7.冒険者ライセンス
指定された5番窓口へ歩み寄ると、先ほど入り口で対応してくれた女性とよく似た、かっちりとした制服姿の受付嬢がカウンター越しに微笑みかけてきた。
「冒険者になるためのライセンスの取得で、お間違いないでしょうか」
「ああ。お願いする」
「かしこまりました。では、こちらの書類に必要事項をご記入ください。記入が終わりましたら、窓口の隣に設置されているポストへ投函をお願いいたします」
彼女はカウンターの下から一枚の羊皮紙と、インクの入ったペンを取り出して私の前に滑らせた。
「投函後、こちらで審査をさせていただきます。問題がなければ自動的にライセンスが有効となり、お客様のメニュー欄に『冒険者ライセンス』の項目が追加されますので、そちらでご確認ください。審査にはおおよそ六時間程度かかりますので、その前後にご確認いただければと存じます。なお、記入用のデスクはあちらになります」
「わかった。ありがとう」
羊皮紙とペンを受け取り、少し離れた壁際に設けられたマホガニー調の記入スペースへと足を向ける。
冒険者の登録というファンタジーの王道でありながら、自動的にメニューに追加されるというひどくシステム的で現実的な手続きのギャップに、私は内心で小さく息を吐いた。
デスクに羊皮紙を広げ、視線を落とす。
記入項目は、名前、性別、生年月日といった基本情報から始まり、現在のジョブ、ステータス、そして一番下の端に『IS』とだけ書かれた謎の欄が設けられていた。
「ステータス、か」
先ほどチュートリアルでアイテムを拾った際、視界の端にプロフィールの項目があったことを思い出す。
私は虚空で指を滑らせ、青白い光を放つ半透明のウィンドウを展開した。
『プロフィール』の項目をタップすると、現在の私の詳細な情報が羅列される。
生年月日の欄には、現実世界の西暦とは異なる見慣れない暦が記されていた。
おそらくこの世界独自の暦なのだろう。
正しいのかどうか確認する術はないが、システムが割り出したものならそのまま書き写せばいい。
だが、視線を下に滑らせていった私は、ふとペン先を止めた。
「……そういえば、レベルの記載がないな」
RPGの基本とも言える『レベル』という概念が、どこにも見当たらない。
さらに、書類にもあった『IS』という項目がプロフィール画面にも存在し、そこはぽっかりと空欄になっていた。
「シエル。少し聞きたいんだが」
私が虚空に向かって声をかけると、ポンッという小気味良い音とともに、淡い光の粒子の中からチュートリアル妖精が姿を現した。
「レベルが存在しない理由と、この『IS』という項目について教えてもらえるか?」
「はい、もちろんです!」
シエルは空中でふわりと一回転し、胸を張って答えた。
「まずレベルについてですが、この世界にはそもそもレベルという概念がございません! 理由といたしましては、この世界では『戦うこと』だけがメインではないからです。もしレベルが存在してしまうと、戦闘職ではない生産職や商人の方がレベルを上げられないという状況が発生してしまいますよね?」
「なるほど……」
「ですから、代わりに『熟練度』が存在するんです! あらゆる行動で熟練度が上がり、それによって入手したスキルポイントを消費して、好みのスキルツリーを伸ばしていく。そうすることで、唯一無二のユニークなご自身が出来上がっていくというシステムになっています!」
私は顎に手を当て、深く頷いた。
どんな生き方を選んでも、それが正当に評価される。
誰もが平等に挑戦できる「土台」としては、これ以上ないほど理にかなった仕様だ。
戦闘を強制されることなく、自分の役割に専念できるのであれば、国家運営という道も十分に現実味を帯びてくる。
「また、ISについてですが、これはこの世界に存在する極めて独特なスキルの略称です!」
シエルが小さな人差し指を立てる。
「一般的なスキルツリーとは完全に切り離されたもので、特定のシナリオをクリアしたり、特定の行動をとったりすることで獲得できるユニークスキル……それが『インディペンデンス・スキル』、通称ISとなります! 説明は以上です!」
「ありがとう、助かった」
「いえいえー! ではでは!」
元気よく手を振ると、シエルは再び光の粒子となって消失した。
IS――インディペンデンス・スキル。
わざわざ別枠として区別されているということは、それだけ強力、あるいは特殊な性質を持っているということだろう。
一つとして同じものがないユニークな代物だからこそ、特別な枠が用意されているに違いない。
今は空欄だが、いずれ手にする機会も訪れるはずだ。
私は思考を切り上げ、ペンを走らせた。
カリカリと羊皮紙を擦る音が、静かな空間に心地よく響く。
必要事項をすべて書き終え、指定された木製のポストへ書類を滑り込ませた。
コトン、と底に落ちる乾いた音が鳴る。
さて、ここから六時間前後はライセンスが発行されない。
クエストを受けられない以上、この集会所に留まる理由はなかった。
それに、ここは市役所のように規律が行き届いており、ひどく静かだ。
期待していた有象無象の噂話や、プレイヤーたちの生きた情報を集めるには不向きすぎる。
私は白のロングコートの襟を正し、踵を返した。
次に向かうべきは、もっと雑多で、人々の熱気が入り混じる場所だ。
集会所の重厚な扉を押し開き、私は再び喧騒の渦巻く首都ノヴァ・パトリアの街へと足を踏み出した。
珍しく後書きを書こうと思います。
今のところ展開としてはあまり進んでおりませんが、のんびりとみていただければと思います!
(一応、この後からは少し進めていこうかなとは思いますものの、世界観の説明などが多くなる都合上、遅いことについてはご理解いただればと…!)
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