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大蜘蛛は愛しの花嫁を溺愛する。  作者: 瓊紗(夕凪.com)


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20/22

大蜘蛛の秘策。


「無事で良かった」

ふゆはが隠れ帯に入ろうとしてくれたのもあるが、お陰でスムーズにふゆはをもみと共に保護することができた。


「うわ~んっ!もみもだよ~~っ!」

そしてふゆはの腕の中のもみを山のヌシ・伊吹いぶきが回収していく。


「それに無事に隠れ帯にも避難できた。よくできたな」


「あの、もみちゃんがいたから、です。しずれも、来てくれて」


「そう言う面ではもみも一緒で良かったかもしれないな。それに願ってくれたのだろう?だから俺も行きやすかった」

ふゆはの気配を辿って行けば、隠れ帯と直接つながったから。


「う、んっ」

ふゆはは緊張の糸が解れたのか、涙ぐむ。


「恐かっただろう?何があった」

ふゆはを保護する直前、攻撃を受けたのが分かったし、蜘蛛脚を展開させたときに思いっきり何かをぶっ飛ばした気がするが。


「そ、れはっ」

ふゆはが口ごもる。


「本当に、ウチのもみを攫うとかどう言うつもり?」

伊吹の目がマジだ。普段は穏やかな山のヌシがマジで怒ってる。


「でも、あの、天狗さんはもみちゃんのことを知らなかったようで」


「は?天狗?それにもみのことが分からないとか死にたいの?」

伊吹がしれっと恐いことを言う。気持ちは分かるが、優しいふゆはの前では抑えろ。あともみもいるのだし。


そして伊吹は後ろに控える天狗たちを見やる。


「いえ、我々はヌシさまの花嫁を攫うなどと!」

「しかも大蜘蛛さまの花嫁さままで!」

天狗たちが一様に頭を低く下げて恭順の意を示す。いくら天狗と言えど、ヌシに逆らうほど馬鹿ではない。


「それに、ふゆはは俺の花嫁であり、フユメが溺愛する孫娘だ」


「あの、フユメさまのっ!?」

天狗たちが絶句している。まぁ、あの蛇爺・フユメは長く生きているが故に、有名でもある。そんな蛇爺が人間を見捨ててウチに来ていることも妖怪の間では段々と知られてきている。


元々は、ホウセンカ姉さんの旦那のイサザさんのために月守家にいついた神聖な蛇だ。そしてイサザさんが婿入りする時に、家族を大切に思うイサザさんのために月守家の守り神になった。


一方でその子孫は長い時を経て、堕落し、破滅寸前だ。イサザさんの思いを受けて、まっとうに生きていたのは、どうやらふゆはだけ。そして蛇爺はイサザさんの子孫であるふゆはに付いてきた。


それは、蛇爺の加護が終了したことを意味していた。イサザさんはそれを悲しんだだろうが、ふゆはのことは喜んでいる。最後の月守の子孫が、ふゆはで良かったと。


話が脱線したが、天狗よりも神通力とやらを操ることができる蛇爺の孫娘に手を出せばただじゃすまされないだろう?


「何かの間違いです!」

「それに消えたとはいえ、天狗が攫った証拠など!」

天狗が地べたに額を付けながらヌシに懇願する。


「あるぞ。俺がふゆはにつけたしおり糸が、霊山に繋がった」

それに俺も、ふゆはを迎えに行ったから。あそこは屋内だったようだが、そこかしらに伊吹が守護する霊山の気配がした。

あと天狗が纏う気も。

そしてしおり糸があったから、あれほど早く迎えに行くことができた。


俺の言葉に天狗たちが唖然とした顔をあげる。


「しおり糸?」

ふゆはが首を傾げる。

「分かりやすく言うとストーキング糸ね!」

「えっ!?」

ちょまっ!急に現れて蜘蛛聞きの悪いことを言うな!ユズリハ姉さん!ふゆはも固まってるじゃねぇかっ!


「しおり糸と言うのは、蜘蛛が迷子になったりしないように付ける目印だ。時に花嫁や大切な相手につけ、その居場所が分かるようにする」


「だからストーキング糸じゃない。私たちもつけたかったけど、そこは旦那のしずれに特別に譲ることにしたわ」


「ふんっ」

ここくらいは、旦那の意地を見せねばな。


「でも気持ち悪かったら解かせるから。お姉さんたちのを付けてあげる」


「おいいぃぃぃぃっっ!!」

早速何つー提案をっ!?


