8話
『リアへ
リアが文通相手を探していた1年間。色々な気持ちを抱いていた事だとは思いますが、私はリアが他に相性の良い相手と出会わなかった事に感謝しています。こちらこそ、ありがとう。
まだ、数回しかやり取りしていませんが、リアの文通相手に選ばれた事がとても幸運で嬉しく感じています。
最近は、警騎局の警察と騎士団に行ったり、病院、教会など様々な場所に現場実習に行っています。今日は消防局へ行ってきました。
たまたま火災があり現場で消火する様子を見学する事ができました。
1年後には私もどこかで働いているのかと思うと、身が引き締まります。
また、現場実習で学園内で過ごす時間も減ってきているので少しだけ、寂しい気持ちもあります。
私は魔法幾何学に興味があり、できれば魔法陣関係の仕事につきたいと思っています。
国家公務員の法陣局を受けようとは思っていますが、狭き門ゆえに他の進路も模索しています。
あと、様付けでは無くても良いですよ。
手紙の中でも、様付けで呼ばれると少し恥ずかしいです。
テクラ』
(法陣局かぁ〜)
新しい陣の登録や管理、陣の設置申請許可、陣の取り締まりなど魔法陣を取り扱う職種を総管轄する陣関係では最高峰の職種である。
毎年、若干名しか採用のないとてもなるのが難しいしエリート集団だ。
そこを目指していると言う事は、学園内でもトップに近い成績の可能性もある。
(真面目な人そうだし、瓶底眼鏡の七三分けのお堅い人だったりして・・・)
返信は思っていたよりも早くきた。
忙しいと書かれているが、手紙の内容からもマリアを好意的に受け入れてくれているように感じる。
マリアも顔も名前も知らない、手紙だけのやり取りの相手のことを、ついつい妄想したりしてしまう。
心優しそうな、真面目な青年を脳内に作り上げる。
今回の手紙にも甘い匂いが微かに香ってきた。
それだけで、マリアの胸はキュンとしてしまう。
『テクラへ
お言葉に甘えて、テクラと呼ばせてください。もし、嫌でしたらさん付けでも先輩付でも変えますから、言ってくださいね。テクラも敬語でなくてもいいですよ。
確かに他に相性の良い相手が居たら、こうやってテクラと手紙のやり取りできてないという事ですね。今ではこれが当たり前になりつつあるので、もしもを考えると不思議な気持ちになります。
現場実習先は数が多いと聞いていましたが、色々見るのも勉強になりそうですね。私は一年後が楽しみです!
あ、でも、一年後はテクラが学園に居ないと思うと寂しくて、不思議な気持ちになります。まだ、会っても居ないのに。
法陣局・・・。
受かる事自体が難しいと聞いています。そこを目指すという事は、テクラは努力家なのでしょうね。
私の成績は可もなく不可もなくで、就職先の選択肢はあまり多くはありません。
それなりに、努力はしているつもりですが。苦手な分野もあります。
3年になると学園に行く時間が減るんですね。
なるべく、学生生活は今のうちに満喫しておいた方がいいのかな?
今日、学園の中庭の花が綺麗に咲いていました。次に登校した時に見てみるのもちょっとした癒しになるかもしれません。
無理なさらないようご自愛ください。
リア』
マリアは前回と違い返信を出すタイミングに悩む事はなく、手紙を受け取り3日後に封をしたためて送った。
少しだけ、マリアの文通に対する熱は落ち着きつつある。
もちろん、落ち着いただけでまったく冷めてはいない。
今日は休日だ。
以前ローラに誘われていたカフェに2人で行く予定である。
私服のワンピースを着て、お気に入りの鞄と靴を選び寮のエントランスへと降りて行った。
お互いの部屋は同じ階のため廊下で待ち合わせでも良かったが、雰囲気作りのため休日に出かける時はいつもエントランスでの待ち合わせだ。
「マリちゃん、おまたせ〜」
時間丁度にローラがやってきた。
全く待ってはいないが、待ち合わせの常套句のため挨拶だけ適当にすませる。
ローラはブラウスに膝上のミニスカート。
健康的な肉付きの白い大腿部が眩しい。
エントランスですれ違う男子の目線が常に斜め下を向いているため、マリアはその視線からローラを守ることを強く心に誓った。
「マリちゃん、すごく変な動きだよ~?どうしたの?」
道中、男どもの視線からローラを守るために俊敏に動き回っていたらローラ自身に不振がられた。
確かに、横に変な動きの女は嫌だろう。
「新しいダイエットかな!」
適当な言い訳をして誤魔化すが、ローラはいつも通りニコニコしていて感情は読み取れないため、信じてくれたのかはわからない。
道中よりも危険だったのがバスの中だ。
とりあえず、1人席にローラを座らせその横にマリアは陣取る。
キョロキョロとローラを見ていた男を探し出して、精一杯睨みつけ威嚇する。
ローラが喋りかけてきたら、笑顔でローラとの会話を楽しむ。
それの繰り返しだ。
バスに乗って15分ほど経ったら流石に疲れた。
笑顔とがん飛ばし交互の睨めっこ状態に、顔面の筋肉を酷使している。
明日は顔面が筋肉痛になるのではないかと今から少し不安だ。
疲れてはいるが、下車まであと15分は頑張らねばならない。
いや、帰りのことを考えたらまだまだ先は長い。
「マリちゃん、見て見て。次のバス停からうちの学園の先輩乗ってくるかも」
「先輩?」
ローラが数十メートル先にある停留所の方を指差す。
この距離から、学園の先輩を見分けられるローラがすごいと思った。
マリアも少し身を乗り出すように窓の外を眺めていると、だんだんと停留所に近づきローラが誰のことを言っていたのか直ぐに判明した。
(・・・先輩)
停留所には数人が並んでおり、一人だけ頭ひとつ分高い見覚えのある人物がそこには立っていた。