いいじゃないですか、スーちゃん。可愛くて(ルファ)
スーテラさんを連れ立って教会に戻ると、子ども達に囲まれた。
「お姉ちゃん、おかえりなさい。大事な商談はうまく行った?」
そうだった。この子達には商談ということにしているんだった。
私は話を合わせるように現状を報告する。
「はい。なんとかうまく行きましたよ」
「よかったー」
私がシスターの笑顔を貼り付けながら子ども達の相手をしていると、スーテラさんが白い目で私のことを見てきた。
しょうがないじゃないか。この子達に本当の事を教えるわけにもいかないんだから。
本当なら借金がある事だって教えたくなかった。
でも勘のいいこの子達は、私の浮かない顔を見て借金がある事を暴いて見せた。
私、そんなに顔に出やすいかな?
私が内心でそんな事を考えていると、子ども達の中からこんな声が上がる。
「お姉ちゃん、この人誰? お友達?」
「しばらく孤児院で一緒に過ごしてくれるスーテラさんです。皆さん、失礼のないようにね」
「よろしくお願いします、スーちゃん」
「ス、スーちゃん?」
恐らく初めて呼ばれるだろうあだ名に、スーテラさんもといスーちゃんは戸惑っている。
散々振り回された意趣返しをこめて、私もその名で呼んでやることにした。
「いいじゃないですか、スーちゃん。可愛くて」
「あんたが一番失礼を働いてるじゃないの」
「あんたじゃなくて名前で呼んでください。子ども達の教育に悪いです」
すると、スーちゃんは小声で私に問うてきた。
「あんたの名前なんだっけ」
「ルファですよ。スーちゃんはお友達の名前も忘れちゃうんですねー」
その言葉に「本当にお友達なの?」という疑問の声が上がる。
「小声で聞いた意味がないじゃない! あとそのスーちゃんってのをやめなさい!」
スーテラさんが憤慨すると、子ども達は面白がってスーちゃんと大合唱。
流石に収集が付かなくなりそうなので、私は止めに入った。
「はい、スーテラお姉さんと遊びたいのはわかるけど、大事な話があるからまた今度ね。しばらくしたらお夕飯を作るから、それまでお部屋にいてね」
「はーい」と元気な返事をしながら散っていく子ども達。
聞き分けが良くて助かる。
そういう風に教育したのは私だけど。
スーテラさんもやんちゃな子ども達が素直にいう事を聞いたのが不思議だったのか、私に訊ねてきた。
「あんたの言うことなら素直に聞くのね?」
「名前」
「……ルファの言うことなら素直に聞くのね?」
「子ども達の胃袋を握っているのは私ですからね」
私がそう言うと、スーテラさんは肩をすくめて手を胸の前で広げた。
「飯抜きは堪えるから、怒らせないようにするわ」
「そうしてください。さて、私の部屋で今後のことを話しましょうか」
スーテラさんを私の部屋まで案内する。
調度品は一人分しかないので、私がベッドに座ってスーテラさんには机に備え付けの椅子へ座ってもらった。
スーテラさんは着席するや否や、本題に入る。
「あなたを鍛えるって言ったけど、その方法は二つある。なんだか分かる?」
遠回しな言い方に、私はツッコミを入れた。
「普通に言ってくれた方が早いのに、わざわざ聞いてくるんですか?」
「追放遊戯には考える力が必要だからね。これくらいの質問にすら答えを出せないと、教えるのに苦労するからひとつの指標としてね」
そんな意図があったのか。
だとすると、答えられなかったら恥ずかしい質問ということだ。
私は思い当たる二つの鍛え方を言ってみた。
「追放遊戯の基本戦略を覚えることと、現実で技能を増やすことですか?」
「正解。話が早くて助かるわ。まずはあなたの出来ることを増やしたいと思うの。だから、明日はダンジョンに潜ろうと思う」
うぇー。ダンジョンかぁ。冒険者の真似事は嫌なんだけどなぁ。
私が渋顔をしていると、スーテラさんが突っ込んで聞いてきた。
「なに? ダンジョンは嫌い?」
「ダンジョンがというより、冒険者が嫌いなんです」
「それって深く聞いてもいいやつ?」
そんな大層な理由はないから別にいい。