「そんなことは」


「ないのか?」


「あの、守ってくれるためにつけてくれたんでしょ?」


「もちろんだ。しおり糸がいきなり霊山に行ったから、慌てて伊吹の首根っこを掴んだぞ」

「伊吹、さまって、ヌシさま?」


「うむ、そうだ」


「ひどい~~っ!俺だってもみにしおり糸付けてもらってるんだから~っ!あと山のヌシだもの!伴侶が霊山の中に突然入ったことくらい分かるわっ!!俺だって何事かと思ったんだからねっ!?」


「まぁ、もみも一緒に攫われた以上、貴様の嫌疑は晴れた。良かったな」


「まぁねっ!?」

伊吹はもみに頬ずりしながら叫んだ。


「あの、しずれ」

「ん?」

ちょいちょいと、ふゆはが俺の着物の襟をつまんでくる。


「あの、ヌシさまなのに、いいの?」

「ん?問題ない。山のヌシではあるが、虫系妖怪及び大蜘蛛の長の方が影響力は強いぞ。その時は同胞たち総動員で眷属に号令をかける」


「やーめーてーっ!!さすがに霊験あらたかな山でも高位妖怪が詰めてても、山を構成する虫系や蜘蛛、それから微生物たちが一斉に去ると山が死滅するわぁっ!生態系破壊される!しかも最近では爬虫類両生類とも同盟組んでんじゃん!?」

伊吹が吠える。同盟と言うか、何と言うか。まぁ、仲はいいからな。協力してみるのもいいかもしれない。移住先もーー蛇爺に山のヌシをしてもらって新たに作ればいいし。


「やらないでよ?」


「別に貴様は絡んでいなかったのだし本当にはやらんが。それに犯人ならば目星はついているぞ」


「え、そうなの?八つ裂きにしていい?」

伊吹の瞳孔が、開いていた。


「それは山のヌシの貴様の自由だ。だがふゆはの目には入れるなよ」

「うんっ!もみの目にも入れないっ!」


ならば良し。


「それで、犯人って誰よ」


「それなら、俺のふゆはに悪意を持って触れたものだ」

ニヤリとほくそ笑む。


「私に?」


「何か起こらなかったか?」

首を傾げるふゆはに問うてみれば・・・


「そう言えば、着物に手を伸ばされた時、ばちばちっと電流のようなものが走ったような?」


「そうだ。ふゆはの衣には俺の糸を撚りこんだ糸を使っている」

「しずれの?」


「そうねぇ。ホウセンカなら桜菜に自分の糸を練り込んだ糸を渡して、衣や装飾品に使ってもらってるから私たちもね。一応妖力が一番強いのはしずれだから、そこは妥協したの」

と、ユズリハ姉さん。ふっ。まぁな。他にも自分たちの糸を撚りこんだ糸を渡したり、それで作ったものをふゆはにあげているらしいが、ふゆはが身に着けるものについては、俺の糸だ。


「効いただろう」


「はい、助かりました!」


「でもそれ、しずれのお尻から出た糸だよね?」

伊吹が、余計なひとことを告げ、ふゆはが固まる。


「もみ、コイツに糸は提供するな」


「う!」

もみに告げれば、もみも了承したと頷く。


「いやああぁぁぁぁぁっっ!!やめて~~っ!俺は着衣ももみに包まれたいのにぃっ!もうそんなこと言わないから許してぇっ!俺はもみのお尻から出た糸も、だいっすきだからああぁぁぁぁぁっっ!!」

ぶっちゃけ、ロリコンよりもヤバい性癖暴露してないか、コイツは。


「まぁ、反省しているようなら考えてあげてもいいんじゃない?」

と、ユズリハ姉さん。


「ん」


「うぅっ!もみが蜘蛛たちの意見の方優先する~っ」


「そりゃぁ、蜘蛛妖怪だからな」

「お姉さんとしての当然のアドバイスよ」

俺とユズリハ姉さんの言葉に伊吹ががっくりと首を落としながらも、もみの糸は欲しいとすすり泣いていた。


「それで?犯人目星ついてるって、一体誰?」

そしてしばらくすると気を取り直したらしい伊吹が不意に顔をあげる。


「あぁ、そいつには俺の妖力を帯びた糸が絡まっていることだろう。例え神通力を持っていようと無駄だな。フユメの鱗の粉末も糸を撚るときに入れておいたから」


『鬼―――――っ!?』

天狗どもが叫ぶ。


「いや、オニグモだバカっ!!」

鬼よりは優しいぞ。かなり。鬼の長に比べたらな!!


「それで?そこまでした糸は、どこに絡まっているんだろう?」


「では、行ってみるか。貴様の山へ。山へはそこの天狗どもも連れて行く。山のヌシなのだから、連れて行け」


「ふぅん?まぁしょうがないね」


「この、俺の糸の伸びる先だ」

俺の妖力を帯びた糸が伸びる。


「もちろん」

伊吹はその糸の先に亜空間を出現させると、糸がその先に繋がる。


「では行こうか」

「あぁ」

天狗どもがびくびくする中、俺たちは伊吹の造り出した亜空間への入口をくぐった。







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