、鈴は驚いたように肩をびくりとさせた。宗佐はKISSMEの中で一番大柄でがっちりとした筋肉につつまれているから、鈴にとっては迫力が違っただろう。
「ごめん。こわかった?」
「だ、大丈夫です。ブゥンってすごい音がしたからちょっとびっくりしただけです」
首を振って鈴は否定するが、その顔はちょっぴり強張っているようにも見える。宗佐はやりすぎたのかと反省した。本番はもっと力強く叩こうと思っていたのだけれど、鈴にこわい思いをさせるなら手加減しよう、と心に決めるのだった。
「すーずちー、秦っち~! おーい」
「ん?」
「なんでしょう」
はしゃぎきった少年の声が遠くから二人を呼び、段々と大きくなってくる。二人は同時に振り向こうとして――
「えーい、どーん!」
「わっ、きゃあ!?」
「鈴!」
振りむききる先に何かの衝撃が二人を襲った。宗佐のほうはびくともしなかったのに対し、鈴は盛大に転んでしまった。
「ごめん! ごめんね鈴ちー!」
「みー、いまのはひどい」
加害者の自覚がある美有貴は、宗佐に怒られてしゅんとした。
仰向けに倒れた鈴が眩しそうにぱちぱちと瞬きしている。「怪我はない?」と覗きこんだが、「大丈夫です」としか返ってこない。嫌われちゃったのかとあわあわする。
「ほんとにごめん! 倒れちゃうなんて思ってなかったんだ」
「大丈夫、大丈夫なので……、あの、どいてください」
言われてはっとする。美有貴は彼女の身体に覆いかぶさるようにして顔を覗きこんでいたのだ。そのまま鈴が身体を起こそうと思ったら美有貴にちゅーしてしまうのだ。「ごっ、ごめんなさい」とその場に正座をする。
「ぼく、鈴ちーと秦っちだー、って思ったらちょっとラリアットしたくなって」
「ラリアットだったんですね……」
「気持ちはわからなくもないが、場所と相手と力加減、間違ったな」
「うん、ごめんなさあい」
「俺、氷もらってくる」と宗佐が海の家に走っていって、美有貴はますます萎びれた。氷をもらうって発想も頭になかったし、さっきはちゅーしかけたし、ぼくって最低かもーと涙目になる。
「美有貴くんは怪我はなかったですか?」
「うん、それはヘーキ」
「よかったです。これで二人とも怪我してたら、笑えないですよー」
身体を起こそうとする鈴を見て、美有貴は「手伝うよ」と肩に腕を添えた。中に水着を着ているらしいTシャツは、汗でしっとりとして、ちょっぴり砂がついていて手のひらでちくちくした。
そっと身体をはなそうとすると、ないしょ話をするみたいに、手を添えた鈴の口元が美有貴の耳に近付いた。
「今後ラリアット禁止にしましょうね」
くすくすと笑う顔がかわいくて美有貴は一瞬見とれたが、「禁止、するするっ」と力強く頷いた。
「休憩中に疲れちゃったらいけないですしね」
宗佐が帰ってきて、氷と撮影再開の伝言を持ってきた。美有貴は鈴に「またね」と手を振って、宗佐と一緒にスタッフがつくる輪のなかへ入った。
青シートの上にでんと置かれたスイカが輪の中心だ。孝司とシオンは既にスタンバイ済だった。
「みーくん、鈴ちゃん転ばせたって?」
「本当に仕方ねえなお前は」
「う、あ、謝ったもん。ラリアットはもうしないって約束したし」
「そもそもラリアットすんじゃねーよ。意味わかんねーよ」
「俺は気持ちわかるけど」
「なんで分かるんだよ!?」
「まあまあ。……とにかくスイカ割りだよ。今回はガチで割れるまで行くからね。割った奴が優勝。文句なしの一発勝負ってことで」
「ルールはどうする? ちっちゃいひびとか割れたうちに入るの? マンガみたくぱかーんてわれないでしょ?」
「食べれるまで」
「いや相当時間掛かるんじゃないかそれ。赤いのがチラ見したら終了でいいんじゃね?」
「オッケー、それでいいでしょ」
「ターンは、目隠しで、十回まわって、棒を振るまで」
「指示は?」
「五回に一回だけはウソついていいことにして、あとは本当の指示しなきゃならねーってルールはどうよ」
「面倒くさい」
「こないだぼくが見たマンガではー、二人組になってたな」
「そしたら個人戦にならないでしょう」
真剣にスイカ割りのルールを決め始めるアイドル四人に、スタッフから苦笑が漏れる。
「自分たちが指示しますので、それ以外は自由にやってください」




