プロローグ
はじめまして。富士候と申します!
VRMMORPGの建国物語を書きたいという欲があったので、書いてみました。
どこかしら読者に刺さってくれると嬉しいです!
アスファルトを打つ雨音が、ひっきりなしに鼓膜を揺らしていた。
傘を叩く雨だれは冷たく、湿った空気が首筋にまとわりつく。
灰色のビル群に挟まれた交差点を歩きながら、私は手元のスマートフォンに視線を落とした。
画面に表示されているのは、私が数年を費やして法整備と資源管理の基盤を組み上げた、ある地方自治体のプロジェクトの白紙撤回を告げるメールだ。
理由は至極単純。
有力なスポンサーの意向にそぐわなかった、ただそれだけだ。
どれだけ緻密に論理を組み上げ、関わるすべての人間が利益を得られる最適解を提示しようとも、現実の社会は一部の権力者の感情や保身で容易くひっくり返る。
「……結局、土台から腐っているというわけか」
ため息とともに白いつぶやきが漏れ、冷たい雨に溶けていく。
どれだけ交渉を重ねても、私の理想は常に「絵空事」として嘲笑われてきた。
国家とは、あるいは組織とは、誰かを支配するためではなく、皆が安心して挑戦できる土台であるべきだ。
だが、この現実世界において、そんなものを築き上げる余地はどこにも残されていない。
自宅のアパートに戻り、濡れたコートをハンガーにかける。
薄暗い部屋のなかで、私はすぐにパソコンの電源を入れた。液晶の青白い光が、乱雑に積まれた専門書の山を照らし出す。
いつも通り趣味であるネットゲームを立ち上げようとしたとき、フレンドからチャットが届いていることに気づく。
『金があるなら、この世界に逃げ出さないか?』
そういったテキストの下に謎のURLが張られていた。
普段はこんな怪しげなURLは開かないが、長年付き合っているフレンドであることと、世界から逃げ出す、この単語は世界に絶望した私にとって助け舟のように見えたのだ。
URLをクリックすると、黒を基調としたシンプルなページの中央には、『Second Era Real Fantasy ―― 参加者募集』という白い文字が浮かび上がっていた。
通称「SERF」。
ネットの深淵で都市伝説のように語られる、究極の完全没入型MMORPGという噂を耳にしたことがある。
地球と同じ面積を持つ広大な仮想現実でありながら、そこは魔法や剣、多様な種族が存在するファンタジーの世界。ゲーム内のAIがすべてのバランスを管理し、プレイヤーの行動や適性を常時分析して、独自のジョブやスキルを自動で生成する。
歩くこと、本を読むこと、誰かと交渉すること。あらゆる行動が熟練度としてカウントされ、生き様そのものが世界の法則に影響を与える。
さらに、現実世界との体感時間は一対十。向こうで十日を過ごしても、現実では一日しか経過しない。
それだけ聞けば、ただの夢のようなゲームだ。
だが、このゲームにはとあることから表になっていない。
『警告:本プロジェクトへの参加は、現実世界における社会的な死を意味します』
『参加条件:現世のすべての未練を断ち切っていること』
それがこの条件だ。
専用の施設へ赴き、カプセルに入って意識をサーバーへ完全移行させる。
現実の肉体は放棄され、法的な手続きを含めて「今ある人生」を完全に捨て去らなければならない。
文字通り、第二の人生としてあの世界に骨を埋める覚悟のある者だけが参加を許されるのだ。
もちろん現代社会の日本ではこのようなゲームは規制されるのがオチだが、そこは法の緩い国でプレイすることでなんとかなっていると聞く。
私はマウスに手を置き、その冷たい感触を確かめた。
このページは通常調べても検索としてはでてこない、いわゆる招待者専用ページということが書かれている。
つまりは、フレンドからこの世界へ招待されたということだろう。
ページをスクロールすると、制限時間とともに、「応募する」のボタンがあった。
推測するに、この制限時間にボタンを押せということだろう。
このボタンを押したが最後、この世界の未練を捨てたとみなされてしまう。
そのことについて、不思議と恐怖はない。
むしろ、静かな高揚感が胸の奥で燻っている。
しがらみも、理不尽な権力も存在しない、まっさらな世界。
そこならば、ゼロから私の理想とする「土台」を創り上げることができるかもしれない。
画面の端にある『同意して応募する』のボタンを、私は迷わずクリックした。
カチリ、と硬い音が部屋に響く。
数秒のロードを挟み、画面には無機質なメッセージが表示された。
『エントリーを受理しました。指定の日時に、以下の座標へ集合してください』
それから一週間後。
身辺整理を完璧に終えた私は、飛行機へ乗り、指定された廃工場の跡地に立っていた。
鉄錆の匂いと、埃っぽい空気が鼻をつく。
薄暗い広大な空間には、すでに数十人の男女が集まっていた。
年齢も性別もバラバラだが、その誰もがどこか現実世界に絶望し、あるいは何かを諦めきったような、特異な光を瞳に宿している。
ぱっと見、誘ったであろうフレンドは見つからなかったが、彼もこのどこかにいることだろう。
「ここが、新たな世界の入り口か……」
やがて、工場の奥から白衣を着た案内人たちが現れ、重厚な金属扉を開いた。
その奥には、SF映画さながらの純白のダイブ用カプセルが整然と並んでいる。
私はコートの襟を正し、静かにその扉へと歩みを進めた。
振り返ることは、もうない。
ここから世界に入り込み、ゲームを始めていく予定です!
更新は不定期ですので、気長に見てくれればと思います!




