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12.初クエスト

窓の隙間から漏れる朝の光が、閉じた瞼を淡いオレンジ色に染めていた。


ゆっくりと目を開けると、木目の残る天井が視界に映る。

シーツの擦れる微かな音、そして窓の外から届く荷車の車輪の音――それらが、ここが現実とは違う世界であることを改めて思い出させた。


「……悪くない目覚めだ」


ベッドから体を起こし、肩を軽く回す。疲労はきれいに抜けきっており、体調は申し分なかった。


ハンガーに掛けておいたロングコートに袖を通し、朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んでから、宿屋『月光の羽休め亭』を後にする。


目指すは、中央広場に隣接する集会所だ。


石畳の通りは、すでに多くのプレイヤーとNPCで賑わい始めていた。

焼きたてのパンの甘い匂いが漂う中、小柄なドワーエルが小走りに駆け抜け、ヒューマンたちが朝の挨拶を交わしている。その光景を横目に、集会所の大きな両開き扉を押し開けた。


「ようこそ、集会所・ノヴァ・パトリア本部へ」


広いエントランスの奥、長いカウンター越しに制服姿の受付嬢が微笑みかけてくる。


「おはよう。昨日ライセンスの発行を終えたばかりなのだが、クエストの受注手順を教えてもらえるだろうか」


「はい、新規の冒険者様ですね。クエストの受注は、あちらの掲示板からご自身のランクに見合った依頼書クエスト・シートを選び、こちらのカウンターまでお持ちいただく形になります。現在はランクEですので、Eランクの印がついた依頼書のみお受けいただけます」


「なるほど。わかりやすいシステムだ」


礼を述べ、示された方向へ足を進める。


壁一面を覆う巨大なコルクボードには、無数の羊皮紙が規則正しく、隙間なくピンで留められていた。

自分の目線の高さに合わせ、Eランクの印がついた束を見ていく。そこには依頼の内容、報酬、達成条件が簡潔にまとめられていた。


『郊外での薬草採集(指定数:20)』 『商業区の荷運び手伝い』 『逃げ出したペットの捕獲』


視線を横へ滑らせながら、小さく息をつく。


どれもこれも、平和的を通り越して、ただの雑用に近い内容ばかりだった。

戦闘スキルやステータスを実戦で試せるようなモンスター討伐の依頼を多少なりとも期待していたのだが、最下級のランクEでは、そうした血生臭い仕事は制限されているらしい。

あるいは、ここが完全な不戦地域として名高いユーラシア王国の首都であること自体、荒事の少なさに関係しているのかもしれない。


わずかな落胆を覚えたものの、すぐに考えを切り替える。


「焦る必要はない。むしろ、この国の『日常』を知るには好都合か」


国家という土台を築くには、そこに暮らす人々がどんな悩みを抱え、どんな生活を送っているのかを知ることが欠かせない。

街の構造やNPCの動き、会話の傾向といった情報を集める目的であれば、これらの依頼も決して無駄にはならないはずだ。


そう割り切って改めて依頼書を眺めていると、一枚の羊皮紙にふと目が留まった。


『人探しのお願い』 依頼主:旧市街の仕立て屋 内容:三日前から行方不明になった見習いを探してほしい。


「人探し、か」


ただの使い走りや採集とは違い、複数の場所を巡って人から話を聞き出す過程が必要になりそうだ。

街の地理や、表には出ない事情を掴むには、うってつけの依頼だと言える。


それに、昨日出会った「彼女」――裏通りで探偵事務所を営んでいるという少女のことが脳裏をよぎった。

この一件が、彼女の力を借りる口実になるかもしれない。


「決まりだな」


羊皮紙をピンから外し、手の中で軽く丸めると、迷わず受付カウンターへと踵を返した。

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