18 瀕死の二人
馬車を止めた場所までやって来たがそこに馬車は無くただ燃えかすがあるばかりだった。貴族は馬車に火をつけていた。私達がいた形跡を消したかったのだろうか。
「そんな……」
ラルクは絶句すると膝から崩れ落ちた。全財産失ってここから移動する事も困難になったのだ。家族の行方もわからず打ちのめされる。
「ラルク、父さん達を探そう」
私は村の跡地をウロウロとする。ラルクは「無駄だよ……」とつぶやきその場を動けずにいた。姿が見えないのならもしかしたら生きているかも知れないと必死に探した。だが、どこにも二人の姿は無く焦りだす。
「ラルク、探して!お願い、怪我して動けないのかもしれない。今なら助かるかもしれないのに……」
「アリア……無駄だよ。馬車まで始末したんだ。二人も殺されたさ……」
「そんなの分からないじゃない!私達だって助かったんだから!お願い手伝って!」
私はラルクを引っ張りながら立たせると背中を押して急かせた。必死の形相に気おされたのかラルクは渋々ながら二人を探し始めた。
村の中には誰もいなくて諦めかけた時、隅の方に血溜まりを見つけた。そこから点々と街道に出る道へ向かっていて、慌てて跡を辿ると道の脇の草むらに二人が倒れていた。
「父さん!ウォルフ!」
駆け寄ると血の匂いでむせ返る。ジョルジュは袈裟懸けに切られ血まみれだった。その横でウォルフは殴られ誰か分からないくらい顔が腫れ上がり右目は塞がって開けず、手足もアザだらけで血とドロまみれだった。ウォルフは脱いだシャツで父さんのキズを覆っていた。
「と、父さんに……血止めを……」
微かに意識のあったウォルフは腫れ上がった唇でそれを伝えてくる。
「わかった!アリア、二人を見ててくれ!」
そう叫ぶとラルクは駆け出した。店では野菜の他に薬草も少し販売していたのでそれなりに知識はあり森にかけこんで行った。
私は何も出来ずただ父さんとウォルフの名前を呼んでいた。
貴族だからってこんな事が許されるの?マティウス達も流行病の事があったから私の態度を許してくれていただけなんだろうか……怖い……
しばらくしてラルクは血止めの薬草を摘んで戻ると手で揉み込みながら父さんの側に座る。
「アリア、街道に出て馬車が通らないか見て来てくれ。助けを呼ぶんだ、ただし貴族の馬車は絶対に止めるな!」
「わかった!」
やっと出来ることをみつけて私は走って街道に出た。どっちを見ても何も通っていない。仕方なく街道そばの石に腰掛けキョロキョロしながら待った。
すると、私達が来た方角から遠く土煙があがっているのが見えた。石から飛び降りそちらに向かって走りかけたが、ふと貴族だったらどうしよう……と頭に浮かび、少し下がった所の木陰に隠れた。
徐々に馬車は近づいて来る。少し速度があり急いでいるようで前を通る瞬間に目をこらすとやはり貴族の馬車だったが、御者台を見るとそこには知った顔があった。
「アリステア様!」
私は叫ぶと同時に飛び出した。馬車は走り続け、私は何度も転びながら叫び続け追いかけた。
すると、御者台からアリステアが振り向き飛び降りた。同時に馬車のドアが開くとダリューンが顔を出し驚きの声をあげる。
「アリア!」
そのまま馬車は速度を落とし向きを変えるとこちらに向かってきた。
アリステアは飛び降りたままの勢いで私に駆け寄る。私は転んでキズだらけ泥まみれで座り込んでいた。
「どうしたのだ!」
アリステアが心配そうに駆け寄ってくる。
「助けて下さい!」
私は必死に訴える。ダリューンも来た。
「何があった?!」
すぐ後からマティウスが駆け寄り二人の前に出た。私は立ち上ってマティウスの袖を掴むと引っ張り叫んだ!
