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エピローグ


「うわぁああ!さいっこうです!カイトさん、大好き!」


 オレンジ色の瓦屋根、白やクリーム色の漆喰壁、パステルカラーの鎧戸や扉、迷路のような石畳の小径――――それらで構成された可愛らしい街並みの上を、心地よい海風を感じながら旋回する。街並みが切れた先には、白い砂浜とエメラルドグリーンに輝く海が夏の陽射しを受けて強烈なコントラストを形成していた。今度はカモメと一緒になって、海の上高くから、海面スレスレまで、上ったり下りたりを繰り返す。リンは、カイトの首に手を回して、振り落とされないようにしっかりと密着しながら、海辺の空中散歩を楽しんでいた。


 春祭りでカイトと再開してから、三ヶ月というスピードで結婚式を挙げた二人は、新婚旅行という名目で海辺の街アズールを訪れていた。

 場所の候補はいろいろあったのだが、「リンが滞在していた街に行ってみたい」というカイトの希望から、目的地がここに決まった。

 奮発して海沿いの老舗高級ホテルに宿をとって三日目の今日は、カイトにお願いして、滞在しているホテルの部屋のバルコニーから、こっそり空に飛び立ってもらったのだった。この後は、そのまま高台にある、リンがお世話になったクレマンの診療所に向かう予定になっている。


「それじゃあ、そろそろ行くよ。しっかりつかまってて。」


 カイトが一気に高度を上げて、高台目指して街並みの上を通過する。徐々に診療所が近づいてくると、既に大勢の人が庭に集まっているのが見えた。二人で診療所を取り囲む石壁の前にそっと降り立つと、姿隠しの魔道具を解除し、服や髪の乱れを整えて、そっと鉄製の門扉を開けた。


「お、来たな!ご両人!」


「おかえり。準備はできてるよ。」


 漁師のアドリアンとその奥さんが、こちらの姿を認めて近づいてくる。他にも、この街で知り合いになった大勢の人たちが、リンたちを取り囲んで嬉しそうに話しかけてきた。


「結婚おめでとう。」「優しそうな旦那さんだ。」「美男美女カップルだねえ。」「会いたかったよ、リン先生。」「本当に良かったねえ。」


 みな、口々に祝福や歓迎の気持ちを伝えてきてくれる。リンは、この街の人たちの温かさに再び触れて、懐かしさと嬉しさで胸がいっぱいになった。


「……みんな、ありがとう。クレマン先生は?」


 リンが、最も会いたい人の姿を探していると、白髪の老人が診療所の中からニコニコと鍋を抱えて現れた。


「おかえり。待っとったぞい。さあ、始めるとするかの。わしが腕によりをかけて作った料理じゃ。たんと召し上がれ。あとでケーキもあるぞい。」


 庭に設えられたテーブルの上には、真っ白なクロスがかけられ、色とりどりの美味しそうな料理の皿や、ワインの瓶、沢山のグラスが並んでいる。所々に可愛らしい花も飾られて、これから始まる祝宴への期待を高まらせていた。


「ニコラ、あれをやっとくれんか。」


 クレマンが、リンも訪れたことのあるレストランのソムリエであるニコラに、何やら目配せをしてから、集まった人たちをテーブルの周りに促した。


「リン君、そしてカイト君。今日は君たちの門出を祝して、ささやかな会を設けさせてもらった。ぜひ楽しんでいってくれたまえ。これはわしからの祝いの気持ちじゃ。」


 そう言うとクレマンは、少し離れたところに立つニコラの方を手で示した。リンたちが目を向けた先には、太陽の光を受けてギラリと輝くサーベルを右手に、シャンパンのボトルを左手に構えたソムリエの姿があった。


「それでは、お二人の晴れの船出を祝して!」


 ソムリエは、ボトルの口に勢いよくサーベルの刃を滑らせ、コルクごと瓶の口を割り飛ばした。瞬間、真っ白な泡が噴水のように吹き出て、皆の歓声が上がった。自然と、拍手に包まれる。吹き出る泡が落ち着いた後、ニコラはそれぞれのグラスに酒をサーブして回った。


「さあ、それでは乾杯といこう。」


 クレマンの合図で、一斉にグラスが掲げられ、和やかな宴の開幕となった。

 美味しい料理と酒に話も弾んで、誰かが余興で楽器を奏でたり歌ったり、贈り物をもらったりもしながら、賑やかに時間が流れていった。


「君の逃避行が幸せなものだったようで、良かったよ。」


「カイトさん、それって嫌味ですか?」


「……はは、冗談だよ。……でも本当に、良い人たちだ。またちょくちょく来れると良いね。」


「……ええ。ぜひ二人でまた来たいです。」


「すぐに三人になるかも。」


「……もう!カイトさんったら。」


 楽しい時間を過ごす内に、いつの間にか空が赤く染まり始めていた。まだまだ宴は終わりそうにない。カイトと手を繋ぎながら、この幸せな時間がいつまでも続くことを願った。






これにて完結となります。

二人の物語にお付き合いありがとうございました!


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