「冒険者のせいで両親が死んで、孤児になっただけの話ですよ。商人である両親の護衛を投げ捨てて、保身に走ったクズ共が許せないんです」
「それはそいつらが特別クズだっただけじゃなくて?」
「ここは冒険神を祀る教会ですから、冒険者がよく来るんです。でもあんまり素行が良くなくて。神が神なら、それを信奉するやつらも低俗な者ばかりですね」
私がそう言うと、スーテラさんは一つため息をついた。
「とてもシスターの言葉とは思えないわね。まぁいいわ。あなたの個人的な感情はあるにせよ、これは必要なことなの。断ってもいいけど、その場合は勝てる確率が落ちることを忘れないで」
従うのはやぶさかではないけど、一つ疑問がある。
「ずっと気になっていたんですけど、なんで私に良くしてくれるんですか? かと思えば、変なところで突き放してくるし。スーテラさんのことがよく分かりません」
この人、助けてくれているようで肝心な所は私の力でなんとかさせようとしているんだよな。
私がそんな事を考えていたら、スーテラさんは内心を吐露しだした。
「私もね、今の育ての親に拾ってもらうまでは騙されっぱなしの人生だったの。最初にふっかけられている場面を見かけて自分に重ねちゃって、孤児を面倒みているって聞いて、余計に手助けしたくなった。言わば私のエゴみたいなものよ」
スーテラさんにもそういう過去があったのか。この人も孤児だったのかな?
でも、そのおかげで私達は首の皮一枚で生き永らえたわけだ。
スーテラさんに感謝しないと。
「エゴだとしても、それで助かる命があるんです。スーテラさんはこの孤児院の命の恩人です。子ども達に代わってお礼申し上げます」
私はベットから腰を上げ、床に三つ指ついて頭を地面につける。
すると、スーテラさんは面白いように狼狽した。
「ちょっとちょっと! そこまでしなくていいから! 私の気まぐれで横槍入れただけだし、自己満足で結果的に貴方達が助かっただけだから」
私が顔を上げると、スーテラさんはそっぽを向いていた。
さてはこの人、感謝され慣れてないな?
いじり倒すのも可哀想なので、私はベッドに座り直して本題に戻った。
「まぁ、あんまりしつこくしても嫌がられるだけなのでやめておきます。それで、ダンジョンでしたっけ? 私は光魔法と回復魔法のどちらを鍛えることになるんですか?」
「あなたには光魔法を鍛えて貰おうと思う。勿論、回復魔法も伸ばした方がいいから、後で鍛えに行くけどね。それでも、役立たずになった時に必要となるのは殺す技能よ」
「過剰回復で壊死させるとかはダメなんですか?」
「怖い事考えるわね。ダメじゃないけど、証拠が分かりやすすぎる。難易度に見合ってないわ」
「そういうものなんですね」
「でもパーティー陣営になれば、シスターという職業は回復のおかげでかなり有利に立てるわ。追放遊戯の職業という意味では、あなたは結構恵まれてるのよ?」
「事が終わったら二度と遊ばないであろうゲームで有利になってもあんまり嬉しくないですね」
私がそう言うと、スーテラさんはからかい気味に言葉を発した。
「これから一億かかっているゲームを行うのだとしても?」
「すごく嬉しいです。神なんて信じていませんけど、この時ばかりは感謝してあげてもいいですね。おぉ、偉大なる冒険神よ、矮小なる私にお恵みを与えてくれた事を感謝いたします」
全く心のこもってない奉謝の言葉に、スーテラさんは呆れていた。
「これがシスターの姿? 敬虔な信徒が見たら卒倒するわよ」
「敬虔な信徒は私達のことなんて目にもかけていませんからいいんです」
「世知辛いわね。まぁそう言う事だから、明日からよろしくね」
「はい。これからよろしくお願いします、師匠」
「むず痒いからもっと砕けた呼び方にして」
「わかりました、スーちゃん」
「砕けすぎよ。普通に呼んでよ」
「スーテラさん。これでいいですか? わがままな人ですね」
「ちょっと。なんで私が悪いみたいになってるのよ」
私はスーテラさんの文句を無視して、厨房に向かった。




