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7.集会所

重い扉を押し開けると、外の喧騒が嘘のように遠のき、代わりに静かで整然とした空気が頬を撫でた。


石造りの豪奢な内装や、行き交う多種多様な種族のプレイヤーたちは、間違いなくファンタジー世界のそれだ。


だが、床に描かれた動線のライン、等間隔に並ぶ長椅子、そして奥に整列する窓口――そこに漂う空気には、どこか見覚えのある秩序めいたものがあった。


酒場めいた荒っぽいギルドの空間を思い描いていたのだが、これではまるで――。


「市役所の待合室、だな」


呟いた声は反響することもなく、静かに空気へ溶けていった。


その印象を裏付けるように、入り口付近に立っていた女性が小走りで近づいてきた。

タイトスカートとベストを組み合わせた、近代的な制服をファンタジー風に仕立て直したような装いをしている。


「こんにちは! 本日はどのようなご用件でしょうか」


営業用の笑みを浮かべた問いかけに、私は淡々と答えた。


「クエストを受けてみたいというのと、この世界の情報を知りたい」


「わかりました。クエストの受注にはライセンスの取得が必要となりますので、あちらの5番窓口でお待ちください。ただいまお渡しする番号が呼ばれましたら、手続きの後に対応させていただきます」


流れるような案内とともに、女性はエプロンのポケットから木の札を取り出す。


「また、世界の情報についてですが、歴史をお知りになりたい場合は図書館へ。現在の世界情勢については、ご自身で足を運んでお調べいただくのが一番かと存じます。ただ、このユーラシア王国に関する基本的な情報でしたら、待合席に資料がございますので、そちらをお読みになってお待ちいただくのがよろしいかと思われます。では、番号が呼ばれるまでしばらくお待ちください」


「543」と焼き印の押された木札を手渡され、5番窓口の前の席を示されると、女性は軽く一礼して持ち場へと戻っていった。


中世風の石造りの建物にはあまりにも不釣り合いな、機械的なまでの事務対応。

そのちぐはぐさに小さな違和感を覚えつつも、こうして合理的に組み上げられた仕組みは、日本人である自分には妙に馴染みやすいものだった。


指定された長椅子に腰を下ろし、一つ息をつく。


想像とはだいぶ違う光景だったが、ただぼんやりと待っているのも惜しい。

教えられた通り、椅子の脇に設けられたラックから小冊子を一冊手に取った。


表紙には、『ノヴァ・パトリア市民のための生活ガイドライン ――ようこそ、永久中立国ユーラシア王国へ』と、まるで役所の広報誌のような堅い書体で題名が刷られている。


開いてまず目に飛び込んできたのは、首都ノヴァ・パトリアの詳細な市街図だった。

居住区、商業区、工業区といった区画ごとの特徴が示され、市場や鍛冶屋、宿屋といった生活に密着した施設の位置が色分けされて一目で把握できるようになっている。


ページをめくると、今度はユーラシア王国全体を俯瞰した広域図が現れた。

ノヴァ・パトリアが、王国のほぼ中心に位置する首都であることが読み取れる。


さらに先へ進むと、税の仕組みや、NPCとプレイヤー間の取引に関する基本的な決まり、土地を購入する際の条件など、社会を成り立たせるための規則が、平易な言葉で簡潔にまとめられていた。


「なるほど……。改めて意識したが『国家』という枠組みが、どれほど緻密な土台の上に成り立っているのかがよく分かる」


自分が目指しているのは、誰もが安心して挑戦できる土台――新たな国家の樹立に他ならない。

だとすれば、既存の国家がどのような仕組みで運営され、どのような法によって支えられているのかを知ることは、これ以上ないほど価値のある情報だった。


時間を忘れて文字を追い続ける。


『――番号札、543番でお待ちの方。5番窓口までお越しください』


正面から、不意にその声が響いた。


顔を上げると、カウンターの上に設置された魔力板に「543」の数字が浮かび上がっている。


「やっと呼ばれたか」


小冊子をラックに戻し、手の中の木札を軽く指先で弄ぶ。


待たされた時間は決して短くはなかったが、それに見合うだけの、今後の指針となる情報を得られたのだから十分だった。


裾を軽く払って立ち上がり、5番窓口へと静かに歩を進めた。

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