「助けて下さい!父さんとウォルフが!」
すると突然、後ろの側仕えの貴族がその手を払った。
「無礼な!その汚い手を離せ!」
私は驚いて身をすくめた。その瞬間に昨日の貴族と父さんの血まみれの姿が頭に浮かび震えが止まらなくなった。
やっぱり貴族は怖くて助けてくれないかも。でもこのままでは二人が死んでしまう。
「も……申し訳……ございません。お願いです、父と兄を助けて下さい。ポーションだけでも……お願いします……うぅ……」
震える体を縮めて必死に頼んだ。こらえ切れず涙が溢れてしまい、ひざまずきボロボロ泣く私にマティウスは優しく手を差し出し立ち上がらせた。
「どこだ、早く案内しろ」
私は震えながら村の方を指差すとアリステアが走って行った。ダリューンが私を抱きかかえそれに続く。いつも無茶して生意気言ってばかりだった私の酷い有様に、側仕えは少しバツの悪そうな顔をして馬車に引き返していった。
ダリューンに抱えられて家族の元へ行くと先に行ったアリステアがラルクと何やら言い合っていた。
「お、お許しください。アリアはまだ幼くて貴族様とは知らずに馬車を止めたのです」
貴族の姿を見てパニックを起こしたラルクは瀕死の二人を背に庇い、ひざまずいていた。アリステアは「大丈夫だ、落ち着け」と言ってくれているが耳に入らないようだ。
二人の横をすり抜けマティウスがジョルジュに近寄る。かけてあるシャツをめくるとキズ口があらわになりその酷さに私は悲鳴を上げた。慌ててダリューンが見えないように体を返しそのままラルクを呼ぶと少し離れた所に私を降ろした。
「ダ、ダリューン様……父さんとウォルフは……」
「マティウス様が診てくださってるから心配するな」
ダリューンはそう言うとマティウスの側に戻った。ラルクは私を抱え道端に二人で腰をおろした。もう立っていられなかった。
しばらくすると、マティウスがやって来た。
「もう大丈夫だろう。父親は血が流れ過ぎているからしばらく安静にせねばならんがな」
「助かったのですか……」
ラルクはまだ止まらぬ震えに堪え私を支えながら立ち上がる。私は泣き過ぎてまだしゃっくりが止まらない。
「あ、ありがと、とう、ございますっ、ヒック」
なんとかお礼を言うとマティウスはいつもの無表情のまま私とラルクに手をかざし癒やしをかけてくれた。ほんのり暖かい光に包まれ傷が癒やされていく。ラルクは目を見開き驚くと私の傷を確認し、ホッとしてマティウスに深々と頭を下げ礼を述べた。
しゃっくりが止まらない私の頬をマティウスはつまむ。
「癒やしでしゃっくりは止まらんな」
そう言ってニヤッと笑った。
夜はそのまま村へ続く道にテントを張った。どうせ誰も通らない。テントの中にジョルジュとウォルフを運び込んだがジョルジュはまだ意識が戻らず心配だ。しばらくしてウォルフがヨロヨロとテントから出て来た。
「アリア、中に入れ」
「ウォルフが休んで、私は大丈夫だから」
「ダメだ、顔色が悪い。熱があるんじゃないか?」
そう言ってオデコに触れようと手を伸ばしてくるので、私はその手をよけた。
「大丈夫だよ、ウォルフこそ……」
二人でゴニョゴニョとしているとダリューンがスープを持って来てくれた。
「なんでも良いからこれ食ってねろ」
手渡されたスープは一日ぶりの食事でとっても体にしみた。
温かい……
食べ終わりウトウトとしていると、マティウスとダリューンが来た。
「疲れているところ悪いが、何があった?」
私は話して良いのか分からずラルクとウォルフを見る。二人も口ごもり下を向く。
「……貴族がらみか?」
ダリューンの一言に三人共ビクっと体を震わせる。マティウスは構わんから話せと言ったが私達がそれでも言いあぐねていた。するとダリューンがため息交じりに促してきた。
「事情がわからんと対処のしようがない。身分差で逆らえんのは仕方ないがこれからの事がある」
「これから?」
「あぁそうだ、お前たち一家はこれからどうするんだ。何もかも無くしたのであろう」
ダリューンの一言に私はハッとした。
「マティウス様、お願いです。私を働かせて下さい。愛人でもなんでもやります!」
マティウスは無表情のままピクリとも動かず、息もせず、完全に処理落ちしていた。
「はぁぁぁぁぁ?愛人……っって!!お前たちかぁ!」
やっと戻って来たマティウスの指摘にダリューンはスッと視線を外す。
「チッ、バレたか……」
護衛らしからぬ言葉を発し、
「ですがマティウス様はいつまでたってもご結婚どころか恋人すらいないではありませんか?私達の心労もわかってください」
そう続けた。マティウスはいつもの無表情はどこへやら、怒り心頭という感じだ。
「だからって寄りによってこんな幼児を相手にするか!」
なんだかムッとする。私だって嫌だよ、そこを頑張って言ったのに。隣でラルクもちょっとムッとしていた。




