4人と鈴 『勉強と魔法』
「うーわ、オレ無理だわこれは」
楽屋に入って机の上にを見るなり、シオンは顔をしかめた。
どどーんと置かれた、参考書の山。
「シオンさんの苦手発覚ですね」
次の番組用の衣装の準備をしていた鈴は、弱気なシオンが珍しくて思わず驚きを口に出した。
「苦手も苦手だよ。勉強はダメ。マジでいい思い出ないから。苦手意識あるんだよね」
「シオ……虫の食事も同じこと言ってた」
「あー、あー、あれはトラウマだから、うん」
ぶつぶつと言いながら楽屋の中央に向かうシオンの後に続いて、宗佐が入ってくる。
二人の後ろにカメラを抱えた技術スタッフが続き、楽屋にセッティングを始めた。
「わー、やっばいね。マジで勉強モードになってるう」
「やるしかねー状況になってる。どんだけだよ」
セッティングが終わり、シオンと宗佐が参考書を広げているところで美有貴と孝司もやってきた。参考書を見て愚痴が出るあたり、KISSMEの苦手分野が伺い知れる。頑張ってとも言いづらくて、鈴は苦笑いしてしまう。
今日のKISSMEの仕事は『教えて! ○○先生』というレギュラー番組の収録だ。科学の実験のほか、世界経済や漢字の講義も受ける。今回はあらかじめ勉強しているところを撮影するため、KISSMEは参考書の山と格闘しなければならなくなった。
「おい。シオン、おまえ何マンガ読んでんの? 真面目にやれば?」
「もうねー、オレ諦めた。オレにこういう意味で夢を見てる子はいないと思う」
美有貴が宗佐の隣に座ってノートを広げ出したため、シオンの隣には孝司が座った。シオンはやる気が全くないらしく参考書を開くことすらしない。
すでにカメラは回っているので、鈴はツッコみたくてもツッコめない。孝司もため息をつくだけでさっさと自分の分の参考書を広げ始めてしまった。
「孝だってさ、そんな頭いいワケでもねーじゃん。真面目キャラみたいになってるけど」
「バカ、ねーよ。どっからどーみても一夜漬け詰め込みタイプだろ」
「えー、そっかなあ。孝ちゃんけっこう頭イーことになってると思うよー。ぼくと秦っちはそーゆー期待みたいなのないからちょーらくしょー!」
「おいそれ胸張って言うことじゃねーぞ、おい」
「俺はテスト……よかったよ? いつも80点くらい取れた」
「うっそぉ! うわあん、シオくんっ。秦っちがぼくを裏切ったあ」
「よしよし。一緒にサボろうぜ」
宗佐の意外な事実にショックを受けた美有貴が、立ちあがってシオンに後ろから抱きついた。抱きつかれたシオンは肩のあたりにある美有貴の頭を撫で撫でしてなぐさめてあげた。
「ぶー。孝ちゃんに怒られちゃうからあ、ちゃんとやるけどぉー」
シオンに寄りかかりながら、参考書を広げる美有貴。パラパラとめくりながらも、どんどん顔が歪んでいく。マンガを読むのを邪魔されているシオンは何も言わないが苦笑している。
「みーくん、それ読めてるの?」
「読めてない……。てゆーか読んでも分かんないし……。魔法使えたらなあー。これ全部覚えるのに」
「覚えても意味わかんないんじゃなー。オレ、魔法使えたら透視の能力手に入れるよ。そっちの方が早くない? 今回は出題者がいるんだからさ」
「カンニングじゃねーか」
「カンニングいーじゃん。スケスケだよ? スケスケ」
「てめシオン、おまえがそれ言うとヤらしい意味にしか聞こえねえからやめろ」
シオンと美有貴の荒唐無稽な会話に、真面目にメモを取りながら勉強していた孝司も、思わずツッコんでしまう。「ヤらしいなんて、孝がヤらしいからでしょ」といつものように返すシオン。孝司はイラッとしてしまうが今回は耐えた。
「ねーねー、秦っちは魔法使えたら何がいいー?」
「俺は……魔法だったら……火と電気。強いと思う」
「ちーがーう。勉強で使える魔法のことだってー」
「じゃあ時間を止める能力」
「なんかおまえ魔法に対してガチすぎないか?」
宗佐にとっての魔法の考え方は完全にゲームとして有効かどうかだ。
「あ、ねえねえ、こころの中を覗ける能力とかどうかな! 出題者のこころを覗いて答えが分かるっていうー」
すごい方法思いついたーと美有貴が手をあげて発言する。
「それオレの透視とカブってない?」
「えー全然違うよ。ここは間違ってほしいなーって出題者の人が思ってたら間違えれるんだよ」
「おいこら、テレビの悪いところ出すんじゃねえ」
「あはは……魔法じゃなくて、真面目に覚えようとしませんか? しかもなんかズルイ方向に魔法使おうとしてますし」
話の流れがなんだかいけない方向に向かっていて、鈴は思わず注意をした。
「お。鈴ちゃんも意見があるの?」
「ズルくない魔法ってたとえばー?」
シオンと美有貴に尋ねられ、うっと言葉に詰まった。
「ホラ、えーと、問題を、知ってる問題に変えちゃうとか。自分の答えを無理矢理正解にしちゃう能力……」
「それもズリィって。範囲がせめぇしさ」
「じゃあ、えーとえーと、間違ってたけどカッコイイーって感情だけが残るとか。イメージが下がるのが悪いんですよね!」
「虚しくね? それ」
うんうん唸って出てきた鈴の解答に、孝司がつっこむ。
たしかに、こころの中が覗けたり、他人に与える印象を自分で操作できたらいいなと思うことはある。
四人の視線がなぜか鈴に集まった。
「真面目に勉強しようぜ……」
孝司がため息をつくのに合わせ、美有貴が自分の席に戻り、シオンがマンガから参考書に持ち替え、宗佐が勉強に戻った。
「えっ? えっ? なんですか? なんでわたしだけ虚しいってことに?」
うろたえた鈴に、四人は答えを与えなかった。こころの中を覗ける能力だけは欲しいなあ、と鈴は思った。




