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6.集会所

集会所の重厚な扉を押し開くと、外の喧騒が嘘のように吸い込まれ、代わりに静謐で整然とした空気が頬を撫でた。


石造りの豪奢な建築や、行き交う多種多様な種族のプレイヤーたちは、確かにファンタジー世界のそれだ。

だが、床に引かれた動線を示すラインや、等間隔に配置された長椅子、そして奥に立ち並ぶ窓口の光景は、どこか見覚えのある規律感に満ちている。

荒くれ者たちが酒を片手にくだを巻く、いわゆるギルドのような空間を想像していたが、これではまるで――。


「市役所の待合室、だな」


小さく呟いた私の声は、反響することなくすっと空気に溶けた。

その印象を裏付けるように、入り口付近に立っていた女性が小走りでこちらへ向かってきた。

タイトスカートにベストという、近代的な制服をファンタジー風にアレンジしたような衣装に身を包んでいる。


「こんにちは! 本日はどのようなご用件でしょうか」


営業スマイルを浮かべた彼女の問いに、私は静かに答える。


「クエストを受けてみたいというのと、この世界の情報を知りたい」

「わかりました。クエストの受注にはライセンスの取得が必要となりますので、あちらの5番窓口でお待ちください。ただいまお渡しする番号が呼ばれましたら、手続きの後に対応させていただきます」


流れるような口上で案内しながら、彼女はエプロンのポケットから木札を取り出した。


「また、世界の情報についてですが、歴史をお知りになりたい場合は図書館へ。現在の世界情勢については、ご自身で足を運んでお調べいただくのが一番かと存じます。ただ、このユーラシア王国に関する基本的な情報でしたら、待合席に資料がございますので、そちらをお読みになってお待ちいただくのがよろしいかと思われます。では、番号が呼ばれるまでしばらくお待ちください」


「543」と焼印が押された木札を私に握らせ、5番窓口の前の椅子を指し示すと、彼女は一礼して元の定位置へ戻っていった。


中世風の石造りの建物の中で、あまりにも既視感のある事務的な対応。

そのギャップに微かな違和感を覚えつつも、合理的にシステム化されたこの仕組みは、日本人にとっては非常に受け入れやすいものだった。

私は指定された長椅子に腰を下ろし、ふと息をつく。

思っていたイメージとは随分と違ったが、ただ黙って待っているのも時間の無駄だ。私は受付嬢が言っていた通り、椅子の脇に置かれたラックから一冊の小冊子を引き抜いた。


表紙には『ノヴァ・パトリア市民のための生活ガイドライン ――ようこそ、永久中立国ユーラシア王国へ』と、これまた役所の広報誌のような堅苦しいタイトルが印字されている。


中を開くと、まず目に入ったのは首都ノヴァ・パトリアの詳細な市街図だった。居住区、商業区、工業区といったエリアごとの特徴から、市場や鍛冶屋、宿屋といった生活に直結する施設の位置が分かりやすく色分けされている。

ページを捲ると、ユーラシア王国全体の広域マップも載っていた。ノヴァ・パトリアが王国のほぼ中央に位置する首都であることが明確に記されている。

さらに読み進めると、税の概念や、NPCとプレイヤー間での取引における基本的な法整備、さらには土地の購入条件に至るまで、社会を形成するためのルールが大まかに読みやすい形で記載されていた。


「なるほど……。改めて意識したが『国家』という枠組みが、どれほど緻密な土台の上に成り立っているのかがよく分かる」


私が求めているのは、誰もが安心して挑戦できる土台――新たな国家の樹立だ。

そのためには、既存の国家がどのようなシステムで運営され、どのように法を敷いているのかを知ることは、何よりも有益な情報となる。

私は時間を忘れて、その小冊子の記述に目を走らせた。


『――番号札、543番でお待ちの方。5番窓口までお越しください』


不意に、正面から声がこの空間に響いた。

顔を上げると、カウンターの上の魔力板に「543」の数字が光っている。


「やっと呼ばれたか」


私は小冊子を元のラックに戻し、手元の木札を軽く弄んだ。

待たされた時間は決して短くなかったが、その分だけ今後の指針となる有用な情報を得ることができたから良しとしよう。

ロングコートの裾を軽く払い、私は静かに立ち上がると、手続きを待つ5番窓口へと歩みを進めた。

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