外伝三『シュレディンガーの告白』【収束】
どちらの未来でも、変わらないことがある。
放課後、三人は一緒に帰る。
悠真が真ん中。環奈が左。紅音が右。
クレープを食べたり。カフェに寄ったり。遊園地に行ったり。
テストで平均点を取ったり。体育で手を抜いたり。結社の新入りに挑戦状を叩きつけられたり。
騒がしくて、危なっかしくて、少しだけ温かい日常。
どちらの未来を選んでも、この三人の関係は壊れない。
形は変わるかもしれない。距離感は変わるかもしれない。
でも、三人でいることだけは——変わらない。
◇
そして。
屋上のフェンスに寄りかかった悠真は、まだ告白していなかった。
二つの未来を、脳内でシミュレーションしただけ。
≪虚数演算≫は使わなかったが、天才の頭脳は勝手に確率を弾いてしまう。どちらのルートを選んでも、三人の関係は続く。その結論だけは、確率100%として導き出された。
悠真は空を見上げた。
六月の空。入道雲が遠くに見える。もうすぐ夏が来る。
屋上の扉が開いた。
「悠真ー! 帰ろうよー!」
紅音の声。
「悠真、早くしなさい。アイスが溶けるわ」
環奈の声。
二人が屋上に顔を出している。紅音が手を振っていて、環奈がアイスの棒を掲げている。三本。悠真のぶんも買ってきたらしい。
悠真は笑った。
「今行く」
フェンスから背を離し、二人の方に歩き出す。
シュレディンガーの箱は閉じたまま。二つの未来は重なり合ったまま。
開けるのは、もう少し先でいい。
今はただ、三人でアイスを食べて帰る。
それだけで、十分に面白い。
外伝三『シュレディンガーの告白』 了
――箱を開けるのは、もう少し先。
猫は生きていると同時に死んでいる。
告白は成功すると同時に、まだ始まってもいない。
でも、どちらの未来でも、三人は一緒に笑っている。
それだけは、確率100%の、揺るがない真実だ。




