プロローグ
初めまして。
本作は地続きの第二部となっておりますが、この作品から読み始めて頂いても問題ございません。
異世界に転生したプロマネの活躍、是非お楽しみください。
⭐︎第一部はこちらから⭐︎
異世界PMは不具合を許さない 〜ギルドの独占市場を改修する〜
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女は諦観に近い感情で、眼前の屈強な人間の戦士を眺めていた。
背後には高い岩壁がそびえ、逃げ場はない。
自身の魔力はとっくに底を尽き、手にした武器は刃こぼれして使い物にならなかった。
絶体絶命だが、女には何の感情もない。
元よりそんな感情の機微を、彼女は持ち合わせていなかった。
ずっと独り。
この戦争も、ただ駆り出されただけ。
立派な思想も、英雄願望も、金銭すら彼女には興味がなかった。
「……これで、おしまいか」
漏れ出た独り言も、まるで他人事のような響き。
女の視界には、戦士が振り下ろす剣の軌跡がスローモーションのように迫ってきていた。
そっと瞳を閉じる。
最期なんて呆気なくていいという思いが、女の胸中を占めた。
「……ってところで、目が覚めたのよ。死ぬところだったの!ねぇ、聞いてる!?」
「ええ。はい、申し訳ございません。ただのノイズですので、気になさらないで下さい。それでは次回のステコミは、大川様のご都合に合わせて、来週のこの時間でまた宜しくお願いします。予定はTeamsで共有しておきます。本日はありがとうございました」
俺――ヨシダ・オサムは、画面先のスーツ姿のお偉いさんたちに頭を下げると、回線を落とした。
それから声をかけてきた少女――アダチ・フネに向き直り、苦言を放つ。
「だから、会議中には話しかけるなって言ってるだろ?」
「だって退屈なんだもん!」
フネは俺の言葉に、頬を膨らませて不満を露わにすると即座に反論した。
いや、論じてはいないから反論ではない。
彼女の場合は反射だ。
俺は大きく溜息を吐くと、視線を窓の外に向ける。
窓外では道行く老若男女が、慌ただしく行き交う様子が見えた。
その先では建設途中の建物がいくつも垣間見える。
アステリスク国の復興は順調に進んでいて、だからこそ俺も本来の仕事に注力する時間を取れるようになったのだが。
――と、ここで俺とフネのことを軽く紹介しておこう。
俺たちは、端的に言えばこの世界の外からきたアウトサイダーだ。
元々俺はIT企業のプロジェクトマネージャーをこなす中年で、フネは普通のOLだった。
ひょんなことから世界を渡り、この地へやってきた異邦者。
よくわからない神という存在から若さと力をもらったが、フネは無双の力と無限の魔力というシンプルなモノ。
俺はといえば、元いた世界と通信できるという、変な力を授かった。
俺たち二人は転生後、そのまま行動を共にして、色々あって今に至る。
その辺のことは、追々語っていこう。
いつまでもフネを無視していると、後々面倒だ。
「で。夢の中で、フネはその女だったのか?」
俺はパーソナル・ターミナルを片付けながら、フネの話に合わせるように口を開く。
まだ頬を膨らませたままだった彼女は、自分に興味が向いたことでぱっと表情を和らげた。
「うん。そうそう。でも、ちょっと変なのよね」
「何がだ?」
フネは小さなベッドの上に腰を下ろすと、俺の問いに、枕を抱えてうーと唸る。
言い忘れたが、ここは俺たちが拠点にしている安宿の一室だ。
とあることをきっかけに追い出されたこともあったが、今では以前より安い代金で泊まらせてくれている、貴重な宿である。
「えっとねー。なんだか気持ちはその女の人と繋がってるんだけど、私はその光景を上から見下ろしてるような感じ」
夢ではよくあることなのだろうか。
正直フネが見た夢の話など、どうでもよいといえばどうでもよいのだが、俺はなぜか看過できない気がしてさらに問いを重ねる。
「俯瞰しているということか。どんな容姿だったんだ、その女は」
「人間だよ。美人さんだった。でも目が赤かったような……」
「目が赤い?」
俺は首を傾げて聞き返す。
この世界、といっても俺たちはまだアステリスク国しか知らないが、そんな瞳の色をした人間には出会ったことがない。
やはり、夢は夢か――
これ以上考えても仕方ないと判断し、俺はまだベッドの上で考え込んでいるフネに、手を差し出した。
「とりあえず、飯でも食いながら話の続きでもしよう。この間ガウェインさんに安くて美味い飯屋を教えてもらったんだ」
「ごはん!」
文字通り反射的に彼女は俺の手を取ると、ベッドから立ち上がって満面の笑みを浮かべる。
二人で件の飯処に着くころには、すっかり夢の話など忘れてしまっていたのだった。




